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リアクション
喫茶店の後方。
増築されたホールに、若葉分校生と手伝いに訪れた者たちがテーブルや椅子、それから料理を運び込んでいる。
「ほら、差し入れダヨー! ピザ作ってきたよ! ……パッフェルに作ってもらったけど!」
恋人のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)と共に訪れた桐生 円(きりゅう・まどか)は、分校生にピザを入れてきたケースを渡した。
「サンキュー! これ入場者に配るやつ」
代わりに、分校生はパン…の詰め合わせを円とパッフェルに差し出した。
「ありがとー」
「……どうも」
お礼を言って受け取った後、円はパッフェルの手をぐいっと引っ張った。
「パッフェル実は! ボクは視聴覚室を作る手伝いしたんだよ!」
「視聴覚、室……?」
「そう、ホールの2階に設けたんだ。一緒にいこ!」
「うん」
頷いたパッフェルを連れて、ホールの外に設けられた階段を上って、増築された2階へと向かった。
「ぱっふぇる〜。ここがボクがけーかくした、映画館だよ! もぐもぐ」
パンをあむあむ食べながら円は部屋へとパッフェルを案内する。
「文明だよ! ここに文明が来るんだよ! あの塔で前にやった劇みたいな、巨匠がここから出ていくんだよきっと!」
黒くて厚いカーテンを閉めて、光を遮断し円は懐中電灯をつけた。
ごっくん。
とパンを飲み込んでから、超真面目な顔になり映画館の操作室へとパッフェルを連れて行く。
「本命はこれさ。この機械で何か映像を写すと、5分ごと、1/3000秒ずつ『シャウラ・サバゲーショップ』のCMが入るように再生機に細工してあるんだ」
「1/3000秒? それじゃ、見えない……?」
「うん、認識は出来ないんだけどね、サブミナル効果って奴でサバゲーショップに皆が嵌っていくってわけ」
「サブミナル……」
パッフェルは機器を見ながら不思議そうな顔をしている。
「後は通販用のお店のビラを先輩権限で隅っこに置かせてもらっているし、これで多少はせんの……」
「せんの……。せんでん」
「あ、うん。宣伝により、利益が出れば、うん、ウィンウィン関係だよ」
「利害の、一致。円……頭いい」
「うん、2人の未来の為に……! めざせー、パラミタにサバゲーの普及ー!」
円が拳を振り上げ、パッフェルも真似して、円の拳に自分の拳を合せる。
「ファイト……サブミナル作戦ー」
「あ、だめパッフェルそれ、大声でいったら」
「うん、ファイトー……洗脳作戦〜」
「それもダメだって」
「ふふふ……」
悪巧みをしながら、パッフェルは軽く、円は楽しそうに笑うのだった。
ちなみにこの視聴覚室の電源は円が手配したソーラーパネルと発電用の自転車多数だ。
分校生が一丸となって、人力で発電をして視聴者を洗の……いや映像を映し出すという素晴らしい仕組みになっている。
ホールの隣には、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が提案し、作られた建物がある。
大理石の壁に、百合の彫刻が入った場にそぐわない豪華っぽい建物だ。
「こちらには更衣室があります」
「……え!?」
更衣室という甘い言葉と、雰囲気に惹かれてパラ実男子がふらふらと近づいてくる。
「パーティ前に着替える方は、ご利用くださいね〜」
にこやかに言いながら、ロザリンドはパン…フレットを配っていた。
入口で配り、会場に入ってスタッフに配り、参加者に配りまわるそのパン(略)には、更衣室の案内ちょっとと、パワードスーツの魅力や、パワードスーツの扱い方、パワードスーツの写真付きの解説やら、パワードスーツについての情報がぎっしり書かれていた。
「今回の私のパワードスーツは昔の問題点を改善しまして、マスクの口の部分を取り外しできるように!」
ぱこっと口の部分を外すロザリンド。そう、彼女は愛用のパワードスーツを装着し、訪れていた。
「これでパンを食べながら行動も可能ですよ!」
「は、はあ……」
「いや、さすがにパワードスーツ着ながら、パーティは……」
「女の子達をそんな魅力ない格好にすんなよ!?」
「仕事があるので!」
そそくさと人々はロザリンドの側から離れて会場に向かって行った。
「更衣室にパワードスーツはありませんよ〜。ご自由に着替えていただけますよ〜」
パワードスーツはないが、置き場スペースはがっつり確保してある。
勿論、ふつうの着替えのペースもあるし、ドレッサーも複数設けてあるけれど。
「あ、円さん!」
映画館から降りてきた円とパッフェルを発見して、どたどたとロザリンドは近づいた。
「円さんもパッフェルさんも、パワードスーツを着て映画を見たりサバゲーをやりましょう!」
パン…フレットをロザリンドは強引に渡す。
「ロザリン、いつものことだけど、積極的だね。ボク達も負けてられないよ
「対照的な、宣伝方法。性格……出てる」
ぼそっとパッフェルが言った。褒め言葉だ。たぶん。
「さあ、皆さんも楽しく行きましょう!
パワードスーツ、パワードスーツはいかがですかー?
皆さんの安全のために是非パワードスーツの導入を考えてみてくださーい」
どたどた歩き回りながら、ロザリンドは普及活動に勤しむ。
「パワァァァドォォォ!」
一緒になって普及活動をしながら、ふと円は思う。
「パワードスーツサバゲーか……考慮の余地はあるか」
「……あり、だと思う。パーティ、会場で着るよりは」
パッフェルの言葉はもっともだった。
「ロザリンド提案の更衣室の真向かいなんて……まあ、いい運動にはなるけど」
飲み物が入った鞄を手に、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は自分が提案した……もとい、作らせた部屋に入った。
ホールの隣の建物内。喫茶店からは見えない位置にあるその部屋は、豪華な内装となっていた。
テーブルやソファに家具類も亜璃珠が手配した高級品であり、ホテルのスイートルームのような部屋になっている。
「トラップなんてかけておく必要もなかったわね」
ソファーに腰かけて、亜璃珠はふうと息をついた。
亜璃珠自身、この部屋にたどり着くまでにかなりの時間を要した。
というのも、向かいにある更衣室への侵入を防ぐために尋常ではないほどのトラップが仕掛けられていたのだ。
入口には落とし穴、入った途端ゴム弾に襲われ、ワイヤーに足をとられて、床に画鋲がばらまかれたり、バナナの皮が落ちてたり。
ただ、侵入者の抹殺が目的に設けられたものではなかったため、亜璃珠程度の能力者ならトラップにかかっても、ちょっと痛い程度ですんだ。
が、一緒に部屋に来ようとした一般のパラ実生は全滅だった。
……死んだわけではない。念のため。
「姐さん、入れてくれ〜」
「パーティ会場に入りきれないんだ〜」
「姐さんと遊びたいぜぇ〜、ぐふふふ」
突如、部屋の窓が叩かれた。押しのけあいながらパラ実生が顔をのぞかせている。
「仕方ないわね。お土産を持ってきたコは、入れてあげるわ」
言って、亜璃珠は窓を開けて、パン…を持ってきたパラ実生を中に入れてあげた。
「よっしゃー! 飲んで騒ぐぜぇ!」
「カタイこと言う奴はここにはいねーしな!」
入ってきたパラ実生は、亜璃珠に酒を注ぎ、どんちゃん騒ぎを始める。
持ち込んだパン…やドリンクを飲んで、歌ったり、一発芸をしだしたり。
(……ああ、いいわこの、舎弟を集めて、って感じ)
グラスを差し出してワインを注がせながら、亜璃珠は艶やかな微笑を浮かべる。
「ただ、パンのせいでケーキが食べられないのが唯一の不満かしら……」
目の前にある食べ物は、沢山のパン…。
でもまあ、優子が作ったパンだから、それでもいいのだけれど、と。
ほんのり甘いパンを、亜璃珠は口に運んだ。
「……ところで姐さん。更衣室と姐さんの部屋のスペース沢山とったせいで、保健室が作れなかったんだ」
「ここ、兼保健室ってことでいいだろ?」
酔ったパラ実生がべたべた亜璃珠にくっついてきた。
「仕方ありませんわね」
亜璃珠はダークネスウィップを手に立ち上がり、ハイヒールを履いた足を上げた。
艶めかしい太腿が、スリットの間から露になる。
「姐さん……いえ、女王様ー!!」
お楽しみの時間が始まりそうだ。
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