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2024年ジューンブライド

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リアクション

 これから、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)の結婚式が執り行われる。
「いよいよ、だね」
 シルフィアを迎えにきた白いタキシード姿のアルクラントに、シルフィアは静かに微笑みかけた。
「……私、今から本当に幸せよ。これからが本番だけどね」
 袖のないプリンセスラインのウェディングドレスを着たシルフィア。
 レースをふんだんに使ったデザインのドレスに、マリアヴェールを被ったシルフィアの美しい姿を見て、アルクラントが溜め息を洩らす。
「いや、衣装合わせの時に何度もみているが……ため息が出るな」
「そっ、そう? ありがとう」
「綺麗だ、シルフィア。これ以上無い程にね」
 お互いに少し照れながらも、アルクラントとシルフィアは幸せそうに微笑みあった。
「アルク、爺様から手紙来てるわよ」
 エメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)が、手紙を持って二人の元にやってきた。
 アルクラントは、急いで曽祖父から届いた小さな手紙を広げてみる。
『おめでとう、幸せにな。俺が生きてる内に玄孫を見せに来い』
「百過ぎてるってのに元気なもんだわ」
 シンプルな手紙を見て、エメリアーヌが小さく笑った。
「ふふ、まずひとつ祝ってもらったわね」
 シルフィアの言葉にエメリアーヌは頷いた。
「そろそろ時間ね。まあ、司会は……任せておきなさい」
「ああ、よろしく頼むよ」
 エメリアーヌは、アルクラントとシルフィアを見て、ニヤニヤと笑った。
「私はあんたの日記帳、素敵八卦。ある意味ではシルフィアより永く、あんたの事を知ってるんだから。……恥ずかしい過去、晒してやろうかしら?」
「ちょっと待ってくれそれは」
「なんてね。ふふ」
 イタズラっぽくエメリアーヌは笑って、ヒラヒラと手を振りながら会場へと向かっていった。
「私たちも行こうか」
 アルクラントはシルフィアの腕を取って、控え室から出ていった。



 式場には、参列者たちが続々と集まってきている。
「そういえば、あの二人まだ結婚してなかったのよねぇ……」
「ふふ、私もこの話を聞いて思い出しました」
 式場に入ってきた羽切 緋菜(はぎり・ひな)の呟きに羽切 碧葉(はぎり・あおば)碧葉は嬉しそうな表情で、くすくすと笑う。
 受付を済ませた緋菜は、アルクラントたちに合わせてもらえないかと頼んで、こっそりと式場の通路に入らせてもらった。
「アルクラントさん」
「おや」
 少し緊張した面持ちのアルクラントとシルフィアの元に、緋菜と碧葉は挨拶に行った。
「改めて結婚おめでとうね」
「ご結婚、おめでとうございます」
「いや、わざわざありがとう」
 緋菜と碧葉に口々に祝福され、アルクラントとシルフィアは微笑んだ。
「……なんか今更って気もするけどさ。会った時から夫婦みたいなものだと思ってたしね?」
 冗談めかして言う緋菜だが、アルクラントたちのことを心から祝福していることが伝わってくる。
「ありがとう。今日の式を楽しんでいってもらえたら嬉しいよ」
「ありがとう。それじゃあ、また後で」
 緋菜たちと入れ違いに、今度は完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)がアルクラントたちの元にやってきた。
「マスター、シルフィア、おめでとー」
「ありがとう」
「ねえ、ペトラ」
 祝福の言葉を述べるペトラに、シルフィアが少し真剣な表情で話かけた。
「私は今日、シルフィア・ジュニアスになるでしょ?
 ……だから、私の苗字『レーン』を、継いでもらえないかな?」
「……苗字を、継ぐ?」
 不思議そうな表情のペトラ。
「お父さんとお母さんの名前に込められた想いを、継いでほしいの。誰もその名前を使わなくなったら、寂しいもの」
「お父さんとお母さんの、想いか……」
 ペトラはシルフィアの気持ちに納得がいったように、大きく頷いた。
「大丈夫、その祈りは僕が引き受けるよ。僕に苗字って無いしね。もしそれができるんなら大歓迎もの!」
「本当? ありがとう!」
 嬉しそうに微笑むシルフィアと一旦分かれて、ペトラは式場に向かった。
 そろそろ列席者たちも、揃ったようだ。
「ま、堂々と行こう。そうだろう? シルフィア」
「うん、堂々と。誰もが私達の事を夫婦だって言うように」
 ついに、式が始まろうとしていた。