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遠くて近き未来、近くて遠き過去

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遠くて近き未来、近くて遠き過去

リアクション

 
 
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も、此処に至るまで、後方支援で仲間達の治療を主に行って来た。
 怪我よりも、熱と毒にやられる症状が主だったが、出来る限り速やかに、戦線復帰できる状態に戻して送り出す。
 アデリーヌは、治療に専念するさゆみの様子を、気をつけて見ていた。
 さゆみは無理をしている。
 少し前にあった、後輩であった朝永真深の死の件がまだ重く心にのしかかっているのだ。
 仕方ないことだと理解を示しつつ、さゆみが注意力を失ってミスをしないよう、気をつけている。
 パートナーが苦悩を引きずっている時、支えてあげるのが自分の務めだと思うから。
「……大丈夫、大したことないわ、この程度」
「悪いな」
 治療を済ませてそう言うと、ウォーレンは礼を言う。
「おまえら二人が今のところ殿だな?
 このまま俺達が護衛につくから、先に進もう。最深部迄、もう後少しだ」


「まさか――」
 エリシアは、別階層に見えるそれを見て顔色を変えた。
 いないはずでは、そう呟いて苦笑する。
「ええ、五年前の情報ですものね……五百年前は、此処を棲処としていたとしても、おかしくはありませんわ」
 真っ赤な鱗に覆われたドラゴンの、侵入者達を見下ろす目には、凶暴さが溢れている。
 知能を有する種ではないのだろう。
「やり過ごすことは出来なさそうですわね……。撃退できればいいのですけれど」
 地下遺跡群の出口が近い。無視して素通りしても、帰りで困ることになりそうだし、追ってきたら厄介だ。
「助っ人に来ましたっ!」
 歌菜達が駆けつける。
「他の皆さんは、先に向かってください! ここは、私達に任せて!」
 歌菜は、此処に到達した者達にそう言って先に行かす。今はとにかく、最深部に辿り着くことが先決だ。
 このドラゴンを、最深部まで行かせるようなことは絶対にしない。ここで必ず食い止める!

 エリシアが真空波を撃った。
 機先を制したところに飛び込んで、真空斬りでの攻撃。
 そこへ畳み掛けるように、ドラゴンの頭上に、無数の槍が出現した。
 歌菜の歌う旋律に導かれるように、エクスプレス・ザ・ワールドの効果で現れたものだ。
 ドラゴンが、炎のブレスを吐く。
「させませんわ!」
 エリシアが咄嗟に前に出、的になった。
 そして同時に、羽純の踊るような踏み込みに合わせて出現した剣と共に、歌菜の槍が、ドラゴンの頭上から、雨のように降り注ぐ。
「ドラゴンさん、此処は引いてくださいっ!」
 ――アイシャが、どんなに頑張ってきたか、歌菜は知っている。
 彼女を救う為に、何があっても負けるわけには行かない。
(アイシャさんがどうか、未来を得られますように……)
 祈りながら、戦う。

 嘶いたドラゴンが羽を広げ、上層の方へ飛び去った。
 建物の影に見えなくなった後、歌菜はエリシアに駆け寄る。
「大丈夫ですかっ!
 あわわ、羽純くんは見ちゃダメですっ」
 正面から、致死レベルのドラゴンブレスをまともに受けたエリシアだが、全身に火傷を負いつつも、
「ありがとう。大丈夫ですわ」
と笑った。
 炎のブレスであることは予測していた。だからこその的だ。
 火山内部に突入することに備えて、炎熱に対する耐性を重点的に上げていたし、更にルカルカ達からの耐熱魔法による補正もある。
 ただ、服はすっかり燃えてしまって、歌菜はとりあえず自分の上着を掛けてやる。
「とにかく、結和のところへ。予備の服もあったはずです」
 有難う、とエリシアは頷く。
「さあ、もう少しですわ。先に進みましょう」


 エリシア達がドラゴンを撃退した頃、シリウス達も蛇女を撃退したが、双方無傷でとはいかなかった。
 少しの時間はかかったが、結和とさゆみ達を中心とした治療作業も終了する。
 そうして、何とか彼等は、地下遺跡群を抜けようとしていた。
 此処を抜けれて再び洞窟地帯に入れば、あとはもうすぐに、最深部に到達するという。

「ここまでか……」
 熱で、国頭武尊の持っていたカメラがイカれた。
「仕方ねえ。ここからは後で念写だな」
 武尊はテープの無事を確認し、ここからは肉眼での記録に努めることにする。
 ここからがメインイベントだ。逃すわけにはいかない。

 丈二ヒルダ・ノーライフは、最深部のマグマ溜まりの場所には至らず、その直前で魔物の襲撃に備えた。
 大事な場面で、後ろから食いつかれるわけには行かない。
 此処に至って詰めの甘いことにならないよう、二人は警戒を怠らなかった。



 広くなった場所に出た。
「ここなのです」と、ハルカが言った。
 三十人程であれば問題なく立てるが、此処で魔物に襲われることがあれば、戦闘を行うには狭い。
 天井が高く、数十メートル程はありそうで、何処の横穴に魔物が潜んでいるかもしれず、一同は一層緊張を強める。
 適当に平らな足元は、人為的に均されているのかもしれない。
 五千年前から、最大回数でも十回程しか訪れることのない場所だと思われるが、奇特な者がいたのだろう。
 下は崖になっていて、十数メートル程下に、まるで蠢くように、真っ赤な溶岩が蟠っていた。
 耳鳴りがする。
 嘶きか叫び声のようだと思った。
 まるで生き物のよう。
 巨神アトラスとリンクした場所であるのなら、ある意味でそれは間違っていないのかもしれない。

 アイシャを連れて、女騎士達が崖の淵に近づく。
 オリヴィエ達もそれに続き、転落する者が出ないよう、世羅儀が警戒する。
 ハルカは、ぎゅっとオリヴィエの服の裾を掴んでいた。
「さあ、ハルカ」
 促すオリヴィエに、頷く。