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別れの曲

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【休暇】


 2025年の夏。
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、空京の街を歩いていた。
 今年の彼女達は空京大学の三回生だ。大学生活も残り僅かな中、アイドルの仕事もある為、兎に角多忙な毎日だ。前期試験の成績は『ズタボロ』だったが、それでも不可がつかなかっただけ良かったと思うしか無い。

「なんとか留年しないようにしたいですわね……」
 アデリーヌの口からぼそりと出た言葉に、さゆみははげんなりした。
「アディ。折角の夏休み、それに奇跡的に取れた仕事休みなんだから、そういう話は止めましょ」
 何時もツインテールにしている髪を降ろしてだて眼鏡をする、シンプルなところが逆に見つかり辛い変装をしてまでのデートだ。さゆみが今日はただの一日を楽しみたいと握っていたアデリーヌの手へぎゅっと力を込めた丁度そのとき、後ろから二人を呼ぶ声がした。
(――バレた!?)
 と、思わず考えてしまったのだが、振り返るとそこに居たのはサインや写真を求めるファンではなく、よく知った顔が立っていた。

「キアラ!? なんでなんで?」
 飛び跳ね抱きついて――アデリーヌが嫉妬から微妙な顔をしていたが、さゆみは気付かなかった――、再会を喜び合う。周囲の注目を買い始めた事に気付いて、興奮を抑えると、キアラの荷物が目に入った。
「ヴァケーションで、数日だけなんスけどね。さっきこっちに着いたばっかなんスよ。
 予定より早い便乗れたんで、お姉様達とは後で待ち合わせで――」
「なら時間空いてるのね」
 と、その流れで彼女達は少しの間近況を報告し合った。
「私達この前発売したばかりのアルバムが、チャートで二位にランクインしたのよ」
「おめでとう! ジゼルちゃんに聞いてたっス。
 ちゃんと端末にダウンロードしたんスよ」
 キアラが端末の画面に音楽配信で購入した二人のアルバムを表示させる。
「新曲はもう聞いてくれましたの?」
 アデリーヌの質問に、キアラは
「PVつき!」とまた画面を表示する。
「実はあのPVの撮影のときね――」
 ハプニングを自分の端末に入れていた画面でさゆみ自ら解説したり、互いの学校についてなど、歩きながらの会話は尽きない。

「――それで地理学を専攻したら方向音痴が直るかなー……なんて思ってたんだけど」
 さゆみがおしゃべりを止めたのは、キアラの視線がとあるビルの広告パネルに向いていたからだ。
 そこで華やかにポーズしているのは、さゆみとアデリーヌ――シニフィアン・メイデンの二人だったのだ。
「これ、私たちよ」
「何種類かありますの」
「有り難いって言って良いか分からないんだけど、盗まれたりもしてるみたい」
 さゆみがそう教えると、キアラはにんまりと微笑んだ。
「帰ったとき二人が友達なんだって仲間に自慢したいから、地球に轟くくらいどんどんビッグになって欲しいっスね」
 ぷっと吹き出して笑い合った。
「そうだ、ここで水着買って、明日プールにでも行かない?」
「プールかあ、最近プールっていうと訓練ってイメージしかなかったっスからねー……」
「でしたら尚の事ですわ!」
「夏休みはこれからよ」
 残されたあとの日を楽しもうと、さゆみは笑顔を弾けさせる。