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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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 第4章

「工房完成おめでとうございます! アクアさん」
「立派な工房が出来たものじゃの」
「良かったな、本当めでたいぜ」
ザカコも、アーデルハイト、ヘルとアクアにおめでとうを告げていた。ワインのグラスを手に、彼女達と談笑する。
「未来の件はあれからどうなったんだ? 治療薬は広がってる感じか?」
「うん。フィーちゃんがブリュケ君と配って回って、レシピとかも伝えたから良い方向に向かってるみたい。2人は、まだよく色んな未来に行ってるみたいよ。……私も、イディアとブリュケ君はお似合いだと思うなあ……」
 満月達の会話が聞こえていたのか、ファーシーは最後にそう付け加えた。親としても、娘の相手に依存はないようだ。
「フィアレフトは、全部終わったら未来に帰っちゃうつもりなのかな」
「ううん、そのつもりはないみたい。会えなくならないから、良かったかな……」
 エースの問いに、ファーシーは視線を落とし気味にそう答えた。イディアが成長していけば、また彼女に会える。けれど、フィアレフトが成長していく姿も見ていたい、と思ってしまうのだ。
「良い方向に進んで良かったのぉ。初めに話を聞いた時は私も随分と驚いたものじゃが……あれからもう、半年以上経ったんじゃな」
「ええ……早いものですね」
 アーデルハイトの言葉に、ザカコも当時の事を思い出す。薬の効果で愛する彼女に暴言してしまったこともあったが、結婚した今となってはいい思い出だ。
「とりあえずは、解決して良かったです。これからの未来がどうなるかは誰にも分かりませんが、自分達がそれぞれ希望あふれる未来となるように意識して世界を変えていければ良いですね。……確か、ファーシーさんもこのアトリエで働くんですよね」
「うん、そうよ! 色んなアルバイトも楽しかったけど、それも終わりかな」
 ファーシーは明るくザカコに答える。屈託のない彼女の笑顔と、隣のアクアを順に見て、ザカコは数年前を懐かしく思う。
「本当に、初めて出会った時から比べるとファーシーさんもアクアさんも変わりましたね」
「え、そう?」
「……そうですね」
 自覚が無いらしいファーシーとは違い、アクアには自覚があるようだ。
「ファーシーさんは巨大機晶姫で暴れ回ったり、助けたと思ったらつっけんどんな態度だったり……土偶だったり……」
「巨大機晶姫の件は聞いたことがあるのう。……土偶というのはなんじゃ?」
「ファーシーの機晶石の欠片が、土偶に入ったことがあるんだ。そん時、しゃべる土偶みたいになったんだよな」
「そうよ。わたし、ずっと土偶に入ってて退屈だったんだから」
「……え?」
「……ん?」
「……あ、ごめん。一緒になる前のわたしが出ちゃったみたい」
 ファーシーはちらっと舌を出して悪戯っぽく笑った。
「土偶のわたしもわたしだからね。一緒になっても記憶はあるし、土偶の時の気持ちになって話すこともできるのよ」
「それは……初耳ですね……」
 最終回にしてまさかの初出設定である。
「それなら、少し前には犬型ロボットが流行ったみたいですし、土偶型のおそうじロボでも出したら売れるかもしれませんよ……冗談です」
 土偶の気持ちになったのかお怒りの表情になったファーシーを見て撤回する。そして、ザカコは今度はアクアに対して話し始めた。
「自分は、アクアさんが進むのと近い道を考えているんです。だから、アクアさんは先輩といった形になりそうですね」
「……そうなんですか?」
「はい。イルミンスールの生徒会として働きながら、魔法と道具の組み合わせについて勉強や研究を重ねて、その内それを教えられる教師を目指そうかと思っています。昔から道具と組み合わせて使われる術などもありますし、その辺りを研究してより効果が高く、汎用性の高い道を探していけたらなと」
「魔法と道具……確かに、機晶技術に魔法を組み合わせていきたい私の研究と似ていますね……」
「お互いの研究成果を合わせればより良い結果が生まれるかもしれませんし、アクアさんが良ければ定期的に通わせて貰っても宜しいですか?」
 それだけ話を聞けば、アクアとしても断る理由はどこにもない。
「……はい。是非、よろしくお願いします」
「宜しくお願いしますね、アクア先輩」
 ザカコは早速、アクアを先輩と呼んだ。カリンも彼女をそう呼ぶが、勉学関係で先輩と呼ばれるのは初めてで、アクアは少しくすぐったい気分になった。
「皆、色々考えてるのね。エースさんは、これからどうするの?」
 ファーシーに聞かれ、エースは考える。
「俺? 俺はね……」
 メシエのお陰で見た目あまり年を取らないということが分かり、地球に帰る頻度を減らして実家の仕事を廻せるように出来ないか、現在調整を行っていた。
「決済関係だけならそれでいいけど、人脈広げたりの折衝系な事は色々と難しくなるかな……とか、どうしようかなって今考えてる」
「……ふーん……?」
 ファーシーは、よく分かっていないようだ。食事の手を止めて、首を傾げている。だが、アクアは何となく理解出来た――ような気がした。自分は家族がいないからこそ、自由に動けている部分もあるのかもしれない。
「家があるというのも、面倒なものなのですね」
「上流階級だからっていうのもあると思うよ」
 そうして、エースは苦笑する。
「本当はもう2〜3年したら実家に戻って、家督を全て継いで事業を全て任されてって予定だったのだけど。どうしても実際会って話をしてって付き合い方をしないと色々な信頼関係を育てていくのが難しい部分もあって」
 その辺をどうするのかが、難しい所である。
「……つまり、メールの遣り取りだけで仕事が出来ないから、直接会って仕事をする必要もあるってこと? 例えれば、だけど。それで、地球に戻らなきゃいけないけど回数を減らしたい……」
「そんなところかな」
 何とか自分なりに理解したらしいファーシーの回答にマルをつけ、エースはピノとラスに向き直る。
「……と、ピノちゃんも色々とお疲れ様でした。ラスもね」
「うん、ありがとう!」
「おう……」
「ピノちゃんが、色々な動物達と楽しく過ごしていけると良いなと思っているよ」
「それなんですけど……」
 そこで、近くで話を聞いていた大地が、腰を落としてピノに言った。
「ピノちゃん、イナテミスファームに来て働きませんか? 働くというか、生活をするという感じです」
「えっ?」と、ピノの目が丸くなる。「はぁ?」と、ラスの眉がつり上がった。
「何言ってんだよ大地。いくらお前達がいるからって、ピノを1人でそんな遠くに行かせられるか」
「だったら、ラスさんもうちに来ませんか?」
 またまた「はあ?」というラスと、そしてピノに、大地は笑顔で説明を加える。
「おまけや思いつきで言っているんじゃありませんよ。ラスさんは、経済学部を出ていますよね? うちの経営を、管理してもらいたいんです。ピノちゃんと離れたくないなら、ファームの本店とかで。ピノちゃんも、シーラさんからドルイドの事を教わりながらファームの畜産関係で働けば、きっと将来に役立つと思いますよ」
 それを聞くと、ピノの目がきらきらと光った。仕事に興味を持ったらしい。だが、ラスの表情は変わらない。
「……本気か?」
「本気です。2人とも有能だから、ファームとしては欲しいんです」
「有能って……」
 大地には、ファーシーとアクアにもファームに来てほしいという気持ちがあった。機械の管理や開発を担当してもらうのだ。だが、それはいくら何でも節操が無さすぎるだろう。ファーシーとアクアは、工房が完成したばかりなのだから。
「ラスさん達にはラスさん達の生活がありますし、無理にとは言いません。ですが……考えていただけませんか?」
「おにいちゃん……あたし、行ってみたいよ!」
 何を言ってるんだ、という顔のラスにピノは言う。輝いた瞳の中にも真剣な色があり、振って沸いた話に驚きながらも彼は言った。
「……遊びに行くんじゃないんだぞ? 働くっていうことは、傍から見るようなただ可愛かったり楽しかったり、というのとは違うんだ。綺麗な仕事ばっかりじゃないし……それを、毎日やるんだぞ?」
「そんなの、ドルイドを選んだ時に分かってるし、平気だよ! あたしは、少しでも早く動物さん達の手助けをしたいんだよ! その為に勉強できることがあるなら、行きたいよ!」
「……………………」
 ピノと暫く目を合わせ、それからラスは小さく息を吐いた。
「……分かった、いいよ」
「本当!?」
「いいんですか?」
「生活つったって別にツァンダにこだわりがあるわけじゃないし……ピノがこれだけ行きたがってるからな。出納関係なら俺の仕事も楽だろうし」
「そうですか……。ありがとうございます」
 珍しく裏の無い嬉しそうな笑みを浮かべると、大地はアクアとファーシーに目を向ける。
「アクアさん達には、農業用機械の開発を依頼したいんですけど、いいですか?」
「依頼? もちろんいいわよ!」
 ファーシーがぱっと明るい顔になって即答する。アクアにも、断る理由はどこにもない。
「農業用機械、というのは?」
「まずは、小型耕運機でしょうか。どんなものが欲しいか、詳しい事はまた後日お伝えしますね」
「……ありがとうございます」
 自分達の機械を本気で欲しいと思っているらしい大地を前に、アクアは自然に礼を言っていた。多分も何も、これは工房オープン初めての依頼だ。
 少し、嬉しかった。