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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

リアクション

 
 
「さてご主人」
 白熊の着ぐるみ、ゆる族の雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の神妙な口調に、パートナーのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)
「はいっ」
と神妙に答えた。
「俺様達、じいさん探索隊一行に、足りないものは何か解るか?」
「ハルカさんのおじいさんですか?」
「ボケるな!
 違う、それは『ツッコミ』だ!
 ハルカを始めとして、この集団にはボケ役が多すぎてツッコミ役が足りない!
 皆でツッコミポイントで空気読みすぎて、言葉を飲み込んでしまっている!!」
 ベアの力説に、なるほど! と素直なソアは頷く。
 この異常事態に、ベアは急遽、自分のパートナーであるソアをツッコミ役に仕立て上げることにしたのだ。
「……いや、突っ込ませてもらいますが、それはものすごく無理があると思いますよ」
 背後からの冷静な樹月刀真の声があったが。
「今の声は無視していい」
「はいっ」
 ……まあいいか、と成り行きを見守ることにする。
「いいか。
 ボケ役しかいない集団は、いずれ肥大化したボケパワーに押し潰されて瓦解する。
 ご主人みたいな真面目キャラに、徹底したツッコミ役になってもらう必要があるのだ!」
 残念ながら、ベアは心外極まりないけれども出オチでボケキャラだ。
 なので全てをパートナーに託すことにする。
 最大のボケキャラであるハルカと同性で、風呂や寝室へも同行できそうだし。つまりツッコミチャンスは多そうだし。
「目指せ、ツッコミの頂点!」
「頑張ります!」
「頑張るです!」
 意気込むソアの言葉に、続く言葉。
 見ると隣りにいつの間にやらハルカがいる。
「……何を?」
「ハルカ、ツッコミの頂点になるですよ!」
 ……ハルカの頭を、ベアは無言でべしっと叩いた。

「……属性迷子、というか、神出鬼没?」
「刀真……」
 ぽつりと呟いた刀真に、それはボケなのかツッコミなのか、と思った月夜である。

 くまさん、痛いです〜、と言うハルカをベアが追い払い、引き続きソアは真面目に、ツッコミ方法を伝授しようとするベアの力説を聞いていたが。
「……以上だ。頭に叩き込んだか?」
「ベアの握り拳、指短くてかわいいですね」
「そこは突っ込まなくていい!」
 前途は多難そうだった。



 食堂の店員に紹介された温泉は、まさしくイルミンスール温泉、名付けるなら『樹海風呂』という感じだった。
 浴槽自体は岩風呂のようになっているが、床部分には人間が10人以上束になるほどの太さ樹の根があちこちに露出している。
 そして何より感嘆させるのはその広さだ。湯船面積は1,000平方メートルはあるだろうというギネス級の広さである。

「よいしょっと」
 ブラウスのボタンを上から3つまでしか外さず、横着して、被り物の要領で服を脱いだハルカは、ハルカの声に振り向いた者の目を点にさせた。
「なっなっなっ」
 うろたえ切ったその声に振り向けば、そこにいたのはベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)である。
「あれっ? どうしてベアさんがここにいるです?」
 きょとんとしたハルカの言葉に、固まっていたベアが動いた。
「それはこっちのセリフだ――!!!」

 ※ここは男湯脱衣所である。

 脱衣所の外からは野々や津波らの
「ハルカさーん!」
「どこですかハルカさぁん!!」
という切羽詰った叫び声が聞こえてきて、ヤバイと思った。
 相手がハルカとはいえ、このままでは、あらぬ誤解をかけられそうだ。
 とにかく
「ここはハルカの来る場所じゃないから!」
と慌てて男子脱衣所から押し出したベアだったが。

「ベアぁ? 今の叫び声、何……」
 パートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が、ベアの絶叫を聞き付けて、脱衣所の外から声をかけようとしたところと、ばったりと出くわしてしまったのだ。
 尚まずいことに、ベアは慌てていたので、ブラウスを脱いだハルカがブラウスを脱いだままで。
 マナと、更にその向こうでその光景を目撃した野々や津波やナトレヤ達、全員が固まり、そして全員が同時に動いた。

「このケダモノ――!!」
「誤解だあ!!!!」

 雄叫びは、野々に事情を聞かれたハルカが
「気がついたらベアさんが隣りにいたですよ?」
と間違ってはいないだろうが正しくない答えを返して空に消え、誤解が解けることはなかったのだった。


 そんな一騒ぎもあったものの、とにかくお風呂である。
 服を脱ぐのは恥ずかしかったが、一旦決めたら景気良く脱いで、真っ先に浴場に飛び出したセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が声を上げた。
「ひっろーい!」
「素敵なお風呂ですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)も、神秘的な雰囲気の温泉に、おっとりと微笑む。
 これなら、いいリフレッシュになりそうだ。
 女の子なのだから、肌の手入れなどもしっかりとしないとだし。
「ハルカさん、お風呂にもそれを持ち込むのですか?」
 首から下げた巾着を見て、野々が訊ねると、
「勿論なのです」
とハルカは答えた。
 肌身離さず持っている”アケイシアの種”だが、お風呂に入る時もそれは例外ではないようだった。

「は〜極楽極楽ネ!」
 胸が楽ヨ〜とご機嫌でお湯に浸かるレベッカに、無いに等しいハルカが
「楽なのですか」
と訊ねる。
「そりゃ、普段重力と戦ってるからネ! こう見えても楽じゃないのヨ」
 あっけらかんと笑うレベッカに、なるほど、ハルカもいつか重力と戦うです、などと決意に燃えている。
 そんな様子を少し離れたところから眺めて、津波はそっと、ハルカの祖父を見付けた瞬間に、この平穏な旅は終わり、大きなトラブルがハルカに及ぶのではないだろうかと考えていた。
(ハルカのおじいさんが、何らかのトラブルからハルカさんを護るために、自分を囮として移動しているとするなら……)
 ジェイダイトがハルカを放置していなくなった理由を、津波はそんな風に予測を立ててみたのだ。
 トラブルとして考えられる要因は、ハルカの持つ”アケイシアの種”か、またはハルカ自身か。
「ハルカさん」
 だから、一言、言わずにはいられなかった。
「はいです?」
「これから何か大きなトラブルが起きた時には、私達を迷わず頼ってくださいね」
 ぱちぱちと瞬きをし、ハルカはふわりと微笑んだ。
「ありがとうなのです」

 それにしても、とナトレアが周囲を見渡した。
 周囲は巨大な木々に囲まれる樹海の中なわけだが、
「……これ、死角だらけですわよね……」
 暗に、覗き放題なのでは、という意味である。
 男湯と隔てる衝立は勿論あるが、ヴァルキリーや守護天使の前ではそんなもの、ものの役には立つまいし、樹上の枝の影からいくらでも覗けてしまいそうだ。
「店員さんの言ってたのは、このことなのでしょうか」
 大神 愛(おおかみ・あい)が、不安そうに周囲を見渡す。
 道中、”レンジャーものの方が好き”と言ったハルカに対し、
「確かに戦隊モノは素晴らしい! 俺も大好きだ!
 しかし宇宙刑事やライダーシリーズにはそれとはまた違った魅力があってだな!
 孤独ながらも人類の為に無償で戦い続けるヒーロー像というのが、非常に燃えるというかだな!」
「燃えですね!」
「萌えでもいいぞ!
 むしろ若い女性にはその方がよりハマって貰える!」
「萌えですね!!」
 などという、既にザンスカールまでの道中で幾度となく繰り返されたやりとりを繰り広げていた、パートナーの神代 正義(かみしろ・まさよし)は、性別の壁の前に涙を飲んで、ハルカの護衛を愛に任せたのだった。
「天然さんとはいえ、ハルカさんも付き合いのいい良い人ですよね……」
 正義に言われた通り、つかず離れずの位置で、楽しそうに野々に頭を洗ってもらっているハルカを見ながら呟いた愛に、
「あら、愛様も充分、付き合いのいい良い人ですわ」
と、その呟きを聞きとめたレベッカのパートナーのアリシアが言い、それが聞こえたマナが
「あら、君だってすごい付き合いいいって!」
と言い、顔を見合わせた3人は、お互いパートナーに振り回されて大変ですね、いえこれでも好きでやってるんですよ、などと言い合う1コマがあったという。


 ぴくり、と怪しげな視線を感じて突然マナが上空へ顔を上げた。
 お湯の中に隠し持っていたホーリーメイスがざばりと掴み上げられるのを見て、他の者達の間にも緊張が走る。
「不埒な人がいるですかぁ?」
 そう言ったメイベルの横で、セシリアが、光条兵器のモーニングスターを取り出す。
 覗きなどという輩に容赦も慈悲も必要ない。
「――そこネ!」
 気配を感じたところへ、レベッカがアリシアから受け取った光条兵器の銃撃を、スプレーショットで撃ち込んだ。
「……そこねも何も!」
 ピンポイントとはかけ離れた一掃射撃に、気配必要ないんじゃないかとセシリアが叫んだ近くに、バシャンと落下した者があった。
方向は間違っていなかったらしい。
 天誅とばかりに、セシリアはモーニングスターでとどめをさした。


「何をやっているんだ、女湯は……」
 あまりの広さの為に音はよく聞こえてはこないものの、銃撃音は流石に聞こえてきて、ベア・ヘルロットは眉を寄せた。
「覗きでもいたのかもな。勇気のある奴だぜ」
 あの連中の風呂を覗くとはな! と正義が笑う。
 確かに、とベアは背筋に悪寒が走るのを感じた。
覗きの1人や2人ごときに屈する女性陣ではあるまい。
 心配することもないだろう……、と再びお湯に浸かった時。

「いっやあああああああああああああ!!!!!!」

 響き渡る絶叫に、2人は同時に立ちがった。
「不測事態!?」
 ばっ、と変身用のお面を手に走り出す正義に、
「どこに持ってたんだよそれ!!」
と追いかけながらツッコミをいれずにはいられないベアだった。


 ぼとぼとと落ちてきた数人の覗きにとどめをさして縛り上げた時、上空から更に、ひゅるるるる……と音がした。
 どうやら更に上空から、時間差で落ちてくるようだ。
 全く、と呆れ果てて上を見上げると、そこには。

 ばっしゃあああああん、と、水柱を上げて湯船に落ちたのは、人間ではなかった。

 虫である。
 イルミンスールの森には、人よりも遥かに巨大な昆虫が多々いるという。
 そんな巨大な昆虫、に、やがてなりそうな。
 カブト虫なのかクワガタ虫なのか、いずれそういうかっこいい虫になるだろう、しかし現在はまだその幼虫が。

 つまり巨大なイモ虫が。

 水飛沫の中でぐにぐにと蠢き、口にあたる部分にある、毛なんだか触角なんだか触手なんだか解らないものをざわざわと蠢かせ、ぐわっと立ち上がったその白くぬめった巨大な物体を見て、彼女らは絶叫した。

「いっやあああああああああああああ!!!!!!」

「何があった!!? 大丈夫か、皆ッ」
「緊急事態に男女の垣根無し!
 ウェイクアップ! パラミタ刑事・シャンバラン!」
 しかしベアと正義が駆けつけた時、事態は既に収束していた。
 驚愕したのは数瞬で、恐怖に硬直するハルカらを護り、巨大イモ虫にも負けない面々が、同時攻撃でクリティカルヒットを食らわせたからだ。
 むしろ、深刻な事態は今だった。

 ベアと正義が駆け込んだそこには、入浴中の、女性達が。
 たわわに実る、乳が。

「いっっやああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 その絶叫は、イモ虫が降って来た時より数倍大きかった。
「ベアの馬鹿――!!」
「垣根あるわ阿呆――!!」
 男湯と隔てる衝立は勿論あったが、彼等の前ではそんなもの、ものの役にも立っていなかったらしい。
 マナのホーリーメイスとセシリアのモーニングスターによる場外ホームランを浴びつつも、ベアが脳裏で『我が人生に一片の悔いなし……!』と叫んだことは、一生の秘密なのだった。



「――やれやれ、とんだひと騒動でしたね」
 そしてそんな一連の騒ぎも終わり、面白かったですね、みたいな口調で津波が笑顔でそう言って、
「びっくりしたです」
と、ハルカがほっと溜め息を吐く。
「ヒーローさん、ハダカに仮面だったですね」
「そこは見なくていいんです!」
 べし、と真っ赤になりながら、ソアが満を持してツッコミを入れたのだが、周囲には微笑ましい光景だわ、とか思われちゃったりして心外なのだった。

「とにかく、はいこれ、ハルカさん、服を洗濯しておきましたわね。皆様のも」
「わあ! ありがとうなのです」
 野々から差し出された衣服には、ふんわりと柔軟剤までかけられていて、
「えっ、いつの間に全員の服を洗濯してたの!?」
と周囲を驚かせた。