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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)とヴァイシャリーの街にショッピングに出た。
 白い杖を持っていないほうの日奈々の手を、千百合が引いて歩く。
 といっても目が見えない日奈々の面倒を見るため……という雰囲気ではなく、千百合は指と指を絡めて、恋人繋ぎで日奈々の手を引いていた。
「少し寒くない、日奈々」
 千百合の質問にこくんと日奈々は頷く。
「はい……大丈夫……ですぅ……」
「そう。でも、風が当たっちゃうといけないから」
 そう言いながら、千百合は日奈々に肩を寄せる。
 距離が近くなったのを感じ、日奈々は恥ずかしそうに頬を染めた。
 
 2人は仲良く歩き、ブティックに行った。
「あ、これ日奈々に似合うんじゃないかな」
 千百合が選んだのはライトグリーンのワンピースだった。
 それに白いカーディガンを合わせ、日奈々に差し出す。
「きっと似合うと思うよ。来てごらんよ!」
「わかりました……着て、みますぅ……」
 日奈々は素直に頷き、試着室に入った。
「大丈夫ー?」
 カーテンの外から千百合が声をかけると、日奈々の声が返ってきた。
「はい……そんなに難しい着方をしなきゃいけないのじゃ、ないので……平気、ですぅ……」
 しばらくして、日奈々がシャッとカーテンを開けた。
 それを見て、千百合は満足そうな笑顔を見せた。
「うんうん、可愛いし、春らしいよ!」
「春……らしいです……かぁ?」
「とっても春っぽいよ。これで一緒にお花見とか行きたいくらい」
 明るい緑が日奈々の桜色のような薄いピンクの髪に似合い、白いカーディガンとあいまって、いかにも春らしい雰囲気を醸し出していた。
「あ、でもまだちょっと寒いかもだから……」
 すぽんと、千百合は日奈々の頭に帽子を被せた。
「これ……は……?」
 日奈々は手を伸ばし、自分の頭を触ってみた。
 するとそこには、超感覚で生えるリス耳に似たとんがり耳のついたニット帽があった。
「うん、可愛い、可愛い」
「千百合ちゃんに、褒めてもらえると……うれしい……ですぅ……」
 褒める千百合に、日奈々は少し照れながら、はにかんだ微笑を見せたのだった。

 買い物を満喫した2人は、カフェに入り、バレンタインのケーキセットを頼んだ。
「ほら、日奈々、とっても可愛い形だよ」
 千百合は日奈々の手を取り、バレンタインケーキに触れさせてあげた。
 その形が分かると、日奈々は小さな笑顔を見せた。
「ハート型……ですねぇ……」
「うん、ピンク色の可愛いデコレーションもされてるんだよ。バレンタインらしいよね」
「はい、かわいい、ですぅ……」
 日奈々がケーキから手を離す。
 すると、その手にクリームがくっついてしまったのが見えた。
「日奈々」
「……はい?」
 答える日奈々の手を取り、千百合はちゅっと指に口付けた。
「え……」
 そのまま指に少しずつ舌を這わせていく。
 ぺろぺろっと指を舐められ、日奈々は恥ずかしそうに頬を染めた。
 しばらくして、千百合が日奈々の指を唇から離し、ニコッとした。
「うん、綺麗になった」
「ありがとう……ですぅ……」
 顔を赤くしながら、日奈々はフォークでケーキの一口目を取り、千百合に差し出した。
「どう、ぞ……千百合ちゃん……」
 差し出されたケーキを千百合はパクッと食べて、笑顔を浮かべた。
「ありがと、日奈々。後であたしもお礼をしてあげるね!」
「……は、い……?」
 どういうことか分からず、日奈々はきょとんとしたが、千百合が「わー、本当に美味しいね」と楽しそうに食べ始めたので、そのことはすぐに忘れてしまい、2人で仲良くお茶を楽しんだのだった。

 カフェを出た日奈々と千百合はヴァイシャリー湖で一緒に夕日を眺めた。
 2人は肩を寄せて座りながら夕日を眺め……日奈々はぎゅっと千百合に抱きついた。
「日奈々……?」
 顔を向けた千百合の頬に手を当て、日奈々のほうからキスをした。
「私……やっぱり……千百合ちゃんの事……大好き……」
 離れた唇から、そんな言葉が漏れる。
「あたしも日奈々のこと、大好きだよ」
 ぎゅっと千百合が日奈々を抱き返す。
 日奈々は千百合の肩に頭をもたれ、千百合を強く抱きしめた。
「千百合ちゃんが……いなく、なっちゃったら……私…きっと……ダメに、なっちゅう、から……ずっと、一緒にいてね……」
 それに答えるように、千百合も強くまた抱き返した。
 2人はしばらく抱き合い、日奈々がちょっと離れて、千百合にチョコを差し出した。
「バレンタインだから……千百合ちゃんに……これを……」
 渡されたチョコを受け取り、千百合はちょっといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「あたしからもチョコがあるんだ」
「千百合ちゃんから……も、ですかぁ……」
「うん、はい、日奈々、上向いて」
 ちょっと不思議そうに上を向いた日奈々に、千百合が唇を重ね、口移しでチョコをあげた。
「あ……」
 甘いチョコと甘いキスに日奈々が真っ赤になる。
「あたしも日奈々がいないとダメだから、ずっと一緒にいようねっ」
 千百合はもう一度日奈々を抱きしめ、誓うように言うのだった。