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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

 同じ頃、百合園女学院の家庭科室では女の子達が集まって、チョコ作りをしていた。
「ふふん、みんな驚くがいいさ!」
 合体・チョコレートとレバー!
 こんなものを作るのはもちろん、百合園女学院の入学後にレバーでその名を知られた?桐生 円(きりゅう・まどか)である。
「良かった、円ちゃん楽しそうで」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は円の様子を見て、ホッとした。
 折角のバレンタインなのに、円が興味なさそうなのを心配して、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)と共に、円をチョコ作りに誘ってみたのだ。
 早速、レバーが入っているが……がんばり屋の歩はそれくらいでめげたりしない。
(きっと、ココアパウダーとかで臭みを消したりも出来るはず! あたしあきらめないよ!)
 そして、円を傷つけないように歩は優しく言った。
「うちの学校お嬢様学校だし、貧血起こしたりする子も多いから、レバーは効くかもね!」
「歩くんは貧血になること多い?」
「多いってほどじゃないけど、体調によってはたまにあるよ」
「それなら良かった」
 円は誰かに配れなくてもいいから、歩とロザリィヌにだけは美味しいものを食べさせてあげたいなーと思っていたのだ。
「あつっ!」
 油の代わりにひいたバターの上に、レバーとチョコを乗せて塩コショウを振ったらパチッと何かが跳ねた。
 しかし、円はめげずに奮闘する。
 何か間違った方向にがんばっている気もするが、それについてはつっこんではいけない。
「円ちゃんは好きなチョコレートとかケーキってあるの?」
「……チョコレートケーキ」
 まんまあわせたものを答える円に歩はふむふむと頷き、オーブンを温め出した。
「それじゃ、それを生地に混ぜて、チョコレートケーキ作るろうね!」
「うん、美味しくできるかな?」
「大丈夫。料理は愛情だもん、心を込めて作ればおいしくできるよー!」
「愛情かぁ」
 円は持ってきたワインも奮発して、フライパンの中に掛け入れた。
 もう何をしたいのか分からないが、円としては一つ一つには意味があるのだ。
 一方、ロザリィヌは椅子に座り、2人の様子を見ていたが、歩は彼女も誘った。
「ロザリィヌお姉さま、あたしお姉さまが作ったお料理食べてみたいです。せっかくだから作りましょうよ」
「ボクもロザリーヌおねーさまの料理食べてみたいよ」
「おいしかったら他に校内にいる子にも分けてみません? 料理上手って広まったらきっと人気出ますよー」
 2人に促され、ロザリィヌはチョコ作りに参加した。
 といっても、料理が本当に得意なわけではないのは自覚してるので、溶かしたチョコをわけてもらい、チョコレートスティックを作った。
 プレッツェルにチョコをつけた簡単なものだったが、ロザリィヌはちょっと工夫し、両端ともにチョコがついていないものにした。
「ほーっほっほ、これでゲームが出来ますわ〜♪」
 高笑いするロザリィヌに歩はちょっとイヤな予感がした。
 ロザリィヌは前から円や色んな子とえっちなことをしている。
 確か円には前に浴室で液体を手につけて、ロザリィヌが円の胸を揉みしだいたり、あれこれをしていた。
(これは危なくなったら止めないと……!)
 そう決意した歩だったが、ロザリィヌはそのチョコレートスティックを手に、円に近づいた。
「円、円」
「ん?」
 振り向いた円の口にチョコレートスティックをさし、ロザリィヌがふふっと笑う。
「どちらが多く齧れるか勝負ですのよー!」
 物凄い勢いで齧っていくロザリィヌを見て、円に火がつく。
(勝負かっ!)
 負けられないと思った円がガジガジと一生懸命食べ……。
「いたっ!!」
 うっかりと円がロザリィヌの唇まで噛んだ。
「あ……」
 ロザリィヌが口から話したチョコレートスティックを完食しつつ、円がしまったと思う。
「や、やりますわね、円。気合を感じましたわ……」
「ロザリィヌお姉さま、このチョコレートスティック美味しいですし、ゲームも楽しいのかもしれませんが……ちょっと危険かと」
「そう、残念ですわ、わたくしの人気が加速する、いいアイディアと思いましたのにー…」
 ロザリィヌはいじいじしながら、残ったプレッチェルをチョコにつけ、円たちのケーキの飾りにすることにした。
 そんなこんなでチョコレートが出来上がり……。

「はい、レバー入りチョコレートケーキと、牛肉のワイン風味のチョコ煮です!」
 どうにかこうにか歩が色々とがんばって、円が用意したものとチョコレートを使って、それなりに食べられるものが出来た。
「おー、綺麗ー」
 円が盛り付けられたそれを見て、拍手をする。
「美味しかったら、みんなにも持って行こうね! ん……?」
 歩は扉が開く音がした気がして、くるっと振り向いた。
 しかしそこには誰もおらず、綺麗にラッピングされた包み紙だけが置いてあった。
「なんだろう……、あ、出来たてのうちに食べてくださいね!」
 歩はそう断りを入れてから、その包み紙を開けてみた。
 中には手編みの腹巻とメッセージカードが入っていた。
 幻時 想(げんじ・そう)からのメッセージには……こう書かれていた。
『僕は……貴女が大好きでした。でも……貴女の友人でいようと決めました。これからも、おそらくずっと……永遠の友人になると思います。今まで、ありがとう……』
 バレンタインのこの日に、想は区切りをつけようと思ったのだ。
 何度も何度もカードを書き直して、やっと書けたのがこの文章だった。
「…………」
 歩は悩んだが、想を追わなかった。
 してあげられることがないのに、追うのは半端な優しさだと歩は知っていたから。
 想は今でも身が焦がれるほどに先輩である歩を好きだった。
 でも、好きすぎて、他の人と仲良くしてるのを見るだけで妬いてしまって……この気持ちを持ち続けたら、どうなってしまうか分からないと想は思っていた。
 自分も歩も周囲も焼き尽くすほどの想いが、想は怖かったのかもしれない。
「…………大事に使おう」
 歩はプレゼントを抱え、戻っていった。
 家庭科室の外にいた想は、歩の言葉を聞き、誰にも聞こえない本当に小さな声で呟いた。
「……ありがとう」