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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

「絶対に入って来ちゃダメだよ、シェイド!」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)はパートナーのシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)を追い出し、一人でキッチンにこもった。
「……大丈夫でしょうか」
 シェイドは心配しつつも、ミレイユの意志を尊重し、外で待つことにした。
 ミレイユはシェイドが入ってこないのを確認し、キッチンに材料を並べた。
「よし、と」
 今回作成するのは、ちょっとビター風味なプチチョコタルトだ。
 いつもなら一緒に作るのだけれど、今回はシェイドにあげるので、一人で作ることにした。
 その隣にはチョコチップたちが置かれていた。
 これは、友達やデューイ、ルイーゼにあげるためにつくるチョコチップ入りクッキーのための材料だ。
 シェイドだけがちょっと豪華に特別にプチチョコタルトなのだ。
「シェイドは契約してからずっと面倒を見てくれてるんだから……ちょっと特別だっていいよね」
 誰へ言うとは無しにミレイユの口からそんな言葉がもれる。
 自分の口から出た『特別』という言葉にミレイユはちょっと変な気分になった。
「特別なのかな……シェイド。そこは……そこはやっぱり特別だよね、うん。だって、最初のパートナーだし、ずっとそばにいてくれたわけだし、こうして無事に暮らせていられるのも、シェイドと契約をしてパラミタまで連れて来てくれたからなんだよね」
 ミレイユはジェイドのことを思い、小さく笑った。
「ずっと守ってくれてるしね」
 こういうお菓子もシェイドがいつも美味しく作ってくれる。
 シェイドが作るみたいに美味しくできるといいなと願いながら、ミレイユはまずはチョコチップクッキーから作り始めた。

 一方、シェイドはキッチンの外で気が気でない気分で、ミレイユの様子を窺っていた。
「大丈夫でしょうか、ミレイユは……」
 火傷などしていないといいのですが……と心配になりながら、キッチンの中の音に耳を傾ける。
 ひとまず今のところ、聞こえるのは何かを混ぜる音やオーブンの音などなので、心配はないようだけど……。
 それでもシェイドはミレイユを心配し、キッチンのそばを離れなかった。

 そして、2人はそのままキッチンの中と外で朝を迎えた。
 
「……ミレイユ、ミレイユ」
 体を揺り動かされ、ミレイユが薄目を開ける。
「ん……」
「こんなところで寝ていると、風邪を引くぞ」
「あっ!」
 キッチンの窓から日が差すのが見え、ミレイユは慌てて起き上がった。
「今日、友達に渡さないといけないのに〜っ」
 ミレイユは急いで出かける支度をし、可愛くラッピングした箱をカバンにつめた。
「手伝いますよ」
 シェイドは寝ぼけたミレイユの隣で丁寧に入れていってあげたが、ふと、一つだけ大きさもラッピングも違うものに気づき、手を止めた。
「あ……」
 いかにも特別と言う雰囲気に、シェイドは複雑な気持ちになった。
「それは入れないでいいよ、シェイド」
「え?」
「だってそれ、シェイドの分だもの」
 驚くシェイドにミレイユは微笑を向ける。
「いつも守ってくれてるお礼だよ」
「ありがとう。大事に食べますね」
 たくさんの想いを込めて、シィエドはお礼をいい、ミレイユはそんなシェイドの気持ちには気づかずに、明るく手を振って、出かけていった。

 
「戻ったわよ」
 リリィ・マグダレン(りりぃ・まぐだれん)が部屋に戻ると、その顔の前にさっと大輪の薔薇の花束が差し出された。
 リリィの髪のような、真っ赤な美しい薔薇。
 それを出しだしたジョヴァンニイ・ロード(じょばんにい・ろーど)と薔薇を交互に見て、リリィは睫の長い目を、ジョヴァンニイに向けた。
「なあに、これ」
「その〜、今日はバレンタインだと聞いてな……」
 ジョヴァンニイが顔を赤く染めて、薔薇の陰からチラチラとリリィの様子を窺う。
「ふうん……」
 リリィはその花束の中から一本抜き出し、自分の髪に薔薇を挿した。
「どう?」
「き、きき、綺麗だよ」
「そう。ま、アンタにしては洒落た行事を覚えてるもんね」
 おろおろするジョヴァンニイからひったくるように、さっとリリィがその薔薇の花束を受け取った。
 受け取ってもらえるかとドキドキしていたジョヴァンニイは、リリィがうれしそうに薔薇の香りを楽しんでいるのを見て、ホッとした。
 だが、ホッとしたのもつかの間、くるっとリリィがジョヴァンニイのほうを向き、その瞳を覗き込んだ。
「ああ、そうそう」
「な、何」
「これを忘れるところだったわ」
 リリィは薔薇をいったんテーブルに置き、大きな袋を取り出した。
「その袋はいったい……わっ!」
 何なのかというジョヴァンニイの質問が終わる前に、その頭の上に何かが振ってきた。
「わ、いたっ!」
 ジョヴァンニイは大量に降ってきたそれに驚き、尻餅をついた。
 そして、何が降ってきたのかと手に取ると……それは可愛いラッピングをされたチョコたちだった。
「私からの気持ちよ。受け取りなさい」
 チョコの雪崩を降らしたリリィが一瞬だけ切なそうな顔をしたが、チョコに目をやっていたジョヴァンニイは気づかなかった。
 リリィは薔薇の花束を持ち、表情をいつもの不敵な笑みに戻して、言い放った。
「ソレ、今日中に食べておくことね」
「今日中!?」
 ジョヴァンニイが悲鳴を上げる。
「何言ってるんだよ、こんなにいっぱいどうやって……」
「まずは食べてみることよ。一口食べ始めれば、意外と早いものよ」
 そう言うと、リリィは不敵な笑みのまま小さなチョコをつまみ、それを口に入れ、ためらいも無く、ジョバンニイに口移しでそれを食べさせた。
「……!」
 心の準備がまったく出来ていなかったジョヴァンニイは息が止まりそうに驚いたが、その間に、チョコを口に入れられた。
 口の中にチョコのいっぱいの甘さが広がる中、リリィはすっと唇を離し、ジョヴァンニイを見下ろした。
「な、な…………」
 火を噴くように真っ赤になり何も言えずに口をパクパクさせているジョヴァンニイを見て、リリィはいつもよりさらに不敵に笑った。
「言ったでしょう、私からの気持ちよ。受け取りなさいって」
 ふふふと笑いながら去るリリィを見つめ、ジョヴァンニイは自分の口を手で隠した。
「クソ! またやられた……!」
 だが、自分の指が口に触れると、ジョヴァンニイは先ほどのキスを思い出してしまい、さらに顔を赤くした。
「リ、リリィめ……」
 罵倒のような声を出してはみたものの、まったく声に力が入っていないことに、ジョヴァンニイ自身も気づいていたのだった。