イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

君を待ってる~剣を掲げて~(第1回/全3回)

リアクション公開中!

君を待ってる~剣を掲げて~(第1回/全3回)
君を待ってる~剣を掲げて~(第1回/全3回) 君を待ってる~剣を掲げて~(第1回/全3回)

リアクション


第6章 プリンス
「環菜が突然『プリンス・オブ・セイバー』を求めたのは何故?」
面会を求めたコトノハを、環菜は拒まなかった。
ただ、問いかけに逡巡するように、沈黙を返し。
ミラーショード越しの、感情を隠した冷たい顔。
 見つめ、コトノハは思う。
(「環菜は愛を知らないという。むしろ環菜は誰かを愛したり信じたりすることが、怖いだけなんじゃないかしら?」)
だから仲間を作らず、いつでも切り捨てられる部下を従えているのでは?、とコトノハは思う。
だけど、それではダメだと思うのだ。
パラミタの危機は疑いようのない所まできている。
 それは同時に、地球の危機でもある。
この状況下で、重責を一人だけで抱え込むのは危険だし……哀しかった。
「ねぇ、環菜。あなたの立場と意志の強さは分かるわ。でも、自分1人で抱え込まないで……仲間を信じて欲しいの」
長いようでいて短い沈黙。
その後で、環菜は降参したように口を開いた。
「力が欲しいから」
 それが最初の問いへと答えだと知ったコトノハは、先を促すように首肯した。
「あなた達ももう知ってるわよね? 闇龍の復活を。その為に、闇龍と戦う為に、プリンス・オブ・セイバーが……正確には彼の持っていた魔剣が欲しいのよ」
「魔剣?、それが『プリンス・オブ・セイバー』が持っていた、神に匹敵する力なの? でも、その力で世界を平和に導いたのか、それとも混沌に向かわせたのか、重要な部分が抜けているわ」
「魔剣は彼の力の一つね。勿論、自身もすごい力を持ってはいたけれど、魔剣は女王器の一つでしかないわ。そしてプリンスは魔剣を手に、闇龍と戦い……散ったわ」
「鏖殺寺院に『プリンス・オブ・セイバー』に相応しい者がいた場合は、蒼空学園は鏖殺寺院と手を組むの?」
「いいえ、それは無いわ。あれは牽制よ……魔剣が決して鏖殺寺院を、闇龍に加担した者達を主に選ばない事は、彼らもよく知っているはずだもの」
 カンナは確固たる声で断言した。


「『プリンス・オブ・セイバー』は、かつて女王器の一つである魔剣を手に、闇龍と戦った神子である」
 図書館では沙幸と美海が、引き続き書物を調べていた。
「女王を補佐し、多くの魔剣の使い手を率いて闇龍と戦い。けれど、追い込むは倒す事は出来ず、プリンスはその命を散らした」
 名もなき魔剣、魔剣の中の魔剣、ソード・オブ・プリンス……それら様々な名で呼ばれた彼の愛剣もまた、その際に失われたとされている。
「プリンスって、五千年前の戦いで死んじゃったんだ。で、魔剣も……無くなっちゃったのかしら?」
「沙幸!」
 美海の声音に、沙幸は目を見張る。
 目の前に、ふわりと浮かんだ、一冊の本。
 封印の書。
 そう呼ばれる古き書が、ゆっくりと開く。
 何も無い、その中身。

 封印の書に、その虚空に、文字が浮かび上がる。

 プリンスと魔剣、そして彼に従う魔剣の使い手達は、闇龍と必死に戦いました
 けれど、力及ばず、闇龍の力を受け魔剣は砕け、プリンスは命を落としました
 プリンスを守れなかった魔剣達は嘆き悲しみ、悔みました
 やがて女王様が闇龍を封印し
 魔剣達は眠りにつきました

「魔剣は眠りに就いた?」
「確かに、大戦では今よりずっと多くの魔剣が在ったとされています。今は、一部の魔剣が目覚めている状態、という事でしょうか?」

 プリンスの剣は、砕けました
 けれど、それは死んだわけではなかったのです
 プリンスの遺志を継いだ魔剣は、闇龍の一部を滅ぼそうとしました
 影龍と称されるそれを、浄化しようとしました
 闇龍の力を受け変質した部分は闇に堕ち、復活を目論みました
 更に、影龍の器となった少女を救わんとした封印の巫女の存在
 複雑に絡み合った思惑が、影龍の浄化を阻んだのです


「魔剣が目覚めれば、未だ眠りに就いている数多の魔剣達もまた、目覚めると言われているわ」
 環菜は言って、少し目を伏せた。
「だから、この大会を開いたの? 『プリンス・オブ・セイバー』を継ぐ者を決める為……魔剣を手に入れさせる為に?」
「応えはイエス、そして、ノーよ」
「……どういう事だ?」
 コトノハとルオシンは追及を緩めない。
 知っておく必要が、あるから。
「大会で優勝したとしても、魔剣が主として認めるかは分からないわ。彼女は多分……プリンスしか主として認めないでしょうから」
「じゃあ、この大会は何の為に? ジュジュ達は何の為に命を張ってるの?」
「……影龍を倒し、この学園と世界を救う為に」
 環菜は静かに、告げた。
「闇龍復活と共に、影龍の封印も限界を迎えているわ。このままでは影龍を封じている蒼空学園も崩壊するでしょう」
「影龍を封じている?」
「そう……この蒼空学園はその為にこの場所に建てられたの」


 封印の巫女による、影龍の封印
 強固な筈のそれはある日、揺らぎました
 パラミタと地球が近づき空間に歪みが生じたからでした
 このままでは、異空間が裂け、影龍は再びこの現の世に復活してしまいます
 そうなれば、闇龍とて活発化するかもしれません

「……それで、蒼空学園はこの場所に造られた? 空間への、影龍への、重しの為に?」
 沙幸は茫然と、窓の外を思った。

 影龍の喉元、心臓、四肢の付け根
 蒼空学園を通して打ちこんだ、封印の楔
 それは揺らいだ空間を安定させました
 そしてまた
 集う生徒達の陽の気
 プラスの破動は影龍の存在を力を、削いでいったのです


「打ち合わされる剣戟は魔を払う力となる……真偽はともかく、大会で生み出されるエネルギーを使って、影龍を押さえつける。というか、首に縄を付けたいと言った方がより正確かしら?」
「……首に縄?」
「封印の楔に封印の宝珠を入れる事で、強度の封印空間が出来る。そこに影龍を引きずり出し、浄化する……それが当初の計画だったわ」
 と。
「……来るよ」
 それまで黙っていた夜魅が、ポツリと呟いた。
 虚空を見つめ、感情の抜け落ちた声で。
「あたしと同じモノ。大いなる災いを運んで……来る」