リアクション
第6章 東南部連合
領域完全回復の話はすぐに伝わった。これに伴い、同盟交渉は妥結を見ることとなった。
さすがに疲労困憊の第3師団は警戒に当たる第2歩兵連隊の到着を待って帰還することとなった。さすがに今回はしっかり休むことになっている。状況から当面はワイフェン族の再侵攻も考えにくいことから皆、ゆっくり休もうと安堵している。
列をなして街道を帰還する第3師団。その反対側から馬車の一団が逆方向へと通りかかる。その一団を見るモン族兵の視線は冷たい。ラク族は同盟に参加することとなり、逆に交渉が決裂したワイフェン族交渉団は帰還することになる。あくまでも交渉団であるため、絶対に手を出さないよう通達が行われている。
『ビートル』の操縦席でシートを上げて顔を出している。前面の上部ハッチを開け、そこから顔を覗かせて操縦している。後ろのキューポラでは夏侯が周りを見ており、狭い車内からガイザックは砲塔の脇に座った格好で移動している。この方が上手い空気が吸えるからだ。
そうして横を通り過ぎる一団。何の気なしに見ていたルーであったが、顔が険しくなる。
「……あ、あの男!」
「どうした?」
ルーの様子がおかしいことに気付いたガイザックが振り返る。
「あれ、あの男よ!」
ガイザックもしばらく見ていて目を見開いた。
「あいつ!」
ワイフェン族交渉団の馬車に乗っている者の中に見知った顔があったからだ。戦車部品を奪還したときに見かけた黒幕の男である。この顔を知っているのはルー達だけである。立ち上がろうとしたガイザックを夏侯が制した。
「動くな。悔しいが今は手が出せない」
「くそ!」
馬車は離れていく。
「だからラク族領内を動けたのか!」
知っての通り、ラク族領内は警戒が厳しい。中で動けるのは通行証をもらっている者だけである。通行証は第3師団交渉団だけに発行されているわけではない。ワイフェン族の交渉団にも出されている。なればこそ、警戒の厳しいラク族領内から移動できたと言うことなのだろう。
4月1日。式典が行われた。式典は位置的な関係からモン族の街で行われることとなった。再度各勢力代表があつまり調印が行われるのだ。教導団からは調印代表として当然、師団長の和泉が出ることとなる。今回は後ろについているのはヴァンジヤードだ。オーヴィルは裏方で準備している。各代表が文書にサインして同盟は締結された。正式名称は『シャンバラ東南部連合』である。当初はヴァンジヤードの言う『中南部同盟』の予定であったが文化的、気候的区分で言えばこのあたりは東南部になるからだ。
「始めて……お目にかかります」
「そうなりますね」
ヤンナと和泉は意外なようだが始めて会うこととなった。
「教導団の皆様と手を携えることが出来たことを嬉しく思います」
「ありがとうございます。今後は皆さんと協力してよりよい未来を作れる事を信じております」
二人はそう言って手を合わせた。その二人の姿は第3師団将兵にとっても、各部族の人々にとっても望ましいものであったろう。
そのまま、しばしの間二人は視線を合わせていた。
「……何か?」
笑みのままヤンナは首をかしげる。
「……いえ、失礼しました」
和泉は一礼する。
そうして式典は終了した。連合の成立に伴い、三つの部族はより親密な関係となる。
式典の後、お祝いとして、ほぼ街ぐるみで宴会が行われることとなった。これにはがんばって来た将兵をねぎらう意味もある。(もちろん、教導団だけではなく、参加した各部族将兵も含めてである)
こうなると、こっそり酒に手を出す者も現れる。一応、教導団は学校なので未成年は原則酒御法度である。まあ、飲めないことはない。但し、師団長和泉にズンバラリン、とやられる覚悟があれば、の話だ。多少の料理も出されており、それなりに楽しめる。このあたりは食材自体の生きはいいので結構うまい料理が出る。
あちこちでは各部族の人々や教導団員が飲み食いして大騒ぎしている。航空部隊の者も式典がらみでこちらに来ており、ミスティフォッグに小鳥遊が葡萄酒をついでいたり、張が樽ごと酒を飲もうとするのを麻上とドーラが必死で止めていたり、エニュールが料理に手を伸ばそうとして届かなくて飛び跳ねたりしている。
そんな中、あちこちで波が起きるような動きがある。ヤンナが挨拶して回っているのだ。さすがにシャンバラの人々は慌てて礼をする。ある意味、こういうときに顔を見せてねぎらうのも領主の仕事である。一緒に歩いているのは和泉だ。二人のこの光景は皆にこれからの連合が地球人とシャンバラ人の両方が協力するものであることを暗示しているといえる。
ある程度人がまとまったテーブルを次々回って言葉を掛けて回る。それに従い皆礼をするのでウェーブのように人並みが動くのだ。そうなると教導団員も敬礼を忘れるわけには行かない。何しろ規律にはうるさい和泉が一緒にいるのである。
二人が近づいてきたので慌てて、大岡は加えていた鳥もも肉の丸焼きを押し込むように飲み込んだ。ちょっと苦しそうだ。思わずむせている。
「酒ばかりなのであります。えーと、水は」
金住は水の入った杯を大岡に渡す。それを飲み込んでようやく落ち着いた、と思ったらすでに和泉達が来ている。慌てて二人は敬礼した。
「こちらの二人は若いですが、実績を上げています」
和泉の説明にヤンナは頷き、軽く一礼する。
「皆さんの勇敢な働きに感謝致します……」
そう言ってヤンナは顔をあげた。複雑に編み込んだ長い髪と黒目勝ちの瞳が印象的である。思わず金住の返答はうわずったものになった。
「は、あり、ありがとうございます」
「お若いのですね」
ややしばらく金住はその姿に見とれていた。さすがに美人には弱いようだ。その様子に後ろにいたアラトリウスが無言のまま、ちょっと、後ろから裾をつまんでぐいっと引っ張った。
「健勝さん……失礼ですよ」
そう言ってアラトリウスはなぜか逆八の字に眉を寄せて小声で言った。
「!」
その様子を見たヤンナであったが、突如、膝を落として崩れ落ちた。慌てて、和泉が背を抱き留める。側にいた比島と大岡はすばやく両手を広げて警戒する。
「だ……大丈夫です」
めまいを起こしたような感じである。
「お体の方は」
「いえ、問題ありません。申し訳ありませんでした」
そう言ってゆっくりヤンナは立ち上がるとアラトリウスの方を向いた。
「失礼ですが……顔を良く見せていただけませんか?」
「……私……ですか?」
唖然と問い返すアラトリウスにヤンナは頷く。ふらふらと前に出たアラトリウスの顔をヤンナは両手で包むようにした。しばらくその顔をヤンナは見つめる。
「間違いありません……。貴女は封印されていた方ですね……?」
「わ、……私は……」
ようやく手を離したヤンナは改めてアラトリウスを上から下まで見る。
「かつて女王がいなくなると同時に各地で眠りについた者……復活する女王に力を貸す存在……」
ヤンナは視線を外さずに言った。その言葉は巫女の託宣を思わせる。
「貴女は自分の過去をご存じですか?」
「……いえ……」
アラトリウスは『剣の花嫁』であり、長い間眠りについていた。アラトリウス自身、自分の正確な年齢を知らない……。しかし、只の『剣の花嫁』ではないようだ。
「それは……いわゆる『神子』……という存在ですか?」
ようやく駆けつけた感じの志賀が最近シャンバラのあちこちで出現しつつある存在、聞こえてくる名を上げた。
「そうです。女王復活の鍵ともなる方です。私はそう言った存在を認識できます」
シャンバラ女王、その存在に関わる者が大きく動くとき、ヤンナはそれを感じることが出来る様だ。
この間、ヤンナが病気?になったのはミルザムが女王候補を宣言した時と重なっている。
「……私……私が?」
呆然としたまま、アラトリウスは視線を左右に動かしている。
「御身を大切にしてください……。貴女は多くの人々を救う力となるでしょう……」
ヤンナは静かにそう告げた。
一つの出来事があった。しかしそれがまだどう動くかは解らない。いずれにせよ、今はまだ小さな波紋に過ぎない。果たして大きな輪になるかどうかは今だ誰にも解らない。
いずれにせよ、この地方に一つの存在が確立された。教導団と三つの部族がシャンバラ東南部で総合的な国家づくりを始めたことは大きな前進であると言えよう。
ここにシャンバラ東南部連合が成立したのである。
ゆるくて地獄で食道楽なシナリオ「着ぐるみ大戦争」駆除成功の回です。
またまた遅れてしまいました。今後はやり方をもう少し工夫します。
今回の総評
正直、皆さん、結構ばらばらに考えてますね。読んでいて立ち位置の把握がとっても難しい。
むやみに細かく書いて結局要点がはっきりしない人多し。長ければ良いわけではありません。
最終的に月島・曖浜支隊が突入して作戦成功。ただ、全体として見ると、支隊自体の差よりも、障害物除去が予想より早かった、というかそこがうまくいっていました。正直、園芸鋏でちょっきん!はあんまり人来ないだろうなと思っていたら思ったより多かった。しかもちゃんと支援する人もいる。そのため障害物の素早い撤去の結果、最終的に月島・曖浜隊が早かったと言う結果になりました。
本隊側で月島・曖浜支隊に突入の特命があったわけですが、これって逆に言えば本隊の皆さん全員に「いかにして月島・曖浜支隊を速やかにかつ安全に敵司令部に投入させるか?」という特命が下ったと言うことでもあります。そう言ったことに気がついた人はうまくいってます。
『東南部同盟』に関してはもう少しかっちりした小国家的なものになるかと思いましたが、皆さん割と慎重?それはそれで結果なのでかまいません。
それから、アラトリウスさんが、実は『神子』であったことが判明しました。これは本人も知らなかったりします。
なお、神子についての展開はグランドシナリオで行われるのでそちらをご確認ください。
一応、今回で着ぐるみ大戦争『扉を開く者』は終了です。
ではまた。