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葦原の神子 第2回/全3回

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葦原の神子 第2回/全3回

リアクション

「あら、動きがとまったぁ」
 オリヴィアは、軽身功を使って大太の身体に飛び乗り、武器さざれ石の短刀を使い、肩の関節を石化させる。腕を動かなくさせるためだ。
 ミネルバは、大太の身体と一体となった岩や草木に蜘蛛糸を巻きつける。
「きれちゃうよー」
 せっかくの糸遊びが中断されぬよう、糸を補修する。
 円は、動きの止まった大太の目を狙い、シャープシューターを使い、打つ。
 大太、目を庇おうとするが、関節が石化した腕が動かない。

 ひなが叫ぶ。
「次は腕ですー腕を封じましょー」
 ヒロイックアサルトにより統率力を強化するひな。
 ひなが少し離れた場所にいる、葦原太郎左衛門を見る。
「ァ…ここで八鬼衆を倒すと、どうなるんでしょー、足を動かしただけでこの振動―」
 大太が足を動かすと地面が大きくのたうつ。
 倒れれば、祠の奥に眠るナラカ道人を起こしてしまうかもしれない。

 ロザリンドがひなに問う。
「倒したら一気に押し込みますかー」
「倒したら…」
 なぜか邪悪さが消え、棒立ちとなり攻撃を受けている大太を見てひなが呟く。
 桐生組の攻撃は、今、腕から上に集中している。


「助太刀するぜ」
 いてもたってもいられず駆けてきたのは、月見里さくらだ。光条兵器は艶消し黒刃の日本刀を手に、大太の右足に切りつける。

 猛母との戦いで傷を負った赤城 長門(あかぎ・ながと)が、再び山陵に辿りついたのはこの時だ。
 遠くより垣間見た大太は、形を変えた山陵そのものだったが、近くで見ると人と分かる。
「この男にも苦があるのじゃろうな」
 長門は呟く。


 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、突然、大きな闇の力を感じた。
「巨大な闇の波動が近くにある」
 葦原の地でウィングは、その波動が既に邪悪さを増していることに気付く。
 ウィングは、その波動を追って祠まで来た。
 目の前には、巨大な大太がいる。
「これが噂の八鬼衆か」
 既に戦いは始まっている。
 大太の右足は血に染まり、腕は石化して今にも取れそうだ。首筋や背中の傷口からは血が噴出している。
 さくらが右足を攻撃している。
「邪魔(やま)あれば、崩して進もう、ほととぎす、か。大元へ行くにはでかいおっさんが邪魔だ」
 ヒロイックアサルト、リミットブレイクを使い、肉体と精神の制限を外し、限界までの力を発揮できるようにするウィング。
 強化光条兵器の刃に、トゥーレと爆炎波の強化版を使用、その状態のままで、大太の脚を攻撃する。
 大太の膝がガクッと動く。
 さくらが叫ぶ。
「よし、ここで一気にいくぜ」
 頷くウィング。
「桐生組!気をつけろ!」
 さくらが頭上に声を出す。
 共に攻撃を仕掛けるさくらとウィング。すでに多くの傷をおった大太の右足が折れた。巨体が右に傾く。
 ウィングの乱撃フラッシュブレードが大太の足を再度の攻撃を仕掛けようと構えられたとき、ひなが叫ぶ。
「待ってー、ここでは駄目!」
 博識を駆使して探っていたオリヴィアが叫ぶ。
「決着は、場所を変えてなのだわ。シーマが誘導するわ」
 右目を攻撃によって失った大太は、残った目でシーマを、周りを取りまく複数のシーマを、追っている。

 祠に留まって葦原太郎左衛門と共にいた菅野 葉月(すがの・はづき)は、じっと周辺の地図を見ていた。
「この大男が倒れても被害のない場所は、海岸」
 葉月の結論だ。
 ハイナの援軍は既にこの戦いを遠隔地より見ている。時は無い。房姫の安否を気遣うハイナは大太との戦いに参戦すると隠密をよこした。
 地図を見た太郎左衛門も、葉月に同意する。
「総奉行を護らねば、こちらに来る前に倒せるか…」
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)も博識を駆使している。
「シーマを誰かと重ね合わせてる、誰かとっても大切な人みたい」
「桐生組と若者達に伝えてくれ。八鬼衆・大太を海へと」
 太郎左衛門の言葉に頷く葉月。

 葉月は、地上に残る皆に太郎左衛門の言葉を伝える。
「ウィングはどうしますか、大太が消えれば祠へ房姫を取り戻すため進軍します。その軍のために残ってください」
 祠の波動を追ってきたウィングが、葉月に変わって太郎左衛門の側に残る。
 ニンジャのさくらも連絡役として残る。
 葦原明倫館の長門は、太郎左衛門から直々の文を賜る。この戦いは葦原藩が作り出した災い、そのことを肝に銘じろ。文は長門に道を説いている。長門の揺れる心を見抜いているのだ。

「シーマ・スプレイグ…推して参る」
 シーマがメモリープロジェクターの映像と共に海に向かう。
 桐生組は全力で援護する。
 大太が追う。
 右足は既に利かない。引きずった後は大きな畝になる。
 左手がもげた。
 地面に落ち、大地が揺れる。
 血の雨が各々武器を構える大太の周りを固める皆に降り注ぐ。
「なぜ、戦うのかのう」
 長門が大太に聞こえるよう、声を張る。
「母のため…」
「ここでも母か」
 長門はこの大男の母を思う。
「母に会いたいのじゃのう、なあ、大太」
 大太は答えない。
「おまえ…母とおなじ…かみ…か」
 大太はシーマに問う。
「母とおなじって、どうしてそう思うのですか」
 ロザリンドが静かに問う。
 答えは無い。
 大太の右足が作る畝には血がたまり、川となり、低地へと流れ、海へと続く。
 その血の道を大太は、シーマを追い、動く。
 既に邪気は消えている。愚かな大きな男は、白濁した意識の中でシーマを、想う人と重ねて見る。
 海岸へと来た。
 次第に言葉少なくなる一同。
「シーマ、海にいきましょう」
 ひなが声をかける。
 瀕死の大太、彼の死に場所は大きな身体を隠せる海以外にない。
 シーマを肩に乗せたまま、海へと入る大太。
 沈む瞬間、シーマをロザリンドの小型飛行艇が回収する。シーマは大太の姿が消えるまで、プロジェクターを動かし続けた。
 海が血に染まる。

 疲れ倒れこむシーマをランゴバルトが癒す。
 長門の気持ちは複雑だ。
「自分にも正義があるように相手にも正義があるのじゃろうけんど」
 しかし。葦原明倫館の一員として、八鬼衆は倒さなければならない。

 桐生組は傷を負っている。ヒールで癒し、それぞれの身体に付いた大太の血をふき取る。
 そして。落ちた左手からは、大太の血を養分として既に草木が芽吹いている。