イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション公開中!

【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション


■ヴァイシャリー6
■街
 湖にポツリと浮かぶ小島の小さな洞穴から、次々と小型飛空艇が飛び出し、水面を削りながら街を目指していく。
 街の入り口には既に何人もの観客が待っており、選手が通過するたびに歓声を上げていた。

 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、ほぼ同時にブースト加速を行う。
 しかし、互いの軌道は違っていた。
 ジーベックは真っ直ぐに加速して行ったのに対し、ケイは斜め上へ向かって行った。
 ジーベックの狙いは、消耗した上位陣を弾きながら順位をあげること。そして、ケイの狙いは障害の少ない上方を経由して上位へ喰い込むことだった。
 ボロボロながらもなんとか完走を目指していた黎とメイベルが、ジーベック機の猛追に気づいて、それをなんとか避ける。


 服裾と髪をなびかせ、円とオリヴィアを乗せた小型飛空艇が細い十字路の上空の空気を擦り上げた。
 コースに沿って強引に左折していく。無謀に突っ込んでいくような形での進入。だが、円の手は強烈なスピードを緩めることは無かった。
 事前に何度も練習したコース――
「マスター! 左!!」
「は〜いぃ〜」
 円の声に合わせ、後部座席で立ち乗りになった円とオリビィアが体重を左側へと投げ出す。二人の髪先がインの角を擦って、機体は左通路のアウト奥へと流れた。
 壁が迫る。ズァ、と艇底がわずかに石を削った瞬間、
「よい、しょぉ〜」
 ゆったりとした掛け声と共に、オリヴィアは円の肩を掴んだまま、下半身を壁の方へと投げ、両脚で――ツ、タァンッと壁を蹴り飛ばした。そのまま機体は壁すれすれを滑りつつ、問題の無い軌道を捉えていく。
 オリヴィアはバタバタと少しばかり空中に半身を踊らせてから、また後部座席へと戻り、
「右!」
「は〜いぃ〜」
 今度は右側へと。
 その先を飛ぶアルコリアが、同じように壁を蹴りながらカーブを制していく。
 しかし、次の直線へと出て、円とオリヴィアを乗せた機体は一気にアルコリア、椎名を追い抜き――トップへと躍り出た。
 序盤にミネルバのアシストで溜めていた耐久力は、まだまだ残っている。更に、ぐんぐんと突出していく。


 円たちとほぼ同じラインを取りながら、真口 悠希(まぐち・ゆき)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)を乗せた飛空艇は、イーオン、レロシャン、ネノノを抜き去っていた。
「円ちゃんたちは、なんとか一位が取れそうだって」
 後方でロザリンドたちと連絡を取り合っていた歩が言う。
「じゃあ、後は僕たちで二位を埋められれば……」
 後方から猛追してきているジーベック機の方をちらりと見やる。
「――悠希ちゃん」
 後部座席で悠希を掴む腕を強めた歩の声に、悠希はうなずいた。
「ええ」
 青空の下、影の重なり合った細い道の間を滑り抜けていく。
「カッコいいところ、か……」
 巡の言葉を思い出して、呟く。本当は、勝負を捨ててでも巡や皆と共にゴールしたかった。でも、それはきっと違うのだということは分かっていた。巡や皆の意思、自分に向けられた嬉しい、気持ち。それを、そういったものを、もう見誤ることがあっちゃ、いけないから……だから、こうして先に進んで……勝利を……
「あのね、悠希ちゃん」
 歩の声。
「え?」
「今、巡ちゃんや皆にすごーく感謝してるでしょ? 『色々気を遣ってもらって』。それで、『だからもー、絶対に勝たなきゃー!』とか『失敗できないー!』って肩肘を張っちゃってたり」
「……えと……あの……」
「あとはー、そうだなぁ……『頑張らなきゃ』? ううん……『もっともっと頑張らなきゃ』、かな?」
「…………」
「えへへー」
「へぅあっ!?」
 ふいに、頭をかいぐりかいぐり撫でられた。
 少しだけレースのことを忘れて、ぱちくりと歩の方を見やってしまう。
 歩は、微笑んでいた。
「仲間なんだよ? あたしたちは」
 少しだけ目を細め、「仲間なんだよ」と、もう一度、歩は言った。
 風に髪をはためかせる彼女の後ろには、水路を囲む石積みの街並みと、その先にある、細く眩しい青空の風景が広がっていた。

 そして、ゴール前――
 ジーベックが、レロシャンとネノノを弾き飛ばし、イーオンを抜き、悠希の後方へと迫っていた。
 上方を行くケイがゴールを逆算して急降下へと切り替える。
 悠希が椎名とアルコリアを抜き、ジーベックがアルコリアを弾き飛ばした。
 ラストの直線。
 先んじて、円がゴールラインを超える。ジーベックが椎名を抜き、悠希の後ろを追う。
 空から、ほぼ自由落下してくるようにゴールへ迫ってきているのはケイ。
 そして――

 
 ■結果
1位:【東】桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)(ライト)
2位:【東】真口 悠希(まぐち・ゆき)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)(ライト)
3位:【西】クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)三田 麗子(みた・れいこ)(ヘビー)
4位:【東】緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)(ヘビー)
5位:【東】牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)(ヘビー)
6位:【西】椿 椎名(つばき・しいな)ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)(ライト)
7位:【西】イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)(ヘビー)
8位:【東】藍澤 黎(あいざわ・れい)あい じゃわ(あい・じゃわ)(ライト)
9位:【東】メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)(ノーマル)


リタイア:【東】テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)(ノーマル)
リタイア:【東】ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)(ノーマル)
リタイア:【東】シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)(ライト)
リタイア:【東】七瀬 巡(ななせ・めぐる)(ヘビー)
リタイア:【東】ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)(ヘビー)
リタイア:【東】八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)(ライト)
リタイア:【西】アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)(ノーマル)
リタイア:【東】ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)(ヘビー)
リタイア:【西】ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)神矢 美悠(かみや・みゆう)(ヘビー)
リタイア:【西】緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 瑠璃(しざくら・るり)(ノーマル)
リタイア:【東】レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)(ヘビー)
リタイア:【東】黒マスクネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく))(ヘビー)


「ヴァイシャリーは私には狭すぎましたか……」
 レロシャンは呟いて、細く煙を垂れて横たわる飛空艇に背中を向けた。
 と――。
「どうやらワタシにもそうだったようですね」
 後ろから言われた声に振り向くと、黒マスクの人が立っていた。
「あなたは……」
 言いかけたレロシャンの目の前で、黒マスクが顔に巻いていた黒布を解いていく。そして、覗いた顔に、レロシャンは、少しだけ目を大きくした。
「ネノノ……の顔をした千葉の――」
「違うッッ!」
 ネノノが、ばしーんと布を地面に投げ捨てながら渾身のフォローを吐き捨る。

◇ 
 天津 麻衣(あまつ・まい)が、会場に戻ってきたファウストと美悠の姿を見つけて、駆け寄ってくる。
「ぶ、無事なら無事と早く連絡を!」
「あン? あれしきの事でオレはくたばったりしねぇよ」
 ファウストは、からかうように笑ってから、ぽんっと麻衣の頭に手を乗せ、
「でも、アリガトな、心配してくれて」
 軽く目を細めながら言った。


「おめでとう! 悠希ちゃん!」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、悠希をめいっぱい抱きしめ、心から言った。
「歩さま……ありがとう、ございますっ」
 飛空艇を降り、二人は仲間たちの元へと向かった。
「円ちゃんも、一位おめでとー!」
 そうして、歩は、完走した仲間へと、リタイアした仲間へと一人一人「お疲れ様」の声をかけ、ヒールをかけ、そして、改めて。
「皆、本当にお疲れ様! ね、それじゃ、皆でお疲れ様会しよっか」
「あ、その前に」
 と、皆のゴールシーンまでを撮影していたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がカメラを掲げる。
「せっかくの記念ですから、皆さん全員で、ね? よろしかったら西チ^ムの方もご一緒に」

 その向こうでは、一抱えの綺麗な花束を抱えたメリッサが、楽しそうに手を振りながら会場に戻って来ており、ゆっくりとゴールラインを通過していた。


10位:【東】メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)