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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

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 当主の決意 
 
 
 シャンバラ東西分裂は、様々な場所へ影響を及ぼしていた。
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)もまた、その影響から逃れることは出来なかった。これまで留学していた薔薇の学舎が、東西分裂後はエリュシオン庇護下の東シャンバラ所属になったことにより、エースは自分の身の振り方を考えねばならなくなった。
 先々、戦乱が起こるなど万が一の事態になったとき、エース自身が地球に帰れなくなってしまうのではないかと危ぶんだのだ。
 今はパラミタに留学しているけれど、エースは元々当主の立場にある。
 そうそうふらふらと家外にでる訳にはいかないところを、正式に家の長に就く前に社会勉強として、という名目で留学を許してもらっているのだ。情勢が変わったから帰れなくなりましたでは済まされない。
 そこで同じくパラミタに留学している弟のエルシュと相談し、早急に地球側である西シャンバラ所属の学校に転校することにした。その転校も無事に済み、今はエースはエルシュと同じ蒼空学園に通っている。
 転校の事情は弟のエルシュから実家にメールで連絡が行っているから、家人には周知の事実だ。けれど、一応自分の口からもきちんと言っておいた方がいいだろう。
 そう思って帰省したのだけれど。
「……外出中か。相変わらずだなー」
 多忙な父母は家にはいなかった。
 折角帰ってきたのに、という気持ちの他に、ちょっとほっとしている自分もいる。転校のことを報告したら、危険な情勢が将来予想できるのなら今のうちに帰って来いと言われかねないと懸念していたからだ。
 父母への挨拶は成せなかったけれど、折角実家に帰ってきたのだからくつろごうと、エースは自室に向かった。
 
 エースの部屋は、パラミタでの家に比べると格段に豪華だ。
 その豪華さに、自分も留学を終えて実家に戻ったら、父母と同じように多忙な毎日を送ることになるのだろうとつくづく思う。パラミタでの毎日は、留学の期間が過ぎるまでのひとときの居場所でしかないことを思い知らされる気分だ。
 それでもパラミタで過ごしている日々はエースにとって、とても大切な時間であることにも変わり無い。
 自室でほっと息をつき、そろそろお茶でも欲しいなと思った途端、ドアがノックされた。
「お茶をお持ち致しました」
「ありがとう。さすがだね、エルンスト。今頼もうと思ってたんだ」
「それはようございました」
 茶の用意をしたワゴンを引いてきたのは、ラグランツ家に仕える執事エルンスト・コーエン。金髪碧眼の典型的なドイツ風の容貌を持つ欧州人だ。
 エースが小さい頃は、歳の差10歳のエルンストと兄弟のように育ったが、その頃から彼はエースの教育係でもあった。
 エルンストが几帳面な手つきでいれたお茶は、完璧にエースの好みに沿っている。ほのかに漂うハーブの香りは、旅の疲れをいたわってのことなのだろう。
「うん。やっぱりエルンストのいれるお茶は美味しいね」
 エースはすっかりくつろいで言うけれど、エルンストの表情は硬かった。
 こんなことを言っていいものかどうか。逡巡した後、エルシュから報告を聞いて以来ずっと心配していたことを、エルンストはエースに伝えた。
「このたびのパラミタの情勢、ご両親も大層心配されています。エース様……地球にお戻りになるということは、お考えいただけないでしょうか」
「戻るつもりはないよ」
 エースの答えは、事前に送ってあったメールと同じだ。
「最初に予定していた留学期間が済んだら戻るよ。けど、留学期間中は自由にしていいという約束で家を出ているんだ。それまでは戻るつもりはない」
「やはりそうおっしゃるのですね……」
 エルンスト自身、エースがそう答えるだろうことは予想がついていた。それを承知でなお、エースの身を案じたのだ。
「ああ。このパラミタでの経験は、地球では決して経験できない事象でもある。その経験を積む機会を前に、こちらに戻るつもりはないよ」
 そう断言するエースに、エルンストは内心ため息をついた。
 目の届かぬ危険な地からは、一刻も早く帰ってきて欲しい。それがエースと兄弟のように育ってきたエルンストの本音だ。
 けれど当のエース自身が、その危険をある程度承知した上で得難い経験を積むために残りたいというならば、執事としてその決定を重んじねばならないことも分かっている。色々な経験は、エースをより人として大きく成長させてくれることだろうから。
「皆に心配をかけているのは悪いと思ってる。でも、何かあっても1人じゃないからちゃんとやっていけるよ。俺は大丈夫だから安心して欲しい」
 そうエースに言い切られてしまうと、出来ることはただ1つ。
「我々屋敷の者は、エース様のご無事なお帰りをお待ちしております」
 必ず無事で戻ってきて欲しいとの願いをこめて、エルンストは丁寧に一礼した。