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ゴチメイ隊が行く5 ストライカー・ブレーカー

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ゴチメイ隊が行く5 ストライカー・ブレーカー

リアクション

 
 

空京にて……

 
 
「まったく放送ができないってどういうこと?」
 ラジオ・シャンバラの社内で、シャレード・ムーンが激怒していた。
 ここしばらく電波状態が悪く、細かく機器チェックを続けることで対処していたのだが、ついにまったく放送ができなくなってしまったのだ。それどころか、空京全体で移動体通信や、ネットワークシステムが使用できない状態になっている。
「まさかとは思うけれど、大々的なサイバーテロの可能性もあるわね。でも、目的はいったい何……。ああ、こんなときに報道ができないなんて……」
 本気で、シャレード・ムーンが悔しがる。
「まあ、今さら空京がどうなっても、わたくしが無事ならそれでねえ。むしろ、復興の祖として、崇められるなんてのも素敵だわ」
 事態を把握しているのか、いや、きっと把握していない日堂 真宵(にちどう・まよい)が、陰でこそこそとつぶやいた。シャレード・ムーンに聞かれたらひっぱたかれるのは必然なので、ちゃんと陰でこそこそする。
「日堂真宵、日堂真宵はどこにいるんです!!」
 緊張した空気をさらにとげとげしくするような声が響き渡った。
 現れたのは、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)だ。
「なぜ放送をしないのよ。せっかくテスタメントがすばらしいハガキを投稿したっていうのに、これは誰かの陰謀です。そう、日堂真宵、あなたなら、何か知っているでしょう。さあ、そのあるかないか、やっぱりないやの胸に手をあてて答えなさい!」
 クレーマーと化したベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、日堂真宵に詰め寄った。このどさくさに紛れてのことだろうが、よくここまでお咎めもなしに来られたものだ。
「無理デース。今、電波が止まっていマース」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントをなだめるようにアーサー・レイス(あーさー・れいす)が言った。
「だそうだ。少しは落ち着け」
 つき添いとしてベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを追ってきた土方 歳三(ひじかた・としぞう)が、彼女を軽く押さえつけた。
「通信不能? 愚か者は狼煙のあげ方も知らないのですか?」
 叫ぶベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの言葉に、どう答えていいやら男二人が困惑する。
「狼煙ねえ。いいでしょう。ちょうどいい焚きつけもあるし」
 日堂真宵が、魔道書であるベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体らしき本をちらつかせて言った。
「ひーん、日堂真宵のばぁかぁー!!」
 泣きながら、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが飛び出していく。
「こら、おい、待て、待たんか!」
 困ったものだと、土方歳三がその後を追いかけていった。
「何を騒いでいるの。手がすいてるなら、街宣車に乗って街を巡回してきなさい。最低限のニュースを吹き込んだ物を用意したから、それをスピーカーで流して。同時に、街の様子を詳細に報告。いいわね」
 そう言うと、シャレード・ムーンがアーサー・レイスに音声データの入ったメモリを手渡した。
「あなたはここで待機。こういうときはパートナー間通信だけが頼りなんだから」
 日堂真宵には、局での待機を命じる。
「では、行ってきますデース」
 このままここにいても怒鳴られるだけだと、アーサー・レイスはそそくさと局を出発していった。
 
    ★    ★    ★
 
『こんにちは、シャレード・ムーンです。現在、空京全体で情報網が麻痺しているという事件が発生しています。詳細が分かり次第ニュースとしてお伝えしますので、くれぐれも落ち着いた行動をおとりください。なお、何か御存じの方は、ラジオ・シャンバラまで御一報を。――こんにちは、シャレード・ムーンです。現在……』
 ゆっくりしたスピードで、アーサー・レイスが街宣車を運転していく。
「……そうなんだ。こちらも今パニック状態だ。いったい何が起きているんだか。……なんだって、島が動いているって?」
 三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)とかろうじてパートナー間通話で連絡をとりあったミカ・ヴォルテール(みか・う゛ぉるてーる)が、怪訝そうに聞き返した。
『――くれぐれも落ち着いた行動を……』
「おう、危ないのデース!」
 ゆっくりと車を走らせていたアーサー・レイスは、突然道に飛び出してきたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に、あわててブレーキを踏んだ。
「すみません。今、僕のパートナーが島で大変なことに……」
 慌てふためきながら、コハク・ソーロッドがアーサー・レイスに謝った。
「もともと、勝手に彷徨える島に行ったんじゃ……。えっ、コースが外れた? このままじゃ空京にむかうっ!? ちょっと待て、マスコミの人がいるみたいだから、ちょっと聞いてみる」
 電話回線を維持したまま、ミカ・ヴォルテールがアーサー・レイスの所に駆け寄ってきた。
「すまん、今、いったい……」
「おい、何が起きてるんだ。教えろ!」
 ミカ・ヴォルテールとほとんど同時に、駆けてきた武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が叫んだ。
「意図的に引き起こされた通信障害が起きていマース。犯人はまだ、不明デース」
 ちょっと武神牙竜の勢いに驚きながらも、アーサー・レイスが飄々と答える。
「浮遊島の話はないのか?」
「ああ、それは、僕も知りたいです」
 コハク・ソーロッドが、ミカ・ヴォルテールの言葉を聞いて言った。
「それは何デース?」
 混乱しているなと感じつつ、ミカ・ヴォルテールが、三笠のぞみを交えつつ情報を交換した。コハク・ソーロッドもあらためて携帯で連絡をとれることを思い出して、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と連絡をとる。
「それって、沙幸たちが行っている島のことか。冗談じゃないぞ、それは!」
 西の方をキッと睨み据えて、武神牙竜が言った。
 そんな島が激突してきたら、空京はただではすまない。本来なら、すぐさま対策をとらなければいけないところだが、このサイバーテロのおかげで命令系統はずたずただ。
「島が人為的に動かされているんだったら、なんとしても止める。行くぞ、雅! 説明は後だ」
 武神牙竜が、すぐ近くに小型飛空艇を停めて待っていた武神 雅(たけがみ・みやび)の許に走った。
「待て、闇雲に行っても場所すら分からないだろう。俺が案内する!」
 パートナー間回線を維持したまま、ミカ・ヴォルテールが叫んだ。手に持っていた空飛ぶ箒をクルリと回して素早く飛び乗る。
「僕も、連れていってください!」
 それをコハク・ソーロッドが追いかけた。
「あー、もしもしデース。日堂真宵デースか? 情報が手に入りましたデース。もしもーし……」
 空京を飛びたつ三人を目で見送りながら、アーサー・レイスが日堂真宵に連絡を入れた。
 
    ★    ★    ★
 
「ちょっと、なんです、これは!?」
 局の裏手に飛び出していったベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、物陰で怪しい踊りを踊っているピンクのカバの着ぐるみ姿をしたメカ小ババ様を見つけて叫んだ。
「ゴパ!」
 振りむいたメカ小ババ様が、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントにむけてマペットのような大きな口を開いた。その奥にティザーガンの針がキラリと光る。
「きゃっ!」
 プシュッというエアーの音ともに、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが小さな悲鳴をあげた。
 カキンという音と共に、プローブが刀に弾かれる。
「怪しい奴だな。何者だ!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを片手でかばった土方歳三が、刀をメカ小ババ様にむけながら言った。当然のように返事などない。それどころか、素早くワイヤーを巻き戻して再び攻撃態勢に入ろうとする。
「問答無用というわけか」
 すっと、土方歳三が刀を真一文字に振り下ろした。
「ゴパ……!?」
 メカ小ババ様が、真っ二つになって左右に開いた。直後に、自爆して跡形もなく吹っ飛ぶ。
「これが、騒動の原因か? まだいるかもしれんな。お前は日堂真宵の所へ戻っていろ」
 刀を鞘に収めると、土方歳三は他のメカ小ババ様を探しに動いた。
「あっ、待ってよ、テスタメントも行きますから!」
 そう叫ぶと、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは土方歳三の後を追って走りだした。