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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
薄闇の温泉合宿(最終回/全3回) 薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

リアクション

「良く頑張りましたね。それにしても、こんなに冷えてしまって……」
「はっくしょん、くしゅん……っ!」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)は、沙幸の身体を洗ってあげていた。
 沙幸はコインを手に入れてすぐに、仕切りを飛び越えて川側に下りたのだけれど。
 その川側はテスト中の男性陣がいたために、結局温泉にすぐに入ることが出来ず、岩陰に潜んでいたのだ。
「姿を消したまま、飛び込んでしまえば良かったのに」
「だって、身体汚れたままで、お湯の中に入ったら他の皆に悪いもん……くしゅん」
「仕方ありませんわね。温めながら、洗って差し上げますわ」
 美海は自分の身体をボディソープで泡立てて、沙幸の身体を全身でこすってあげる。
「ふひゃん、くしゅっ」
「うふふ。肌と肌が擦れ合う感覚って気持ちよいですわよね」
「美海ねーさま、やめっやめて……っ」
 柔らかな肢体で体中を一気に洗われて、心地よさに沙幸はなんだか変になってしまいそうだった。
「ほら、温かくなってきましたでしょ?」
 美海は手で沙幸の身体を弄り、丁寧に愛撫していく。
 沙幸は時折小さな声を上げながら頬を染めて、恥じらいにも喜びにも見える顔を見せていた。

「合格したぜ〜! ヒャッハー!」
 ヨルに手を振りながら、ブラヌが更衣室の方へと戻ってきた。
「何番だった!?」
「確か9番!」
「えー、そんなに遅かったの? 援護してあげたのに。何してたんだか〜」
 ヨルがジト目で見ると、ブラヌはばつが悪そうな笑みを見せた。
「いやまあ、ありがとな! ヨルの声のおかげで目が覚めたし〜。とゆーか、可愛い格好してんじゃねぇか」
 もう直ぐ新年だし、華やかにしてみようと、ヨルはアイドルコスチュームを着ていた。
「そお? 格好だけ可愛いって意味だろうけどね」
「いや、格好も可愛いぜ! 5年後には付き合ってやってもいいぞ〜」
「何で上から目線ー! てゆーか、5年後って……」
 自分は何歳に見えているんだろうと思うが、聞いてもむなしいだけだと思うので、ヨルはあえて聞かなかった。……が。
「さすがに小学生と付き合ったら、ロリコンだしな〜」
 ブラヌは真面目にそんなことを言った。
「しょ、しょうがく、せい……」
 ずーんとヨルは落ち込む。
 実年齢はブラヌと殆ど変わらないのに。
「どうした? のぼせたか?」
「まいいや、外見なんてそのうちだよね」
 でもすぐに、ヨルはいつもの明るい笑顔を浮かべる。
「明日はいよいよパーティだね。楽しみ〜。おなか壊してもいいから、たらふく食べるんだ〜」
「よーし、それじゃあらかじめ医務室で薬もらっておいてやるぜ。寝込み正月なんて嫌だろ〜?」
「ふふ、そうだね。でも全種類網羅は絶対するぞー。その後は適当に食えるだけ食うべし!」
 ヨルの言葉に「おー!」とブラヌが拳を上げる。
 そう、明日は今年最後の日、大晦日なのだ。

 テストに参加をしないで、カウントダウンパーティの準備を進めている者達もいた。
 特に当日のキッチンは混み合いそうだから、あらかじめ作っておけるものは、作っておこうと、焼き菓子作りが行われている。
「日持ちさせるために入れたお酒……ちょっと多すぎたかなあ」
 秋月 葵(あきづき・あおい)は、へろへろんと笑い顔を浮かべる。
 身体がなんだか、ふわふわする。ちょっと酔っていることが自分でもわかる。
「ねむくなってきた……。よくねむれるかな……」
 一緒にお菓子作りをしているライナは、ごしごし目をこすっている。
 最近怖い夢を見ることが多いらしく、良く眠れていないとのことだ。
「そうだね。お菓子の国の夢が見れそうだよ。ライナちゃん、一緒に行こう……夢の国へ……」
 ケーキを切っているミルミも、眠そうな目をしていた。
「ああっ、大きさがばらばらだよ」
 ミルミが切ったパウンドケーキを見て、葵の意識がはっきりしていく。
 斜めだったり、途中で切れてしまっていたり、太すぎたり、細すぎたり、全てワケ有り商品としても売れないような形になってしまっている。
「ご、ごめん……でも、味はかわんないからねっ!」
「はちみつとかで、ノリみたいにくっつかないかな?」
 ミルミとライナがおろおろしだすが、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)がすぐに、「大丈夫ですよ」と声をかける。
 もっと小さく切って、ラッピングすれば可愛らしくなりますよと。
「う、うん。そうだよね!」
「ちっちゃい方がたべやすいしね」
 ミルミとライナの顔にはすぐに笑みが戻った。
「2人が作ったパウンドケーキも、そろそろ焼けるよ。これは均等に切って、鈴子団長へのお土産にしようね」
 そして、葵は2人に切り方を教えていく。自分も得意ではないけれど、一生懸命に。
 フルーツの量が多くて、味がしっかりしている方にあわせて、ちょっと薄めに切るといいかもしれないということなども。
 ミルミはナイフを手にこくこく頷き、ライナは透明の袋とリボンを用意して待っている。
 桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)に会うのは、年が明けてからだ。
 来年始めてのプレゼント、喜んでもらえるだろうか。

○     ○     ○


 終了テストが終わり、温泉が混浴の時間に戻った頃。
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、湯着を纏い、パートナー達と共に温泉に浸かっていた。
 合宿所に訪れてから彼は、いない時はないといわれる程に、温泉に入り浸っている。
 とはいえ、担当分の作業はそつなくこなしているし、講義もきちんと受けてはいる。
 残りの時間は全てといっていいほど、温泉に浸かっているだけで……。
 実はテストの時間もいた。ただ、テストには関わらずに、隅の方で温泉と一体化して、まったりのんびりしていたのだ。
「蒼、今日はもう休んでいいですよ。たまにはオフで、ゆっくり温泉を楽しみなさい」
 執事の片倉 蒼(かたくら・そう)にそう声をかけると、エメの世話をするためにお風呂セットを持って立っていた蒼は「ありがとうございます」と、丁寧にお辞儀をして持ち物を岩の側に置き、湯船へと入ってきた。
 湯の中でも、蒼はエメの少し後ろに控えるように浸かっていた。
 エメはくすりと笑みを浮かべ、のんびり空を見上げる。
 星はほとんど見えなかった。
 だけれど、辺りを照らす、ランプの光が幻想的な空間を作り出している。
 耳に響く、水しぶきの音も、とても心地が良かった。
「今年も色々ありましたね……。来年もいろいろでしょうけれど」
 蒼と、それから中央で遊んでいるアレクス・イクス(あれくす・いくす)リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)にも目を向けて微笑む。
「よろしくおねがいしますね」
「よろしくお願いいたします」
 蒼は立ち上がって礼をして、また湯船にゆっくり身を沈める。
 綺麗な蒼の顔が、ほんのりと赤く染まっていく。
 身体は芯から温まっていく……。
「にゃう、にゃう」
 アレクスは湯船に入ってはいなかった。
 抜けた毛が浮くと思われて、他人に嫌がられてしまうかもしれないから。本当は抜けることはないのだけれど。
「つるつるにゃうー。にゃーーーーうーーーーー♪」
 あひるのおもちゃを浮かべてもらい、前足でちょいちょいつっついて遊んだり、石鹸をちょんちょんつっついて床を床を滑ったりして、遊んでいた。
「他の人も滑ってしまいますよ。それに、もったいないですし、石鹸で遊んではダメですよ」
 蒼が優しくアレクスを注意する。
「わかったにゃう。やめるにゃう。石鹸で転んだら危ないにゃうしね。にゃう、にゃう、あひるさんこっちに寄せて欲しいにゃう」
 代わりにあひるのおもちゃに前足を伸ばすが、湯船の中央の方に行ってしまい届かなかった。
「はいよー」
「ん〜、ごろごろにゃうぅ」
 リュミエールがアヒルをアレクスの方に流すと、自らも近づいて、指で喉を撫でたりじゃれさせたりしていく。
「今日は男が多いな」
 そこに、今日の仕事を終えたゼスタが入ってくる。
「面白い人と一緒になったもんだ」
「にゃう?」
 リュミエールはにやりと笑みを浮かべると、ゼスタに近づいていく。
「ゼスタ先輩、人工呼吸の実習はもう終わったの?」
「まだこれから〜。とゆーか、俺んとこに来るやついねぇな」
 ゼスタは軽快な笑い声を上げた。
「じゃあさ、スィートな僕の可愛い仔猫ちゃんが、是非先輩に人工呼吸を教わりたいって言うんだ。教えてあげてくれる?」
「了解! 心臓マッサージもセットで、手取り足取り教えてやるぜ〜」
 そうゼスタが答えると、リュミエールはひょいとアレクスを持ち上げて、ゼスタの方へ向けたのだった。
「仔猫ちゃん……僕じゃ駄目だなんて、つれないこと言うんだ。よろしくね」
「スィートな猫って……」
「教えて欲しいにゃう。ボクの口でもうまく人工呼吸する方法、ないにゃうか?」
 驚くゼスタに、アレクスが真面目に問いかけた。
 途端、ゼスタは大きな笑い声を上げ、ポスポスとアレクスの頭を叩いた後、撫でるのだった。
「はははは……っ。そうだな、マウスピースを使って吹き込めば問題なく出来るんじゃないか〜。いつも入ってるボックスの中に常備しておくといいぞ。お前にしてもらったら女の子も喜ぶと思うなー。俺も別に実習してもいいぞ」
 と言ったかと思うと、ゼスタはリュミエールの手からアレクスを受け取って、着ぐるみの口にちゅっと口づけた。
「ん〜。可愛い可愛い」
「もしかして、猫好き?」
「まーな。このスィートな猫ちゃん、お持ち帰りしちまおうかなー」
「にゃう?」
 きょとんとしているアレクスをリュミエールはぐいっと引っ張って奪い返した。
「さすがにそれは困るかな」
「ご遠慮下さい」
 リュミエールと蒼の言葉に「残念」とゼスタは笑う。
「縫いぐるみでよろしければ、プレゼントさせていただきますよ」
 エメはほのぼのと皆を見守りながら、のんびりとゼスタにそう言った。
「それじゃ、スイーツな女の子付きで頼むな!」
「難しい注文ですね」
 そして、皆で笑い合う。
 楽しくて暖かな、夜のひと時だった。