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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
薄闇の温泉合宿(最終回/全3回) 薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

リアクション

「あの……」
 ロザリィヌの姿が完全に消えてから、歩がゼスタに声をかけた。
 歩はゼスタが優子の身をあまり案じていないことが、気になった。
「ゼスタさんは優子さんのパートナーのアレナさんのことはご存じなんですか? ほら、ゼスタさんに何かがあったら、優子さんだけではなくて、優子さんの他のパートナーも辛い目にあいますし」
 歩は、ゼスタは何故優子と契約したのだろうかと、考えていた。
 ゼスタは出世がしたいのだろうか? でも、パラ実で教師をしていたり、身分、立場関係なく、気軽に話しかけてくれるから、エリートという感じは受けなかった。
 優子が契約を望んだのだろうか? だけれど、彼女が好意を持つタイプではないと思う、し。
 もしかしたら、お互いが特別な存在というわけではなく、2人にとって共通の知り合いが特別などということはないだろうか。
 そんな風に考えて、歩はアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の名前を出したのだった。
「知ってる。十二星華の射手座のサジタリウスだろ? 会ったことはないけどな」
「会ったことはないのですか。でも、もしかして……ゼスタさんが優子さんと契約した理由に、アレナさんも関係あります?」
「勿論。俺が神楽崎との契約を望んだ理由の一つは、彼女が十二星華……いや、アレナのパートナーだったからだ。神楽崎よりも、アレナが気に入った。神楽崎死後、アレナのことは俺が面倒をみてやるぜ」
「死後って……」
「人間の寿命は80年そこそこだが、十二星華や俺らに寿命というものはないからな。ずっと側に置いておくつもりだ。写真や話に聞いた限りでは、かなり好みなんだよな。早く会いたいぜ〜」
 病気や事故や、戦争で命を落とさずとも、寿命はいつか訪れる。
 再会を果たせたとしても、アレナと優子の別れはいつか必ず訪れるのだ。
「そのゼスタさんの気持ち、優子さんは知ってますか?」
「アレナに興味があることくらいは知ってるが、それ以上のことは特に話してない。言う必要もないからなー」
「そうですか」
 歩の心の中は複雑だった。
 彼の言葉からは、悪意や害意は感じられないのだけれど……。
 理解の難しい人だなと改めて思うのだった。
「ちーっす、旦那。今日も可愛い子ちゃんたちに囲まれてご機嫌っすね。あいや男もいるんすねぇ」
 会議室に高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が顔を出す。
 ゼスタが女の子に囲まれて連日果物狩りに出かけているとか、女の子をはべらせてスイーツの試食会をやったとか、そんな話ばかり耳にしていた悠司だが、今日はよく見れば男性も部屋にいる。
 それでもイケメンなだけに、男の味方は少なそうだと思い、性格イケメンな俺が話し相手になってやろうなどと考えつつ、悠司はゼスタに近づいていく。
「学校には男しかいないし、パラ実に顔を出してる時も、好みの女の子は側にいないのだから、こういう時くらい、ね」
 くすりと笑みを浮かべ、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)。それからクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)もゼスタに近づく。
「それとも男性の好みもあるのかな?」
「まー、恋愛対象は女というかスイーツな娘だけど。連むのは男の方が楽だよな。薔薇学の奴等とスイーツな話をしている時も、パラ実生の野郎とバカやってる時もすげぇ楽しいし」
 ゼスタのそんな言葉に頷いて、クリストファーは持ってきた紙コップを皆に配る。
 悠司、黒崎 天音(くろさき・あまね)とパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、ゼスタを中央に、適当にその辺に腰掛ける。
 天音はファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)に頼まれ、彼が外している間ゼスタを護衛しているのだ。
「そのスイーツ愛好会に正式に入会したいんですけれど」
 クリスティーが皆の紙コップに茶を注ぎながら言った。
「おー、大歓迎! ちなみにクリスティーはどんなスイーツが好き?」
「果糖や蜂蜜系の甘みが特に好き。でも、去年の修学旅行の時に、京都で食べた餡子はちょっと合わなかったな……。ゼスタさんは?」
 茶を注ぎ終わり、椅子に腰掛けてクリスティーはゼスタに尋ねた。
「甘いものなら何でも。けど、黒糖の菓子とかはあんまり知らないな。お勧めの店があるようなら、教えてくれよな。今度皆で食いにいこうぜ!」
「はい、空京には結構ありますよ……。ボクも皆さんのお勧めのお菓子、是非いただきたいです。随分前に戴いたあの……クレープのようなお菓子が凄く美味しくて」
「ん? ああ、神楽崎に出したヤツか。あれは素材がいいらしんだ。毎日限定……」
 そんなスイーツの話題を、クリスティーの隣で、クリストファーは軽く笑みを浮かべながら聞いていた。
 クリストファーは今はあまり甘いものを食べない。
 昔は好きだったのだが、契約後に、味覚が変わってしまい、甘い物への感動が薄くなってしまったのだ。
 夢中でお菓子の話をするクリスティーを羨ましいと感じながらも、口を挟まずに見守っていく。
 この体はもともとクリスティーのもの。だけど返すつもりはない。
「皆薔薇学生のようだけどさ、ゼスタセンセーはパートナーが東に残ってるんじゃ、純粋な西側とは言えないよな。龍騎士団ももうすぐ到着するだろうけど、東西どっちのメリットを優先するってもの言い難い立場だろうなー」
 悠司が、深く椅子に腰掛けて、だるそうに発言する。
 そして、もうすぐ行われる会議の話へと移っていく。
「いやもうホント、なーんも意見言えねぇよな。説得力もないし、権限もないようなもんだ」
 ゼスタはお手上げというように、ため息をついた。
「この合宿自体が東シャンバラの思惑で動いてたんだとするなら、龍騎士と西シャンバラの意見を戦わせることによって、東側がユリアナを持って行ける策があったんじゃねーかね。あの龍騎士はあんまり軍人っぽく見えなかったし、西側と顔を合わせてもいきなり戦闘とかにはなりそうもねーしな」
「こっちからふっかけなきゃな。龍騎士を快く思わないヤツは沢山いる。単純に強いヤツと戦うことが生きがいなヤツも、この合宿にはいるからな。つーか、会議とか俺柄じゃないんだよな。うー……」
 ゼスタは本当に現状に参っているようで、眉を寄せて、足で近くの椅子の足を蹴り付けている。
「まあ、今回はもう何も出来ることはないかもしれないけど、また何かあれば、協力しても良いぜ。今の情勢じゃ西で動く駒より東で動く駒の方が貴重だろ。東の残りはお嬢様だしねぇ」
「んー、そうだな」
「随分参ってるようだね」
 紙コップをテーブルに置き、天音が指を組んでゼスタに淡い笑みを向ける。
「何か指示があれば動くけれどどうする? ゼスタ・レイラン」
「面白そうだね。方針を打ち出すのなら、俺も加わらせてもらうよ」
 天音、クリストファーが不敵的な目をゼスタに見せる。
「僕はロイヤルガードじゃないし、イエニチェリを顎で使える機会もそう無いかも知れないよ?」
 天音はノクトビジョンで、顔を隠していく。
「顎で使っていいのか! 色々させてみたいことがあるぜー」
 ニヤリとゼスタは笑う。
「何でもってわけにはいかないけどね」
 天音は口元に笑みを浮かべた。
「俺も出来る範囲で、だけどな。龍騎士殺してこいとかそういう無茶ぶりはきけねーし、自分でやれよって返すけどさ」
「それは殺しが無理なのか、敵わないから無理なのか」
 悠司にゼスタは声のトーンを落としてそう言い、天音、クルストファーに目を向ける。『お前は?』と問いかけるような目を。
「必要ならばそれを行う事を考えるけれど……基本的に僕が最も興味を持つのはその人物の頭の中身だからね。それを損なう行為は、短絡的には行えないな」
「戦闘が発生した際に、龍騎士に剣を向けることは辞さないけど」
「……」
 天音、クリストファーの返答に、ゼスタは軽く頷いた。
「……じゃ、今回はイエニチェリ様の手腕を見せてもらおうかね。何をして欲しいとは言わないが、シャンバラにとって確実にマイナスになることが何なのかは、解ってると思うしな。……あとは会議が終わってから、なんか案がひらめいた時には頼むかもってことで」
 残っていた茶を飲んだ後、ゼスタはにこにこ笑みを浮かべて、天音を見る。
 天音は軽く首を縦に振った。
「それじゃ、行くけど……」
 そして立ち上がってブルーズに目を向ける。
「ふむ。……今回はどうも物々しいな」
 ブルーズも、ぽつりと呟きながら立ち上がる。
「また後で」
 そう言い、ブルーズに目配せをした後、天音は部屋から出て行った。
「む……」
 常に天音の側で彼を護っているブルーズだが、今回は不本意ながらも後を追わず、天音が向かう方向を確認しつつ、ゼスタの側に残った。
 天音の代わりに、彼の監視と護衛を続けるために。