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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第一章

 
 
 クィクモは、シャンバラ地方から訪れる者にとって、コンロンの入口にあたる都市である。コンロン地方では南西部に位置し、パラミタ内海と雲海に挟まれかつては交通の要所でもあった。シャンバラ教導団は飛空艇団を編成し、このクィクモへ、空路からも兵を送り込んでいた。空路からの部隊は、タシガンにおける交渉を成功させ、雲海の雲賊や魔物を切り抜けて陸路より一足早くコンロンに到着した。クィクモの軍閥上部の者たちは、教導団を迎え入れた。戦闘による損傷もあり、飛空艇はクィクモの港に収容され、検査と修理を行うこととなる。
 
 クィクモ港の宿泊施設。教導団員らはここにひとまず身を休めた。到着の翌朝、その中のある一室にて……
(雲賊とのドンパチで撃墜されると思ったが、そこまでヤワじゃないよな。色々と……スリリングな旅の出だしは上々。(あの狐ちゃんには逃げられてしまったようだがね。)面白くなりそうだ。)
 そんなふうに思いながら、ベッドにまだしっかり身を沈めている男、霧島 玖朔(きりしま・くざく)だ。彼の両隣には、ぐっすりと眠っている、ハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)伊吹 九十九(いぶき・つくも)ら霧島のパートナー二人。
「フゥ。なかなか濃厚な一夜だったぜ。雲賊との一戦分は疲れたかな。これからに備え、疲れをとっとかなければならないというのに、な」
 そう言いつつも余裕な様子で霧島が身を起こすと、右隣のハヅキも目を覚ます。
「起こしてしまったか。だがいい時間だぜ。……これがコンロンか、朝でも薄暗い。散歩にでも行くか。教導団が目を付けている地方、どんなところだろうね」
 ハヅキはこくんと頷き、するりと服を身にまとうと朝のティータイムの準備にかかる。霧島も、ゆっくりとベッドから出る。
「む? こいつは……」
 一人残された九十九はまだ、起きそうにもない。
 半刻程のち、霧島らが部屋を出ると、仲間らもぼちぼちと外へ出ており、施設内でくつろいでいたり、中にはクィクモの町へ出かける者もあるようだった。霧島は出兵に志願した傭兵勢に混ざり、ここへ来ている。傭兵たちには今のところ、任務はない。気の荒い連中もいるので問題を起こさないよう注意されてはいるが、命令のあるまで自由に行動していいと言われているのだ。霧島は施設の外へと向かった。ハヅキ、眠そうな目をこすりながら九十九も、彼に続く。
「港、か」
 クィクモは空と海の港を有する。かつてはとくに飛空船貿易で栄えた。現在は、サルヴィン川を上って陸路を来る商人との間に細々とした取引が行われるのみである。
 霧島らは、内海に面する港に足を向けてみる。教導団の飛空艇は現在そちらの方に運ばれている。
(ツァンダの港では奇妙な縁があったしな。港。ここでも何かに出会えるかもしれん。)
 だが霧島が見たのは、朝っぱらから敬礼などして整列している教導団の一隊であった。
「さすがは教導団。よくやるぜ。ああ、なるほどあれはノイエ(新星)か。まったく朝からご苦労なことだぜ」
「霧島。あっちの方にも」
 九十九が、内海に突き出している波止場の方を指す。船が止まっている。どうやら、飛空艇の内の中型艦の一隻のようだ。内海に浸って船の形態に変えているところを見ると、あの一隻は少なくとも海を行くことになるのだろうか。そしてその船の整備にかかっているのは……
「海軍のやつらか。今回の戦から組織されると聞いたな。教導団の海軍か。ふむ……こっちの方は少々面白そうだな。指揮官はどいつだ?」
 そのとき霧島は、何か重要なものを見つけたらしい。
「お、おい霧島?」
 パートナーの二人を離れ、無言でずんずんと港を進んでいく霧島。海軍兵となる教導団員らが、いぶかしがる中をずんずんと……「むっ? 貴様どこの部隊所属だ?」問われるのも耳に入らず、「何だ。貴様は傭兵か? こら、どこへ行く。下がれ!」肩を掴まれそうになるも振りほどき、今彼の目に入っているのは二つのたわわに実った大きな……
 それに霧島の手が伸びる。
「ローザマリア様!」
 ローザマリア? ――霧島は、それを掴んだ! と思うと同時に呼ばれたその女の名を聞き我に返った。次の瞬間、霧島の体は宙を飛んでいた。「な、何。馬鹿な! この俺がワシヅカミに失敗しただと?!」
 ローザマリアと呼ばれた女性はニッコリ笑顔で山嵐(柔道技)を霧島にお見舞いしたのであった。
「き、貴様!」「ローザマリア様!」「ご無事ですか?」
 隊員らが駆け付け、投げ飛ばされた霧島を取り囲む。
「霧島! 大丈夫か。何してんだまったく」九十九、ハヅキは霧島のもとへ駆け寄り抱き起こす。
「霧島?」指揮官らしい軍服の女性は霧島を見下ろす。霧島が目を開け見上げると、そこには二つのたわわ――
「貴様! ローザマリア様のおっぱいに何をしようとした!」隊員は銃を取り出す。それから「あ、これは、失礼致しました。その、ローザマリア様の、えーと、御乳に……」
 ローザマリアは霧島に銃を突き出すその隊員に下がるように言い、霧島に手を差し出す。霧島は相変わらずその御乳から目を離せないようだったが、再び我に返った。
「着任早々、慌しいこともあるものね」ローザマリアの胸には教導団少尉の称号が付いている(霧島は勿論そんなのは目に入っていなかった)。「霧島玖朔。傭兵として湖賊の船に従ってきた一人ね。何しにここへ?」
「海軍に志願しに来た」
 霧島は迷う様子もなく答えた。ハヅキ&九十九、「……」。
 隊員らは、あきれた様子である。が、
「――善い心掛けだわ。貴方こそ、私の求めていた人材よ」
 ローザマリアはそう言った。「乗艦を許可するわ」
「ローザマリア様。こいつ、このようなものを持っていましたが」
 隊員が、本らしきものをローザマリアに見せる。かなりの分厚さだが。
「これは? ……教導団女子生徒プロファイル? 何が載っているのかしら」
「待て」
 霧島は素早い手付きでそれを取り上げ、ハヅキに手渡した。「機密情報だ」
「ふぅん。見なかったことにしてあげるけど……しっかり働いてもらうわ、私のもとでね」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、コンロンにおける海軍の指揮を任され少尉に任官されたところなのであった。