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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

リアクション


9:30〜


 公開試運転の数日前。
「風間博士、『ブレイン・マシン・インターフェイス』搭載機が今度、公開試運転されるという話ですが……BMI、パイロットへの負担は軽減出来たのですか? 聞いた話では、BM搭載機のテストで意識不明者が出たとも言われてますし……」
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は風間に問い詰めた。
「適性がないのに、無理にテストを続けようとしたからです。ですが、今はもう問題ありません。ランクSはもとより、ランクAの多くがテスト起動に成功しています」
 風間によれば、これまでの問題は全て克服した、ということらしい。
「安全面がクリア出来た、そう仰るなら、今度の公開試運転、私をレイヴンに乗せてくれませんか? 元々超能力科でのカリキュラムも受けておりますし、パートナーは強化人間です。データ収集の面でも不足ではないでしょう? 
 ……あなたの言うことを、そのまま信用することは出来ませんから」
 風間が苦笑した。
「私も嫌われたものですね。
 いいでしょう。レイヴンのパイロット候補として、私の方から推薦しておきます」
 
 管理棟から出ると、ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が呆れたように顔つきでシフを見上げてきた。
「んもー、シフったら、ワタシの健康診断に来たのにナニ聞いてんだか」
「あの人が発案したということも含め、気になりますからね。超能力者専用機は」
「それで頼んで乗せてもらおうってんだから、シフもモノズキだよねぇ……」
 そこまで口に出して、笑顔を見せる。
「ワタシは面白そうなイコンだから楽しみだけどね!」


・レイヴン 準備編


「実験に参加させて欲しい?」
 矢野 佑一(やの・ゆういち)の申し出に、ドクトルが怪訝そうな顔をした。
「まだ試運転までに時間はあります。強靭な精神力について、自分なりに考えもまとめてきました」
 そして続ける。
「無理はしませんよ。そうじゃないとレポートを書けなくなっちゃいますから」
 レイヴン起動の目処が立ったとはいえ、友人が意識不明に陥ったこともあって、素直に信じることが出来なかった。
「……具体的にどういう状態に陥るか、自分自身でも体験して、確かめておきたいんです」
 これ以上、犠牲を出さないためにも。
「しかし……」
「いつかは実験をしないといけないですから、気にしないで下さい」
 そうじゃない、とドクトルが説明を始めた。
「前までの稼動条件は、シンクロ率70%以上だった。だけど今は10%で済む。そのための原理を我々は『半覚醒』と呼んでいるよ」
 覚醒状態になれば、通常時とは比べ物にならないほどの性能を発揮できる。だが、それと引き換えに稼動時間が大幅に短くなってしまう。
 その覚醒のエネルギーを抑え、BMIで補うことによって覚醒稼動時間を延ばす。
「これの欠点は、超能力の使用範囲がBMIのシンクロ率の高さに依存する点だよ。今のところ、安全圏で使用出来る力は限られている。件の青いイコンのような芸当はまだ不可能だ」
「しかし、いずれ覚醒を使わず100%シンクロで機体を動かそうとする者が出てくるでしょう。覚醒とBMIによる完全制御の二つが合わさってこそ、レイヴンは真価を発揮する……あの風間さんなら、そう言って適性のある強化人間を造ろうとするでしょう」
 彼だけでなく、ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)も申し出る。
「より負担の少ない制御方法が分かっていれば、風間さんも考えを変えるはずです」
 記憶消去、人格操作を止めさせることがドクトルや彼らの目的だ。
「……とりあえず、君達の考えをまずは聞かせてくれ」
 負荷を減らす方法について、意見を述べる。
「契約者の使う力には、強い精神力を必要とするものがあります。それらを身に付ければ負荷が減らせるのではないかと思います」
 例えば、強靭な精神力によって魔力への耐性を高めるエンデュア。放つのには心身の調和が取れていなければならない即天去私。自分の精神状態を診断しコントロールするセルフモニタリング。
 佑一は一つ一つ説明した。
「あと、マインドシールドやフォースフィールドも強い精神力がないと使えないよね」
 ミシェルがフォローする。
「……そうか、少し誤解させてしまったようだね」
 申し訳なさそうに、ドクトルが目を伏せた。
「科学に従事する者らしくないかもしれないけど、いかなる状況にも動じないだけの強靭な精神力とは、自分の存在意義を確定し、何者にも惑わされない『意志の強さ』だと私は考えている。確かに、君の言う契約者特有の力は精神力を必要とするのだろう。でも、それは契約者であれば誰でも習得出来るようになる代物だ。それで済むようなら、とうに問題は解決しているさ」
 まったくの無意味ではないが、と続ける。
「茅野君がまったく適性がなかったのにも関わらず、シンクロ率40%まで到達出来たのはなぜだと思う? そこには倒すべきもののため、どうしても力が欲しいという覚悟――強い意志があったからだと私は推測している。問題は、脳波や脈動といったものを読み取るだけでは証明が出来ないのだがね」
 強化人間の多くが不安定なのは、そういった自分の存在意義を確定出来ないからだという仮説がある。
 パートナーに依存しがちなのは、「パートナーに尽くすのが自分の存在意義」だと思い込むことで自らを安定させようとするからであるのだと。
「自分が何者であるのか? 哲学的な命題だけど、強化人間達にとってはこれが深い意味を持つ。地球人でもパラミタ人でもない、造られた種族。そうであるがゆえの葛藤は、我々が理解しようと思って出来る類のものではないよ」
 それに対し、風間とドクトルは対照的な方法での解決を模索していると言えるだろう。
 風間は徹底的に理性に重きを置き、ドクトルは人間の持つ感情に重きを置く。
 ドクトルが立ち上がり、二人を誘導する。
「これは、一種の能力計測装置だよ。強化人間管理課にも同じものがある。これによって強化人間達は脳波、能力の大きさ、安定性を測定され、ランク分けがなされる。能力が大きくても、負荷がかかっていれば脳波に乱れが生じ、不安定になる」
 説明を受け、佑一とミシェルが実験を受ける。
 二人とも、仲間を犠牲にしたくないという明確な意志を持っていることもあり、力の制御においては高い安定性を示した。
「強化人間でも同じ結果になれば、風間君を説得することも出来るようになるかもしれないんだが……」
 ぼそりとドクトルが声を漏らした。
 そのためには、純粋にパラミタ化を受けたただけの強化人間が、まず必要になる。もっとも、どうやってその人物に主体性――存在意義を確定させるかが分からない以上、どうしようもないことだが。
 佑一はまだ、それには気付いていない。
 レポートをまとめるが、今の時点ではまだ万人には適応出来ない結果である。
 わずかに前進はしているが、先は長そうだ。