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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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リアクション


第5章 装甲列車はしる【3】



 最後尾車両の最後尾部分は完全に吹き飛ばされた。
 粉っぽい煙がけぶる中、飛空艇でそのまま内部に突撃した如月佑也は船の残骸から這い出す。
 流石にトップスピードからの着陸に耐えられるほど、飛空艇も頑丈には出来ていない。
「うーん、思ってたのと若干違うけど……突入成功だな」
「これって成功って言うのかしら……?」
 アルマ・アレフの手をとって起こすと、二人は物陰に隠れて様子を窺った。
 あくまでもこれは装甲列車。
 ナラカエクスプレスのような客室車両とはほど遠く、車両内は非常に簡素だ。
 空間の中央に、天井にとどく高さの黒水晶の四角柱が規則正しく並べられ、時折碧色に発光したりしている。
 見たことのない形状をしているが、おそらく機晶技術を使ったエネルギー発生装置だろう。
 敵は……どうやらいないようだ。
 そこに相棒のラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)の乗ったワイバーンがやってきた。
 佑也の空けた……と言うか吹き飛ばした穴から、彼らとは大分の差のある優雅な着陸を決めた。
「遅かったじゃないか、ラグナ」
「あら、ごめんなさい。戦争と聞いたのでそれ相応の武器を用意するのに手間取りましたの」
「武器?」
 とその時、天井の一部がくり抜かれ、無茶な突入の被害をこうむった人達が降りて来た。
 ジェイコブは来るなり、佑也の胸ぐらを掴んだ。
「こ、こ、こ……殺す気かっ!」
「え? な、なに……?」
 怒りながらも若干身体が震えてる規格GUYだった。
「まあまあ……、無事だったんだからいいじゃないか」
 朝斗はそう言って仲裁に入ると、車両を調べているルシェンに声をかける。
「もしかして……ここが動力室かな?」
「うーん、当たらずとも遠からず、と言った感じのようですね。皆さん、これを見てください」
 鋼鉄製の壁に打ち付けられた装甲列車の見取り図を指さす。
 これによれば先頭から順に、機関車両、指揮車両、歩兵車両、火砲車両、火砲車両、電源車両となっている。
 先ほどカーリーがいたのが機関車両となる。
 なぜ指揮車両ではなく先頭にいたのかと言うと、それは彼女がなんでも『一番』が好きだからだ。
 そして、この車両は動力や運転装置以外、列車内環境維持のための電源を供給する施設である。
「ダメージはあまり期待出来ませんが、一応破壊しておきましょう」
 精通した機晶技術で解析すると、ものの数分で黒水晶の機能を破壊することに成功した。
 照明が落ち非常用の暗赤色の照明に変る。空調設備や室温管理装置の止まる音も聞こえる。
 なんとなく自分たちの首を絞めたような気もしないでもないが、相手の首も締まってることを信じておこう。
 その時である。
 奥からゴーストナイトの一団が車両になだれ込んで来た。
「出て来たわね……!」
 アルマは舌なめずりをして再び光条兵器を発現させた。
 その瞳に紅の魔眼が浮かび上がり、光弾とともに炸裂する朱の飛沫が攻撃範囲を底上げする。
 遮蔽物の影に隠れる一同を唖然とさせる迫力で、黒水晶もなにもすべて薙ぎ倒さんばかりに乱射した。
「……あのなアルマ、もう少しスマートにできないのか?」
 佑也は後先あんまり考えてないであろう相棒に苦言を呈す。
「何言ってんの。コレくらい派手にやった方が、敵も浮き足立つってもんよ」
「そうかなぁ……」
 そっと敵の様子を窺う。
 なんとなく気配を感じる。どうも向こうも遮蔽物の影に隠れて、アルマの攻撃をやり過ごそうとしているようだ。
「うーん、せめて手榴弾の一個や二個調達してくるべきだったか……いや、待てよ」
 ある思いつきが脳裏をよぎった。
「試してみる価値はある」
 敵の潜んでいるだろう車両の奥をイメージし、カタクリズムを放つ。
 空間に突然生じた念動力は衝撃を発生させ、身を隠していたゴーストナイトを遮蔽物の外に吹っ飛ばした。
「ここで私の秘密兵器の登場ですわね」
 床に機関銃を設置し、ラグナは一斉掃射をかける。
 清楚な見た目からは想像もつかない、アルマ以上の破天荒ぶりを遺憾なく発揮している。
「佑也ちゃんもアルマちゃんも縮こまっている暇はありませんよ。戦線を押し上げてくださいな」
「で、でも……」
「大丈夫ですよ、誤射なんてヘマは致しませんから、安心して前へ進んでください」
「ほんと大丈夫よね?」
「ああでも、アルマちゃんは胸を抉られないように気をつけたほうがいいかもしれません」
「……ンのアマっ! こんな時まで胸の話か! そン時はアンタの胸も陥没させてやる!」
 無駄に火花を散らしつつ、ラグナを除く仲間は銃弾流星群の中、突破を試みる。
 だが……。
「悪いことは言わない。そこで止まるんだね、あんたらもこっちの住人になるのは嫌だろう?」
 ゴーストナイトの防衛ライン最奥、機関車両に通ずる鋼鉄の扉の前、彼女はそこに佇んでいた。
 鏖殺寺院にその身を捧げる闇の聖女伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)……。
 けれど、どこか様子が違う。本来白いはずの髪や瞳が碧色に変化してしまっている。
「忠告はしたよ……『ハイウェイ・トゥ・ヘヴン』!」
「なに……!?」
 コンジャラーである佑也には見えた。
 藤乃の身体から発現した、馬の下半身に女性的なフォルムの上半身と言う異形のフラワシの姿が。
「燃えちまいなっ!」
 ハイウェイ・トゥ・ヘヴンの拳は佑也……ではなく、隣りのアルマを狙って繰り出された。
 彼女の目ではフラワシを捕らえることが出来ない。
「くそ……っ!」
 彼は氷像のフラワシを発現させ、ハイウェイ・トゥ・ヘヴンの拳を代わりに受ける。
 超高速で繰り出された拳は摩擦により高熱を発し、氷像のフラワシを業火で包み込む。
「ぐあああああっ!!」
 フラワシの受けたダメージはその本体へと流れる。それがフラワシのルール。
 佑也は炎に包まれながら大きく吹き飛ばされた。
 さらに、起こった事象を知覚できないジェイコブや朝斗たちも、焔の拳で冷たい床に沈めていく。
「忠告を聞かないからこうなるのさ」
 藤乃は不気味に微笑む。
「よ、よくもやりやがったわね……!」
 ダメージを負いながらもアルマは転がった銃に手を伸ばす……しかし、その手を藤乃は容赦なく踏みつけた。
「ううっ……」
「いけないねぇ、そんな玩具で『藤乃』を傷つけようなんて」
「藤乃……?」
 奇妙な発言が示すとおり、彼女は彼女であって彼女ではない。
 現在、藤乃の身体を掌握しているのは、奈落人逢魔時 魔理栖(おうまがとき・まりす)なのである。
 ナラカでの活動を有利に運ぶため、あえて憑依させてるのだ。
「破壊と死こそ我らの救済……。沢山の人を救うため、カーリーの邪魔をさせるわけにはいかないんだ」
 彼女達も奈落の軍勢の協力者のようだ。
「そろそろ楽にしてやるよ。死は救い、なにも恐れることはないさ」
「こ、こんなとこであたしが……!」
 狂気の瞳でアルマを見下ろし、ハイウェイ・トゥ・ヘヴンの拳を振り上げる。
 その時、突然、光線が壁を貫通してゴーストナイトを撃ち抜いた。
 騎士を翻弄する光は次々と車内に撃ち込まれ、みるみる壁の穴は数を増やしていった。
 それから、壁の向こうの誰かは鉄の扉の鍵を光線で焼き落とす。
「無事か、皆!」
 分厚い扉を蹴破って駆けつけたのは、冒険屋レン・オズワルド(れん・おずわるど)
 床に倒れる仲間と、光線で(一部が)戦闘不能になったゴーストナイト、ひと際怪しい魔理栖。
 この地で何が起こったのか。朧月夜のごとくなんとなく、レンにも状況が見え始めた。
「そっち側についた人間がいるのか」
「へぇ、邪魔するつもりかい……。おい、とっととコイツを取り押さえちまいな」
「フッ……、出来ないことはあまりおおっぴらに口にしないことだ」
 突き出される槍を曙光銃エルドリッジの腹で殺し、銃舞で繰り出される技を受け流す。
「どけ、おまえ達にようはない。俺がようがあるのはおまえ達のボスだけだ」
 こうせまいところでは、ゴーストナイトの槍はお世辞にも勝手のいい武器だとは言えない。
 振り回せば必ず何かにひっかかるし、ヘタをすれば仲間を攻撃に巻き込んでしまう。
「すこしは工夫するといい」
 至近距離からクロスファイアを浴びせる。
 逆にこの限定された空間は、敵に囲まれないと言う意味ではレンにとって有利に働いていた。
「たったひとりに何を手こずってるんだい」
 魔理栖は目を細め、ハイウェイ・トゥ・ヘヴンをレンに向かって解き放つ。
 ところが、レンの撃ちまくる光弾の幾つかが、フラワシの身体に命中した。
「くっ!?」
 突然走った痛みに肩を押さえた。
 この空間のもうひとつの利点、お互いに攻撃する角度が限定されるという点だ。
 コンジャラー以外には知覚出来ないフラワシも、攻撃する角度が限られてしまうと敵の射程に入ってしまう。
「全員、動くな……!」
 魔理栖に銃を突きつけ、レンは警告を発する。
「おまえ達の頭は俺の武器が捕らえてる……、大人しく武装を解除しろ」
「…………」
「…………」
 しかし、ゴーストナイトは無言のまま、レンに槍の切っ先を向けている。
「聞こえないのか?」
「無駄だよ、こいつらは人質に屈するよう訓練はされてないんだ。あんたらとは違ってね」