リアクション
01.ミュージアム 「はい、ここでおとなしくお留守番しているんだよ」 バサバサとワイバーンのヤクトで博物館の駐機場に舞い降りた朝野 未沙(あさの・みさ)が、その首をそっとなでて言い聞かせた。 空京としては珍しく少しもやっていたので、慎重に着地する。まったく、タシガンでもないのに、美術館の近くだけ霧だかもやがあるというのは困ったものだ。 「あれっ、なんなんだろ?」 急に影がさして、朝野未沙が上を見あげた。表通りを、クェイルが通りすぎようとしている。 「だから、模擬戦では勝っただろうが。なんだって? 俺だけ負けてるって? チームで勝ったんだからいいだろうが!」 『我……認……』 何やら、言い争っているような声が聞こえてくるが、なんというか、コクピットハッチが開けっ放しだ。これは、イコンの箱乗りだと思ってもいいのだろうか。かなり危ないと思うのだが。そう思う間に、美術館から飛び出してきた影が速いスピードでイコンに近づいていった。 「だから、そんなに……うわっ、おっ!?」 「あ、何か落ちた……」 唖然とする朝野未沙の目の前で、コックピットハッチの上に立っていたジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)が、通りすがりの暴れサンタクロースの橇に轢かれて落ちた。 「はははははは……」 人身事故を起こした橇が、何ごともなかったかのように美術館へとむかう。その後を、クェイルが追いかけたが、あっという間に美術館の中へと逃げ込まれてしまった。 「いててててて、ザムドを着ていなければ即死だったぞ、こらあ!」 落下したジガン・シールダーズが叫んだが、それを見たクェイルはぷいと横をむいて走り去ってしまった。 イコン博覧会の模擬戦で優勝チームに属していながら、乗っていたイコンを破壊されてしまったのをパートナーに責められていたらしい。そういえば、今、去っていったのは、なんのカスタマイズもされていないノーマルのクェイルだ。 「仕方ねえな、俺たちだけで見に行くぞ」 「無無……。仕方……無」 ひゅるんと人形に戻ったザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)が、何ごともなかったかのようにジガン・シールダーズの後について美術館へとむかった。 ちょっと唖然としながらも、朝野未沙も美術館へとむかう。 噂では、この美術館ではちょっと面白いことが起きているのだという。そういえば、以前、空京では美術品から現れた怪盗が事件を起こしたこともあったはず。あれと似ているのだろうか。 「やれやれ、美術館というものは、留守番でも退屈しないものだな」 駐機場脇の芝生に寝そべってひなたぼっこをしていたジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が、物珍しそうにザムド・ヒュッケバインたちを見送った。 同意を求めるかのようにヤクトの方に視線を投げたが、青い外皮に被われたヤクトは何も答えずにじっとしているだけであった。 つまらんとばかりに、ジャワ・ディンブラが軽く目を閉じた。 本来なら、見た目は大差ないはずなのだが、朝野未沙による徹底改造をされたヤクトは、ほとんどメカワイバーンというイメージの外観となっていた。 |
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