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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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第六章 忠臣31


梅谷 才太郎(うめたに・さいたろう)は行方知れずか」
 ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)は、暁津藩との協調を模索していた。
 それには、暁津藩脱藩浪士の梅谷の力が必要だと考えていた。
「扶桑の都で活動している志士の中でも、梅谷は別格でしょう。脱藩浪士でありながら、彼を支持・協力しようとするものも少なくない。ただ、人物としては多少軽薄で奔放なので、敵が多いのも事実のようですが」
 と、山田 朝右衛門(やまだ・あさえもん)が調べたことを報告している。
「しかし、シャンバラ人や地球人でなく、マホロバ人が説得するからこそ効果があるというのも。何としても、梅谷を保護しないと」
 梅谷は紳選組をはじめ、扶桑見廻組暁津勤王党も彼を追っている。
 ユーナは嫌な予感がしたが、それが的中してしまった。
「まさか……梅谷が、殺された?」
 梅谷才太郎――暗殺される!
 その一報は都中を駆け巡った。
「下手人はまだ捕まってないそうだな。噂では紳選組局長近藤 勇理(こんどう・ゆうり)がそうだっていう人いるけど、眉唾もんだな!」
 シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)が市中偵察から戻ってきた。
 扶桑の都の不穏な空気が、あちこちに伝染していると彼女は言った。
「不逞浪士の横暴だけじゃない。瑞穂藩、エリュシオンの龍騎士団がせめて来るからって、家財道具もって逃げ出す人もいたよ。瑞穂藩主の信じてる『正しいもの』って何なんだろうね。弱き者を助けず、切り捨てるような冷徹さが、この国になにをもたらすっていうのさ?」
「もちろん、そんなことはさせないわ。暁津藩が力になってくれればいいのに……頼みの綱になりそうな人が居なくなってしまうなんて」
 ユーナは途方くれていた。
 暁津勤王党の暴走ぶりはおそらく、暁津藩も手が付けられなくなっていることだろう。
「天誅覚悟ー!」
 狭い路地裏で物音と激しい怒号が聞こえる。
 朝右衛門が腰の刀に手をかけた。
「いこう。私たちだけでも、なんとかしなくちゃ。このままじゃ、ずっとこんなことが続くよ」
 ユーナたちは都を駆け巡る。

卍卍卍


 鬼崎 朔(きざき・さく)は、扶桑の都にある高台から都を見下ろしていた。
 そこで、馬を引いた一陣と出会う。
「朔様、間違いないであります! スカサハのデータと一致するであります! 同一人物に間違いないであります!」
 スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、テクノコンピューターから顔を上げた。
 朔は頷く。
 「日数谷! 探したよ、おとなしくしろ!」
 彼女が投げた鉤爪のついた縄が飛んでくる。
 現示はとっさに刀を構え、鉤爪が柄に巻きついた。
「……ッ! 何だ、てめえは?エリュシオンの奴らか?!」
「ご名答。第四龍騎士団の鬼崎 朔だ、覚えてほしいな」
 朔が鉤爪を引き、縄がピンと張った。
「瑞穂藩主様の命で、俺たちを追ってきたのか」と、現示。
「いや、それは違うね。私は、貴方に幕府を頼れと言いに来たのだから」
「どういうことだ?」
「能力があるなら活かしてやるべきだ。例え、敵であろうとね。それに……何も償わせないまま逃げまわる臆病者を、そのまま殺すという『理不尽』も許せない」
「……臆病者だと? それは俺のことか? てめぇ、ケンカ売ってんなら買ってやるぞ」
 現示は片手で脇差を抜き、縄を打った切った。
 反動で朔がバランスを崩す。
 魔道書アンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)が、氷術を唱え、彼女の使い魔たちが一斉に非難した。
「クククっ! 忠義や誇りも大事だが、大切なのは『信念』だ。己自身から逃げたら、それこそ『侍』失格だろう?」
 周囲の空気が一気に冷える。
 馬が驚いて立ち上がった。
 現示は馬から飛び降り、刀を抜いて飛び掛ってきた。
「第四龍騎士団の人間が何をふざけてやがる。若殿様に何を言われた?」
「正識は現示を利用してるんだ。彼は本気を出すわけでもなく、現示たちを適当に泳がせて、その間にマホロバをどう乗っ取るか調べてたんだよ」
「そんなこと……!」
 現示は手を止め、朔を睨みつける。
「あんたには率先して幕府に付いて欲しいさね。あんたが動けば、未だ迷っている瑞穂藩士の連中も幕府に付く可能性が高いさ」
 茨木 香澄(いばらき・かすみ)はそう言って、説得を試みる。
 煙幕を撒き散らし、外からの視界を遮った。
「他の龍騎士がどこから見てるかわからないからさ。この煙が晴れるまでに、進退を決めてほしいさ。あんただってやり方は違えど、マホロバの事を想って行動したんだろ?」
「まったく、どいつもこいつも」
 煙はどんどん濃くなり、やがて現示の姿の判別しづらくなった。
 彼の声のみが聞こえる。
「てめえら、今度会ったときは敵同士だかんな! 覚悟しておけよ!」
「日数谷……」
 朔が言った。
「ああ、そうだな! 瑞穂藩主には……あの黄金の天秤には気を付けろよ。何の力があるのかはしらないが、嘘発見器の様な物に違いない……!」
 再び朔らの視界が戻ったとき、現示たちの姿は消えていた。
「行ったか……私たちも西へ戻るぞ」
 彼女たちは移動を開始する。

卍卍卍


「――日数谷が寝返った? そうか」
 正識は、穴の開いたパラミタ地図から目を離さずに言った。
「ならばこちらも大義ができたな。藩内には、彼らに同情する声もあったから」
 正識は城から眼下を眺めた。
 整然とした隊列を組んだエリュシオン第四龍騎士団と、帝国式装備の瑞穂藩士の姿がある。
「これまで日数谷たちを追いながら、マホロバの現状を見てきた。惨憺たるものだ! この状況からマホロバを『救う』のは我らしかいない。人々を惑わせる『天子』などこの地には不要なのだ」
 正識の熱っぽい鼓舞が続く。
「聖樹ユグドラシルに祝福を受けしものたちよ。今こそ我らが鬼を追い払い、マホロバの地を清浄するときである――我らが光へ導くのだ!」
 正識の掛け声に一斉に歓声が起こった。