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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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這い寄る湖

 
 
「迷った……」
 樹月 刀真(きづき・とうま)がボソリと言った言葉に、またかと漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)が溜め息をついた。
「なんだか、しょっちゅう迷っているような気がするのだが」
「そんなことはないぞ。誰かに填められない限りは迷ったことなど……」
 玉藻前にジト目で見られた樹月刀真があわてて弁明しようとして、後頭部に冷たい物を感じて言葉を途切れさせた。カチリと、安全装置を外す音が聞こえたような気がする。
「おーい、月夜、冗談だろ……」
「えっ、私はここにいる……よ!?」
「なんだって!?」
 すぐ近くで聞こえた漆髪月夜の声に、樹月刀真はあわて身を伏せた。直後に、ハンドガンの発砲音が響き渡る。
「貴様何者……って、やっぱり月夜!?」
 あわてて敵から逃げだした樹月刀真が、発砲した人物の顔をまじまじと見て困惑の表情を浮かべた。
「わーん、とーまのぶわかあ!」
「うおっ、危ない!」
 ハンドガンを乱射するもう一人の漆髪月夜に、樹月刀真たちはあわてて逃げだした。
「これって……」
 逃げながら、漆髪月夜が顔を真っ赤に染める。
「間違いない、あのときと同じであるな」
 玉藻前が、自分が初めて樹月刀真の部屋にやってきたことを思い出して苦笑いした。
「よし、許す、あの月夜を呪い殺せ、玉ちゃん」
そんな……、なんて……、ひ、酷い……、刀真……」
 逃げながら、しくしくと漆髪月夜が両手で顔を被った。
「だから、我には人を呪い殺せるような力は残っていないと何度言ったら分かるのだ」
 まったく、学習能力がないと、玉藻前が樹月刀真を睨みつけた。
「それに、月夜を泣かせるのであれば、呪い殺すべきは刀真の方であろうが。のう」
 同意を求めるように、玉藻前が漆髪月夜に声をかけた。
「うん、玉ちゃんやっちゃって」
 こくりと漆髪月夜がうなずく。
「ちょっと待て、いつの間に二人共そんなに仲良しさんになった。俺はのけ者ですか? 偽物のハンドガンの的ですか?」
「うん」
 二人が同時にうなずく。
「まったく、こうなったら……」
 走りながら、樹月刀真が手をのばして漆髪月夜から黒の剣を取り出そうとする。それをひょいと、漆髪月夜が避けた。というか、玉藻前が漆髪月夜の腕を引いて避けさせた。
「うっわっおっ!?」
 ふいをつかれてバランスを崩した樹月刀真が派手に転ぶ。
 ぐしゃっ!!
 何かにぶつかって壊してしまったようだ。
「ふぁーあ、よく寝たのだ」
 バラバラになった祠の跡に、素っ裸の玉藻前がぺたんこ座りをしていた。
「主か? 我が封印を解いたのは? 我は玉藻前。白面金毛九尾の者。とりあえず、油揚げを所望するぞ」
 軽く科を作ると、まだ地面の上に倒れていた樹月刀真にもう一人の玉藻前がのしかかってきた。
「うおっ、玉ちゃん、裸、裸、なんか着ろ!」
「着ているが?」
 騒ぎたてる樹月刀真に、本物の玉藻前がしれっと言い返した。
「確か、あのとき、刀真は、めんどくさいからと言って我を殺そうとしたのだったな」
「いや、あれは言葉の文で……」
 必死に否定する樹月刀真の身体に、玉藻前がべたべたと絡みついていった。
「あんなことしてたんだ……」
「ちがーう!!」
 ジト目で睨みつける漆髪月夜に、樹月刀真が全力で否定して見せた。
「ほれ、魔道銃なら貸すぞ。弾は、タルタロスがいいか? それともコキュートスか?」
 ニコニコしながら、玉藻前が持っていた魔道銃を漆髪月夜に渡した。
「ちょっと、二人共、そんなの撃ち込まれたら死ぬから。マジで死ぬから。勘弁してください」
 樹月刀真が思いっきり頭を下げて頼んだ。その拍子に、だきついている玉藻前の胸に顔を埋める形となる。
 銃声とともに、樹月刀真の髪が数本、はらりと落ちた。
「事故だあ!」
「やっちゃいなさい、月夜」
 力を込めて漆髪月夜の両耳を両手で押さえた玉藻前が言った。その言葉すら聞こえないはずだが、こくんとうなずいた漆髪月夜が発砲する。
 なんとか玉藻前をふりほどくと、樹月刀真はあわてて逃げだした。だが、そっちからはもう一人の漆髪月夜が追いかけてくる。
今、倒れるわけには。分かった、今度一緒に大図書室行ってやる。本でもなんでも運んでやるから」
「ほんと?」
 樹月刀真の必死の叫びに、本物の漆髪月夜がピタリと引き金を引く指を止めた。
「我は?」
「分かった、分かった、今度の休日に洗濯でもなんでもしてやる!」
 叫び返す樹月刀真に、玉藻前がニタリと笑った。
「しかと聞いたぞ」
私達の邪魔はさせない……
 漆髪月夜が二丁拳銃で偽物の自分たちを牽制する間に、玉藻前が地獄の門を開いた。樹月刀真を中心にして現れた魔法陣にそって、強力なファイアストームを放つ。魔法陣にそって駆け抜けた炎の嵐が、偽物ごと周囲の霧を焼き払った。
「これは、助かったと言ってもいいのか?」
 もの凄く釈然としない気分で、樹月刀真が言った。そういえば、玉藻前がやってきたとき、嫉妬した漆髪月夜が暴れたり、悪ぶった玉藻前が遠慮なく周囲を挑発したりして大変だったことが思い出される。あのときは、近所へのおわびとか諸々の修理代で大変だった……。
「さて、しかと聞いたからな、週末が楽しみだ」
 バッと愛用の扇を広げて、玉藻前が嬉しそうに言った。