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リアクション
第六章 黄金の国マホロバ2
正識がいなくなってから、瑞穂藩ではこの危機を乗り越えるため、新たな藩主が必要とされていた。
本来なら、謀反の大罪により瑞穂藩お家お取り潰しが筋かと思われた。
しかし、幕臣の一部はこれを好機とし瑞穂藩を幕府が抑え、この混乱と危機を乗り切るのが妥当と考えたのか、新たに後見人を置き、瑞穂藩を存続させる方向に出た。
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、陸軍奉行並と空海軍奉行並の双方から推され、お目付け役兼瑞穂藩後見人として瑞穂藩領内へ足を踏み入れる。
彼は、瑞穂睦姫(みずほの・ちかひめ)とその子雪千架(ゆきちか)を伴っている。
「まだ信じられない。瑞穂の地に帰ってこれるなんて。見て、ここが瑞穂よ。美しいところでしょう?」
睦姫は我が子を抱きしめながら、城から領内を見渡す。
瑞穂藩にも噴花に被害はあったものの、他と比べると比較的少なかった。
強い日差しと青々とした緑の土地が、瑞穂の元来の土地の豊かさを物語っていた。1
彼女たちを護るように、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)や紫月 睡蓮(しづき・すいれん)、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が側に控えていた。
唯斗は、正識に代わって睦姫に瑞穂藩を治めて欲しいといった。
「睦姫は、表向き死んだことになっていたしな。家老連中はいい顔をしないだろうし、当然反発もあるだろう。これだけの戦を起こしておいて、幕府の中にも良しと思ってない輩は大勢いる。でも、俺は姫達の居場所も護りたいんだ。それには、此処しかないと思っている」
「一度は死んだ身の私が……またこうして戻ってこれるだけでも……」
睦姫は涙を流していた。
もうとっくに人生を諦めていた、と彼女が言った。
「俺は睦姫を護る。あの時、大奥で会った時にそう決めた。ただそれを実行してるだけだ。全力で支えてやるよ」
「俺は正直、あまり感心してないけどな」
日数谷 現示(ひかずや・げんじ)が憮然として言った。
現示は侍大将として、瑞穂藩に受け入れられたという。
「姫様には女の幸せを……得て欲しかった」
それもあるが、もっと彼の気持ちを重くしたのは、自分の力では到底ここまで出来なかっただろうということだった。
「俺は……武士として俺は何かを成し遂げただろうか……いや、ねえな……何もしてない」
「なんだよ現示、暗い顔しやがって。それは俺への当て付けか?」
唯斗が突っかかっていくと、唐突に素っ頓狂な声が上がった。
どこからともなく現れた酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が、脈絡なく現示に抱きついている。
「ああん〜、ゲンヂー逢いたかったー!」
「だ、誰だ。お前!?」
現示は慣れない感触にあたふたしていた。
酒杜 陽一(さかもり・よういち)がにやにやと笑いながら現れる。
「瑞穂藩の話を聞いて、一応、見に来てやったぞ。考えてみれば、日本人にはマホロバ人の血が流れ、二つの世界の命が互いの地で生れ変わるとは……俺とお前も、どこか繋がってるのかもな」
「気色悪いこと言うな。誰がてめえなんかと……というか、この女てめえの連れか? 何とかしろ。さっきから……当たってるんだが」
美由子はぐいぐいと胸を押し付けては、現示の身体をまさぐっている。
睦姫が目を細めて呟いた。
「やだ、フケツ……」
「ひ、姫さま……!?」
現示が青ざめ、美由子から逃げようともがいている。
その一部始終を、風祭 隼人(かざまつり・はやと)は記録していた。
「こうしてられるのも、つかの間だ」
瑞穂藩も領内の復興と幕府からの処罰、介入と、これから茨の道だろう。
「瑞穂藩の弱体化、領地・石高の没収は免れないだろう。そもすれば、領内の復興が遅れる。真綿で首を締められかねないぞ」
これは脅しでも何でもなく、実際に隼人がマホロバの諸藩を観察して得た感想だった。
「これから幕府と各藩、民とどう一体となれるか。信頼関係を再構築できるかが課題だろう。ぶっちゃけ、俺は噴花に備えて鬼城が黄金をため込んでいた事なんて、全く評価に値しないと思っている」
隼人は怒りをあらわにする。
「そのためにどれだけ犠牲し、泣いたと思ってるんだ。大奥の女性たち、遊郭からの搾取……噴花の実態を隠していた鬼城家。しかるべき責任を取るべきだろう」
マホロバが復興できるかは地方にも重くのしかかる。
第二、第三の瑞穂藩が出てこないとも限らない。
扶桑の噴花は、マホロバで生きるすべての人に、その生き方をあらためて問うこととなっていた。
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