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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)

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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)
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第二章 決戦はじまる


「中々映し出されないですね」
 モニターを前に、ジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)は愚痴を零す。
 生中継にソーの姿がはっきりと映し出されるのを待っているのだが、なかなか出てこないからだ。軍勢紹介でちらりと映ったが、高い場所から俯瞰した映像では、豆粒ようにしか見えなかった。
 それでは、●呪詛の対象にするのは少し無理がある。写真は手に入れているが、外套で覆われていて、こちらも容姿がはっきりと確認できない。
「まぁ、まだ始まったばかりですし、しっかり映し出されるまで待ちますか」
 安全な場所から、●呪詛による援護。それが、ジェンドの作戦だ。
 必要なのは、相手の容姿と名前。そのうちの、容姿は映し出されるのを待つしかない。
 まだ始まったばかりの試合では、全体を俯瞰するような映像ばかり。そんな中、突然映像が切り替わって、軍団ではなく一人飛び出したイコンが映し出された。
「随分と無茶をする人がいるみたいですね」

 ジャジラッドとラミナの協定について葦原 めい(あしわら・めい)八薙 かりん(やなぎ・かりん)の二人は、噂程度ではあるが情報を掴んでいた。
 どちらも、第一勢力と第二勢力であり、保有する戦力の大きさではトップクラスだ。それが、協定を結んでいるとなると他の勢力では太刀打ちするのが難しくなる。
 しかしこの決戦のルールは殲滅ではなく、大将を討ち取ることだ。いくら頭数が多くても、大将を討ち取られてはおしまいなのだ。そういう意味では、救いのあるルールでもある。
 めいとしては、恐竜騎士団の中から団長を出したくないという思いがあった。多くの契約者も参加しているなかで、その結末を迎えるということは、恐竜騎士団の勝利を意味することになってしまう。
「北東にラミナの部隊が展開しています」
 完全生中継が、二人に味方していた。現在の戦況の様子がリアルタイムで手に取れるのだ、たった一機で戦場をかけるウサちゃんのためだけに、相手は大部隊を動かせない。いとも容易く、その隙間を縫って敵の本陣に突っ込める。
「見えた!」
 空に浮かぶ一団、ラミナのプレデターXを中心とする、空中部隊だ。
「射程に入るまで、3、2、1、行けます!」
 かりんのカウントダウンが終わると同時に、ウサちゃんの20ミリレーザーバルカンが放たれる。プレデターXには命中しなかったが、取り巻きの数体が流れ弾に当たった。うち、二つがそのまま落ちていく。
「恐竜の前に、ウサギで飛び込むかい」
 ラミナの指揮に合わせて、取り巻きの空中恐竜部隊が突っ込んでくる。横移動で回避していくめいに、横からトリケラトプスが特攻をしかけてきた。
「めい!」
「わかってる!」
 振り向きざまに、ウサちゃんの氷獣双角刀で切りつけた。分厚い皮膚を切り裂いて、トリケラトプスはその場に倒れこむ。
「我が社のヒット商品の切れ味、その身で味わうといいよ!」
 狙いはあくまでラミナ。動き回りながら、20ミリレーザーバルカンで狙うものの、でかい図体にしては、器用に攻撃を避けてくる。地上からの射撃での攻撃に、慣れているのだろうか。
「スピーカーの音量を目いっぱいあげてください」
 かりんはそう言って、すぐに戦慄の歌を歌った。あの小ざかしいプレデターXの足止めをするためだ。効果はあり、見た目にも動きが悪くなる。
 旋律の歌で相手の動きを止めていられる時間は僅かだ。巨体のプレデターXを、その僅かな時間で20ミリレーザーバルカンでし止めるのは難しい。
「飛ぶわよ!」
 仏斗羽素で飛び上がり、超電磁ネットを用いて地面まで引きずり落とすのだ。足止めの短い時間で、超電磁ネットの射程に突っ込むには仏斗羽素を使うのがもっとも手っ取り早い。
 ウサちゃんは仏斗羽素の力で飛び上がった―――。

「素晴らしい心の輝きでした」
 シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)は落ちていくウサちゃんを見下ろしながら、うれしそうに言う。ワープでウサちゃんの軌道に乱入し、真正面から冷凍ビームを撃ち込んだのだ。
 点火してしまえば、まともな制御をするのは難しい仏斗羽素による飛行では、近接距離からの攻撃を避けるのは至難の業だ。目論見通り、回避できずに直撃した。
「獲物の横取りかい?」
「移動中に目に入ったまで、横取りとはとんでもない」
 呼びかけてきたのはラミナだった。それに、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が答える。
「そういう興が冷める趣向は趣味じゃないね」
「それは申し訳ない。邪魔者は退散しますよ」
 シメオンのワープによって、アヴァロンは姿を消した。
 ラミナは愚痴こそ口にしたが、目の前に現れたゲドーを見逃した。ウサちゃんを攻撃している間中、背中を見せていたにも関わらずだ。
 短いワープを繰り返して、移動していたアヴァロンは自分の本体に合流した。ラミナの背後を回るようにして、ソーを狙っているのだ。
 そう、ここでも協定は結ばれていたのである。ラミナ、ジャジラッド、そして第七勢力ではあるもののゲドーの三つの軍団は、合わせればこの戦場の三分の一は集まっている事になる。
「せっかっくの恐竜騎士団、潰すのは惜しい。救ってさしあげましょう、救世主サマ」
「望みかなえて差し上げましょう……。私のアヴァロンで、そう、私のアヴァロンで」
 


「どう考えても、狙われてるな」
 駿河 北斗(するが・ほくと)の言葉に、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)はええと頷いた。
 先ほど、さっそく敵の一部隊を蹴散らしたところだが、その陣営はジャジラッドのものだった。彼らのスタート地点を考えれば、最初にぶつかる相手になるのは不自然だった。
「あの人は気にしてないようだけどね」
 ソーは仲間に指示を出したり、相談するような事はせず巨大なティラノサウルスの頭の上に立って、前だけを見ている。
「小賢しい事に興味無いんだろ」
「考えなしとも言えるんじゃない?」
 ベルは少し呆れたように零す。この陣営は、作戦も無ければ戦術も無い。敵を見つけたら、倒す。サーチ&デストロイ。今向かっているのも、誰かの陣営というわけではなく、一番敵の多そうな中央を制圧するためだ。
「ん?」
「いきなりどうしたのかしら?」
 その先頭をひた走っていたソーが突然足を止めた。次の瞬間、彼のほんの少し前の地面が爆ぜた。何かが着弾したのだ。
「次の獲物だ」
 ソーが鞘に納まったままの剣を向けた先は、空。飛行恐竜と、一機のイコンで組まれた部隊がかなり遠くに見える。
「まーたあいつらの部隊か。狙われてるの確定だな」
 各陣営には、それぞれ番号が与えられている。それぞれ、恐竜やイコンのどこかにその数字をつけている。ゼッケンのようなものだ。相手の数字は3、ジャジラッドの陣営で間違いない。
「厄介ね」
 協力や裏切りはバトルロワイヤルの華であり常道手段だ。だから別に、手を組んで狙ってくることは卑怯でもなんでもないし、強い奴を先に落としたいと思われ狙われるのなら、それはむしろ誇っていい事だろう。
 あとは、期待に恥じぬ力を見せてやればいい。
「よし、あれも突破だ」
「あんまり滅茶苦茶な動きしないでよ、合わせるのほんと大変なんだから!」

 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は会場に居るジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)と精神観応とテレパシーを用いて、常に俯瞰した情報を得ながら戦場に立っていた。
 戦場でも通信手段があれば、生中継を見る事はできるが、それで周囲の注意を怠っていたら目も当てられない。情報は常に取捨選択が迫られる、それがジルの今の役割だ。
 そのジルから、少し前にグンツが落ちたという情報をよこされた。
 作戦では、ソーを包囲するはずだったのだが、さっそく不手際が出たことになる。
 その敗因をジルに尋ねたブルタは、その返答の解釈に少し困った。
「真正面からぶつかって負けたの」
 ジルの返答を素直に受け取れば、グンツは作戦も何も無視して突っ込んだ事になるのだが、しかしそれはいくらなんでもありえないだろう。波状攻撃でソーを倒すと提案したのはグンツなのだ。それが、まさか正面から特攻するなんて戦術を取るとは思えない。
「なるほど、やっと意味がわかったよ」
 ブルタは自分が対している軍団の動きを見て、ようやくジルの説明に合点がいった。真正面からぶつかってきたのは、ソーの軍団なのだ。そして、敵を見つけたらそっちに向かって一直線、相手が空にあってしかもかなり距離を取っていても、突っ込んでくる。
 正面からぶつかったのではなく、正面に突っ込まれたのだ。
「撤退することもできますが、いかがします?」
 ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)がたずねる。イコンへルタースケルターはワープ移動を行えるため、単機での離脱ならそれほど困りはしないだろう。
「……よそ者が、真っ先に逃げたらかっこがつかないんだよね」
 離脱できるのは、自分だけだ。共に進軍した騎士団の連中は、ワープなんて事はできない。空の利点を持っても、恐らく時間の問題であって、結果は見えている。
 彼らと心中するような殊勝な気持ちなんてあるわけないが、ここで逃げればいい印象には決してならない。よそ者というハンデを背負っている以上、この決戦でかっこ悪い姿は見せられない。
「せっかくブラッド・エンジン二つも積んだんだ。フル稼働で、この場でソーの首を取るよ」
「わかりましたわ。このへルタースケルターの力、魅せてさしあげましょう」

「やっぱり空中戦がキモになっちゃうよね」
 クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)はそう零す。
 地上での戦闘では、ソーもいるし北斗のセプテントリオンもあるため何も困りはしないが、相手が空中に陣取るとなると、こちらにある手札がとても少ない。
 そのため、戦いが始まる前に恐竜に空飛ぶ魔法↑↑を使ってみたが、肝心の恐竜がパニックになってしまうため、急場の戦術としては使えなかった。時間をかけて、馴らしながら覚えさせれば、ラミナのプレデターXのように自在に空を泳ぐ事もできるらしいが、その時間が無かったのだ。
「相手が恐竜の部隊なら、互角なんだけどな。イコンがいるとな」
 セプテントリオンは得意の高速機動で攻撃を回避しながら、だいぶ空中に陣取るブルタの部隊に接近していた。しかし、地上からの攻撃はワープによって回避されてしまうため、一番厄介なへルタースケルターには、未だに一つの打撃も与えられていない。
「足止めとかできれば……そうだ!」
「どうしたの、いきなり大きな声だして」
「ねぇ、ベル。こっちから飛び込めば、攻撃届く?」
「え、ええ。そんなに高いわけじゃないし、届くはずよ」
 セプテントリオンは近接戦闘にカスタマイズされている。空中の敵を倒すには、自ら空に飛び上がらないといけない。しかし、縦横無尽にワープして射撃をしてくるへルタースケルターの前に飛び出せば、単なる的になってしまう。
 その為、回避に専念しているのだが、クリムが何か思いついたらしい。
「次、飛び込める距離にあいつが出てきたら言って!」
 その瞬間は、間もなく訪れた。こちらか飛び込めば、切り込める距離だ。だが、相手の視界にこちらが入っているのは間違いない。
「んっと、えっちぃ写真とか如何かな? クリムちゃんのセミヌードとか。よーし、大丈夫だから飛び込んで!」
 北斗もベルも、彼女が何をしたのか尋ねることなく、空へと飛び上がった。
「ワープしない……? だったら!」

「なんだよ、これ!」
 突然、へルタースケルターの全てのモニターに、半裸の女性の姿が映し出された。大画面の高画質だ。
 映像の意味不明さに、これがクリムリッテ・フォン・ミストリカのソートグラフィーによる攻撃であると理解する事ができない。ついでに言えば、この半裸の女性が本人であるなんて想像もつかない。
 それが理解できたのは、手痛い一撃を食らったあとだ。
「きゃぁっ」
「くっ」
 強烈な振動と共に、奪われていた映像が瞬時に元に戻る。あちこちから異常を示すアラートが鳴り、乱れた映像の正面に地上に居た敵のイコン、セプテントリオンの姿があった。
「ボクはっ、ボクはここで無様な戦いはできないんだよ!」
 普段なら、ブルタのここでの選択はワープで距離を取ることだった。一撃もらったとて、まだへルタースケルターは落ちていない。立て直すことを優先し、それから攻め手を切り替える。
 しかしブルタはこの場面で、アダマンタイトの剣で切りかかった。
 この場面での反撃は相手も予想していなかったのか、セプテントリオンは受け損ねて地面へと落ちていく。地上にたたきつけられる前に、体勢を立て直されてしまったが、どうも様子がおかしい。
 向こうも、無傷ではすまなかったようだ。できればセンサーでも壊してしまいたかったが、奪えたのは片腕だった。
「はぁ……はぁ……」
「損傷が大きいですわ、ここは一度……」
「だめだよ、言ったろ。無様な姿は見せられないんだ、ボクは」
 ブルタの様子は、普段と少し違っていた。おちょくられるような方法で打撃を受けてしまった怒りのせいかもしれない。
「……わかりましたわ。せめて、あのイコンは倒さないとこちらの気も済まないというものですものね」
 仮に下がったところで、へルタースケルターの修理をするための技師も設備もありはしない。恐竜騎士団に対して、力を見せる意味でも、ここで引いていくより、限界まで戦った方がポイントは高いはずだ。
 ステンノーラはすぐにそう考え直し、戦闘を続行する判断を下した。
「今さら謝ったって、絶対に許さないんだからね」