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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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【1】入門万勇拳!……3


 攻撃的な技の目立つ万勇拳だが防御に重きを置いた技もある。
 近頃は格上の相手と戦うことが多い毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はそんな奥義を求めていた。
「老師よ。確実に生き延びれるよう逃走の機会を生む技はないものだろうか」
「逃走の機会って、なんとも後ろ向きな考えじゃのう……」
「なにを言う。過程はどうあれ、最後まで生き残った者こそ勝者ではないか」
「まぁよい。万勇拳は攻めの流派、防御も攻撃と一体じゃ。攻めることで攻撃を受ける確率を減らすのが万勇流じゃ」
「ふむ、攻めの姿勢か……逆転の発想だな」
「ともあれ実践してみるがよかろう」
 誰か適当な相手はいないものか……とそこそこ腕に覚えのある人間を探す。
 するとちょうど傍に、そこそこ高レベルの門下生を二人発見、大佐は元気良くよびかけた。
「そこの二人、恋人はいるのか? 女子とデートしたことはあるのか? まさか一度もないんじゃないだろうな?」
 突然のセクハラ、しかしこれには理由がある。
 挑発に乗って激昂してくれれば目論見どおり、逃走技術を磨くには絶好の相手となる。
 ただ一点、誤算があるとすればその二人が戦闘力とは無関係のところで危険人物ということだった。
「恋を語るならもっと胸を膨らましてくるんだな。そんな洗濯板にゃなんの感情も沸き起こらないぜ」
 のぞき部長弥涼 総司(いすず・そうじ)が振り返る。
「俺様の嫁はこの手でおっぱいを揉んだ女だけだぁ! どれ、てめぇのおっぱいを……って全然ねーじゃねぇか!」
 おっぱい外道ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)も振り返る。
「おっぱいとは無から爆まで等しく素晴らしいもんだが、無も行き過ぎると揉むのもひと苦労だな……」
「なに、ここはオレに任せろ、ゲブーさん」
「……不吉な気配がする」
 大佐は身震いした。
 目を少年のように輝かせ迫る総司に対し、あえてガードを解き、敵の攻撃軌道を読もうと試みる大佐。
 しかし、どこを狙っているかはそんなことをするまでもなく一目瞭然だった。
 それ以外の部分をA地区とするならさしずめその場所はB地区。
 総司はB地区しか見ていなかった。
「てやっ」
「ぎゃああああ!!」
 B地区をロックオンする人差し指を手刀でへし折ると、総司はゴロンゴロンと悶絶した。
「おい、おまえ。一体どういう……」
「う〜、ううう、あんまりだぁ……あァァァんまりだあァァァ!!!
「!?」
 刹那、総司の折れてないほうの指先が、大佐のB地区をひと突きにした。
あぁん……!
 思わず漏れてしまった甘美な吐息。
 そして次の瞬間、大佐の胸元のボタンが吹き飛んだ。突然みるみる膨らんだおっぱいの圧力によって。
「こ、これは……!?」
「片指を犠牲にしたかいはあった……。これぞ万勇拳の誇る秘奥義『乳輪加算』!!」
 指先にためた気をB地区から注入し胸を肥大化させる奥義。
 なんでもこの技を受けると、シナリオ中は外見に『胸が大きい』が適用されてしまうとか。
「な、なんてこった! 俺様が絶賛練習中の技と最高に相性がいいじゃねぇか!」
「そうなのか?」
「ああ、俺様の習得を目指す技は『おっぱいモミモミ掌』だぜ、ヒャッハァー!!」
 おっぱいを優しく揉みあげリンパや血流をよくするリラクゼーションマッサージ奥義。
 しこりなどの診断も出来る技だが、超おっぱい愛に満ち溢れる欲望の無い人にしか使えない秘技とのことである。
 同時に二つのこと(性欲とおっぱい愛)を考えられない彼だからこそ使える技なのだ。
 とは言え、食らいたくない技なのは間違いない。
「俺様の愛を受けとれーっ!!」
 ゲブーの繰り出すモミモミ掌を、大佐はそうはさせじと腕で弾いてガードする。
 それから、そのままうしろに下がって煙玉を放った。
「……攻撃は最大の防御、借りは返すぞ、乳狂いども! 即席奥義『双玉粉砕破』!」
「ほぎゃあああああああ!!」
 煙に紛れ、ゲブーの股間をしこたま蹴り飛ばす……と同時にうしろに向かって全速前進。
「ざまぁみさらせ」
「う、うおお……、ま、待ちやがれぇ……!」
 生まれたての子鹿のように追いすがるが……双玉を粉砕される痛みたるや筆舌にしがたい。
「だ、大丈夫か、ゲブーさん!?」
「す、すまねぇ、兄弟……。折角のおっぱいをみすみす逃がしちまった……」
「なに、気にするな。オレたちにはまだマナミンがいるだろ?」
「ええっ!?」
 不意に飢えた獣の視線に晒され、愛美はおそるおそるあとずさり。
「いいかね、マナミン君。キミの新生BUイラストは素晴らしいんだが、ずっと何かが足りないと思っていたんだ」
「?」
「チャイナといえば身体のラインが出るハズなのに出てない部分がある。つまりソレを補えば完璧になるハズ」
「め、目が怖いよぉ」
うるせぇ、考えるな、感じろ!
 マナミン、危うし。完全に逃げ道を塞がれてしまった。
 しかし、逆境こそが人間を成長させる究極のエネルギー。彼女の大きな瞳にメラメラと真っ赤な闘志が燃える。
マナミーーン! ファーイトッ!!
 気合いとともにその脚が閃いた。真っ直ぐ繰り出されるローキックは覚えたての斧刃脚。
 奇しくも蹴りは吸い込まれるように総司の股間にクリーンヒット、双玉がスパァンと小気味よく砕け散る。
「!!!!」
「きょ、兄だ……いいいいいいいっ!!!」
 返す蹴りで、ゲブーの股間を再び粉砕。流石に一日二回の局部ダメージは泡吹いて倒れるレベルだ。
 瀕死の二人が起き上がらないようもう二、三発蹴飛ばしておくお茶目なマナミン。
「はぁはぁ……、し、死んだよね……?


 そのころ、同じ中華街公園の一画。
 そこに我流武術『白狐神拳』の創始者天神山 保名(てんじんやま・やすな)の姿があった。
 日課の門下生勧誘をしているところである。どうやらシャンバラの武術流派も弟子不足は深刻なようだ。
 しかし元気に勧誘している保名とは反対に斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は不満そうだった。
「むー葛葉ちゃん、なんでハツネ達、お仕事じゃなくて公園でプラカード持って保名の武術の勧誘してるの?」
「保名様が日課の白狐神拳の勧誘をされるなら、弟子として手伝うのは当然です」
 天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)は言った。
 すると今度は鮑 春華(ほう・しゅんか)が文句を言い出した。
「何が悲しくてキョンシーの自分がお天道様の元、バオミンの武術勧誘の手伝いしなくちゃいけないっスか〜」
「それにハツネと春華は弟子じゃないの。横暴なの、詐欺なの! 訴えたら間違いなく『判決:死刑』なの!」
「……二人とも、文句言わずに手伝ってください」
 それから保名に聞こえないよう「後で『贄』用意しますから」と付け足した。
「見事な勧誘日和じゃ。頑張って弟子を集めようぞ。三人とも手伝ってくれてありがとうなのじゃよ」
 保名に言われて、ハツネの表情がほころんだ。
「仕方ないから手伝ってやるの。もっと感謝すればいいの!」
「……しかし今日はなんだか公園が騒がしいな」
「万勇拳とかいう拳法一派が住み着いたらしいから、そのせいじゃないッスか?」
「ほほう、拳法一派が……って、なんじゃそりゃどういうことじゃ!
「ど、どーもこーも自分もよく知らないッスよ〜」
「むうう!」
 保名はプンプン怒ると万勇拳に乗り込んでいった。
「たのもー! 白狐神拳のテリトリーで好き勝手してるのはおぬしらか!」
「なんじゃおぬしら? ここは公園じゃぞ。誰のものでもあるまい?」
 老師は言う。
「……ふん、それは一理ある。がしかし、だからと言って大人しく引き下がるのはプライドが許さん」
「?」
「ここは武道家らしく、拳で決着をつけよう。負けた方が勝った方の弟子(下位流派)になる……でどうじゃ?」
「……ほほう、それは弟子も増えるし一石二鳥じゃな」
「ええい、余裕でいられるのも今のうちじゃ!」
 白狐神拳。中国武術の『八卦掌』を元にした一見して舞踊のような動作の流派である。
 剛であり柔、且つ魅せる武術が信条。白狐の優雅で繊細な動きと開掌をもちいた千変万化の攻撃が特徴。
 健康法、例えばダイエットとしても活用出来るとか。
「見せてやろう、猫とは違う白狐の優美なる技を。喰らえ、『天弧二連撃』!」
「むっ!?」
 急所を狙う神速の二連撃。
 老師は避けるでもなく受けるでもなく技にあわせて身を捻った。するりと柳のごとくすり抜ける猫体術である。
 そしてすぐさま纏うオーラが一瞬で老師の右手に集束する。一撃必殺の奥義・抜山蓋世だ。
「容易く喰らうわしではないわ」
 今度は保名が『狐手掌』で技を流す。
「その身で味わうがいい……白狐神拳奥義『天弧八卦掌』!!」
 五月雨のごとく放たれる拳の乱打。
 しかし老師は凄まじい速さで乱れる拳の隙間を縫った。
「なに!?」
「おぬしは強い。じゃが、万勇拳で腕を磨けばもっと強くなるぞ」
 掌底が保名のみぞおちを打った。小さく吐息をもらすと彼女は地面に崩れ落ちた。
 呆気ない決着にしんと公園は静まりかえった。
「そ、そんな……、保名様……!」
 葛葉の顔がみるみる青くなる、と思いきや、突然烈火のごとき怒りを顔に上らせた。
「許せません! 仇討ちさせていただきます……!」
「脳筋の保名に同情なんてしないの……けど、覚悟してなの」
「これは仇討ちにかこつけて殺るチャンス!? 猫さんに恨みはないけど喪門神様の名の元に殺されてくださいっス!」
「おいぼれ相手に三人がかりとは。最近の若者はモラルがないのぅ」
 老師の身体が白光するオーラに包まれた。
「天上天下天地無双、疾風迅雷にして驚天動地。刮目するがいい、万勇の技の冴え」
「絶対に許さない……!」
 葛葉は阿修羅の波動を放った。敵を恐怖に突き落とす恐るべき波動だ。
 だが、老師は動揺することなく一喝で掻き消す。
「な……!?」
「わしにこけおどしは通用せん」
 轟音とともに繰り出される虎鳴万勇脚、葛葉は天高く吹き飛ばされた。
「よくもなの!」
 今度はハツネがスクイズマフラーと黒銀火憐の二刀流を繰る。老師を拘束しようと二つの武器で攻め立てる。
 迎え撃つ老師は三火遅延返脚の構え、二撃でマフラーと黒銀火憐を弾くと三撃目でハツネを蹴り飛ばした。
「きゃあああっ!」
 あっという間に二人がやられ、流石の春華も目を剥いた。
 葛葉の技で動揺を誘い、ハツネが拘束、そして春華がトドメを刺す。本当ならこうなるはずだった。
「み、見かけによらず猫さんやばいッス! こ、これでも喰らうッス!」
 やけっぱちで射った袖箭も、老師のオーラがあっさりと弾く。
「そ、そんなんアリっすか!?」
「三人では足らんかったのぅ」
 指先を胸元に突きつけると次の瞬間、奥義・流気破砕を流し込まれ、春華は勢いよく吹き飛ばされた。
 そうして縄張り争いはここに決着を見せる。
 それから四人が意識をとりもどすまで数分。
 復活したのも早々に、彼女たちは保名によって土下座させられることとなった。
「お見それいたした、老師。卑怯にも三人がかりで仕掛けたこやつらをものともせんとは、その力は本物じゃ」
 ブツクサ文句を言う三人を押さえ、保名は胸の前で手を合わせた。
「約束どおり我ら四人、万勇拳の門下となろう」