イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

リアクション公開中!

【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

リアクション

 
 セルウス達の対戦の後の、一回戦第5試合。
 樹月刀真の一回戦の相手は、相田 なぶら(あいだ・なぶら)だった。
「賞品は微妙だけど、強い人が沢山参加するだろうし、自分の実力を試すいい機会だよね。
 よし、参加してみるか、フィアナ」
 そう考えたなぶらに、パートナーのヴァルキリー、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)も同意した。
「強い方々と戦うのは、なぶらにとっても良い修行になるでしょう。
 参加するというのなら、協力しましょう」
 勿論、自分にとっても良い経験になるだろう、とフィアナは思う。
「相手は全て格上と考えなさい。全力で行きますよ」
 そんななぶらだが、トーナメント表を見て、少し残念に思ったことは否めない。
 この武闘大会は、敵味方は関係ないが、それでも、キリアナに味方する者同士が当たってしまったことになる。
「まあ、仕方ないね」
 苦笑したなぶらに、キリアナが
「二人とも応援してますね」
とエールを送った。
「そうだね。
 キリアナさんに無様な姿は晒せないよね、全力で頑張るよ」

 なぶらは、攻撃しながらタイミングを測る。
 応戦する刀真も同じようだった。
 そして、気を読んで、そこから先に動いたのはなぶらだった。
 なぶらがバニッシュを撃つ。
 同時に、フィアナが刀真に突っ込んだ。
 それを月夜が迎え撃つ。
 なぶらのフェイントにフィアナの攻撃――と思わせて、フィアナのアナイアレーションの一撃こそがフェイントだった。
 なぶらは刀真の背後に回り込む。
 死角からソードプレイを仕掛けようとして、突如、ぐいっと引っ張られた。
「うわっ!?」
 腕に、ワイヤーロープが絡み付いている。
 なぶらは、刀真の金剛力の力によって無理やり引っ張られ、場外に放り投げられた。

「リングアウト!」
 審判の手が上がる。
「勝者、樹月刀真!」
「……負けたあ……」
 はあ、と息をつく。
 刀真もまた、ふっと息をついた。
「刀真。怪我」
 アナイアレーションを受けて負傷している刀真に、月夜が言う。
「ああ」
 なぶらと刀真は、軽く手の平を打ち合うと、互いに身を翻した。



 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)と、氷室 カイ(ひむろ・かい)は、互いに一人で出場した。
「よっしゃ! 正々堂々と勝負するかあ!」
 燃えてるぜー! 今俺は相当燃えてるぜー!!
 ようやく自分の出番が来て、ラルクは颯爽と舞台に上がった。
「熱いっ、熱いっ!
 おっさん、オーラで火傷するっ」
 テンション上がりまくりのラルクに、審判のトオルが、ぱたぱたと手うちわで扇ぎながら、冗談を言って笑う。
 対戦する氷室カイも苦笑だ。
「おう、あんたか! 相手にとって不足無しだぜ!」
「同感だ」
 二人は、ふっと笑いあう。

「んじゃ、行くぜー。、始め!」
 試合開始と同時、カイは修羅の闘気をまとってラルクを威嚇した。
「効かねえッ!!」
 ラルクは雷霆の拳を打ち込む。
 カイは刀で受け止め、一歩距離を置いた。
(重いな)
 流石だと思ったが、顔には出さない。
 そしてゴッドスピードで再び間合いの中に飛び込んだ。
「おりゃあ!」
 ラルクは回避しつつ、カウンターをかける。
 カイは更にその攻撃を読み、躱しながら、刀を払った。
 ぴっ、と鮮血が散るが、浅い。
「ちっ! 流石だな!」
 言うラルクはしかし、笑顔だ。
「あんたもだ」
 交わす言葉は短く、二人は再びぶつかりあう。

(隙は、あまりねえ。
 だが、無いなら無理やり作ってやるぜ!)
 ラルクが仕掛けた。
 何かを狙ってくる、とカイは気付く。
 距離をあけるか詰めるか。
 一瞬考えて、カイは詰めた。乗ってやる!
「喰らえ、七曜拳!!」
 次々と繰り出される拳撃。
 その全てを躱し、受け止めきることは出来ない。
 だが大技が来ることは解っていた。
 凌ぎきったカイは、その至近距離で、ラルクにアナイアレーションを仕掛けた。
「返すぜ!」

 攻防は続く。
 二人の全開の攻撃は終わることなく、その手は止まることがない。
 あんたらの体力、どんだけだよ、と、トオルは呆れながら、しきりに時計に目をやる。
 そして、ついに手を上げた。
「時間切れ! 引き分け〜」
「引き分け?」
「は、無いから、判定。勝者、氷室カイ!」
「ちっ、負けたか」
 ふう、とラルクは肩を竦める。
 カイも深呼吸をひとつした。
「お疲れ」
「おう。楽しい一戦だったぜ!」
「こっちもだ」
 二人は握手を交わして、舞台を降りる。



「一回戦第9試合! 毒島大佐対黒六道三!」
 審判の声に、舞台へ上がる。
「ま、賞品に特に魅力は感じぬがな」
「あの骸骨、売ったらいくらくらいになるかしら。
 ま、二束三文程度でしょうけど」
 出場はしてみたものの、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、冷めた様子で言い、大佐と双子のように良く似たパートナーの魔鎧、アルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)もまた、それに頷いて答えた。

 一見、単独対単独の対戦である。しかも子供同士だった。
 毒島大佐は、アルテミシアを装備し、また、ちぎのたくらみを使った三道 六黒(みどう・むくろ)は、奈落人虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)が憑依した上で、魔鎧葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)を装備している。
 登録の名前も、微妙に偽名だ。
「『何かと悪名を伴う犯罪者が、衆目を浴びては面倒だろう。
 これでも一応、気を使ってやっているのだよ』ですって」
 ふ、と、その様子を観客席の後ろから見ながら、彼女は肩を竦めた。
「……全く、二人一組までOKなのに、勝手に出場しちゃうし」
 魔女のネヴァン・ヴリャー(ねう゛ぁん・う゛りゃー)はぶつぶつと呟く。
「これってつまり、あたしに、脱出経路を確保しとけってことよねぇ。
 全く、魔女使いが荒いわ」
 ま、勝敗には興味無いしね、と、ネヴァンはその場を後にして会場を見物しつつ、もしもの時の脱出経路を見定める。

 その頃、大佐と道三の戦いは早くも佳境を迎えていた。

 大佐は、ミラージュで幻影を作り出し、更に煙幕を用いて、フェイント攻撃を仕掛ける。
「判定でも場外でも爆破でも勝ちは勝ち!」
 勝利の手段は選ばない。
「!? 二人っ? 幻覚ではないのか!」
 二方からの攻撃。
 大佐は、煙幕で姿を隠した瞬間に、魔鎧のアルテミシアの装備を解除していた。
 ミラージュの幻覚と見せかけて、二人同時攻撃を仕掛ける。
 人魚の唄に精神を乱されそうになったが、腕に手裏剣を受けて我に返った。
 後退すると見せかけ、前に飛び込む為の一歩を踏み込む。
「成程、面白い!」
 最も、全く同じ思想を、道三の方も持っていた。
「幻覚で惑わし、煙幕で近づけぬというのなら、その全てを撃破するまで!」
 見えるものも、見えないものも、存在するものも、しないものも。
 道三はアナイアレーションを仕掛ける。
「くうっ!」
 大佐とアルテミシアは、受け止めきれずに、その攻撃を喰らった。
 幻覚が揺らぎ、本人の居場所を見定める。
「場外でも、勝ちは勝ちよ!」
 一刀両断。
 その一撃は、足元の舞台を叩き割った。
「なっ……!」
 足元を割られ、よろめいたところに、すかさず、奈落の鉄鎖。
 道三は大佐を割れ目の中へ落とし込む。
 ばっ、と、審判を見た。
 おっとっと、とバランスを崩して舞台を降りていた審判のトオルは、肩を竦めて手を上げる。
「毒島大佐、リングアウト! 勝者、黒六道三!」

「フン、初戦としてはこんなものか」
 キリアナとの再戦を目指す六黒は、しかし次の二回戦で敗退してしまうのだが。
 
 ちなみに舞台入れ替えの為、試合は一時間程中断されることになったのだった。