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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【3】SUPER【4】


「本当にすまない」
 奈津の師匠ミスター バロン(みすたー・ばろん)はアイアンクローを彼女に決めながら謝った。
 どすんと床に落とされた彼女は顔を押さえながら言い訳をした。
「だって、気合とか根性とか浪漫なんて言葉を、イコンに関わる教師から聞くなんて思わなかったからさー。正直あたしはイコンが苦手なんだ。アレは色々小難しくっていけない。いや、決して機械類全般が苦手ってわけじゃなくて」
「絶対苦手だよな、あいつ」
「ええ、絶対に」
 桂輔とアルマは顔を見合わせた。大文字の研究室には、彼の話を聞きに集まった人間がぎゅうぎゅうに詰まっている。
「ともかく、イコン研究者でありながらそんなプロレス的な事を言うとこに興味を持ったんだ! 大文字先生は絶対プロレスを理解してるって……、まぁ、実際理解してたしな! 師匠も先生に会いに来たのはそこが気になったからだろ?」
「……まぁな」
「でも、先生の理論はすげーよなぁ。あの面倒くさそうな山ほどあるスイッチや、レバーを気にせず動くイコンだって夢じゃないんだぜ。いや、決して機械類全般が苦手って訳じゃなくてっ」
「大文字教諭は気合や根性で動くイコンを提唱しているらしいな?」
 バロンは壁に背中を預けながら言った。
「スーパーロボット理論……は、よくわからないけど。意志力とかロボットの自我みたいなものは、今はバーデュナミス中心になって離れちゃったけど、BMIインターフェース関係では大真面目に議論されていたものね」
 イーリャは言った。
「ベースはBMIだが、そこに使用者の精神力をイコンにフィードバック出来るシステム付加しようと考えている」
「それは単に絵空事ではなく、歴とした理論や確証をもって唱えているのか? もしそうなら、実現可能だというのなら是非何らかの力になりたい。気合や根性……要するに精神的な強さを動力や出力に出来るイコン。それは乗り手を選ぶだろうが、無限の可能性を持つイコンだ。プロレスを生業としてきた俺は精神的な強さを己にも教え子にも求めてきた。それをイコンという未知に活用出来るというのなら、是非試してみたい」
「……ふむ、BMIの時点で超能力(脳波)をシステムを通して外部に出力する事は可能となっている。その応用で、システムを通して脳波をマシンコントロールに結びつける事が出来れば可能のはずだ。もっとも、それには幾つかクリアしなければならない課題、例えば、複雑な人間の脳波を数値に置き換えるプログラムの開発などがあるが」
「お聞きしたいのですが、教授はそのシステムでどのようなイコンを開発しようとされているのですか?」
 真琴は尋ねた。その隣りでは恵美がメモを取りながら熱心に話を聞いている。
「教授も整備科に招聘された方なので、天御柱学院におけるイコンの世代の区分けが技術的なものである事は理解されていると思います。その中で第三世代機がなぜ開発が始まらないのかはエネルギーの問題が解決できてないからです。ジェファルコンのトリニティシステムを利用する案もありますがシステムの汎用化には最低でも2年はかかると言われています。現状2.5世代と呼ばれるものは2機存在していますがあくまで試作機。
 第三世代機のコンセプトは『単独での長期的作戦行動が可能なもの』です。教授の理論の中に第三世代のコンセプトに適合するものがあれば、まずは2.5世代機体として実際に試作しテストを重ねることが出来るかもしれませんが……」
「第三世代機か、あれはいかん。何せ浪漫がない」
 あまりにもサックリとした一言に、真琴は自分の耳を疑った。
「ど、どういう事でしょう……?」
「だから、実益重視のイコンの開発には燃えるものがないと言っているのだ!」
「………………(実益を重視しないイコン開発って一体……)」
「私の目指すところ、それは短期決戦の超火力! デカく、強く、かっこいいイコンだ! こーいうのな!」
 ハーティオンを指差す。
「うおおおおおおっ! そーゆーのいいじゃん! カッコイイ!!」
「うんうん、そう言うの嫌いじゃないよ。男は胸にでっかい野望を持つもんだ。ってお父さんも言ってたから」
 胸の熱くなった桂輔とミルトは手を叩いて興奮している。
「現実的ではありませんね。現状、イコンの大型化にはあまり利点はありません。作戦行動に必要とされるのは、機動性の高さです。大型化は機動性を損ないますし、運用出来る任務の幅も狭まります。得られる火力に対し、総合的に見てパフォーマンスのマイナスは間違いないでしょう」
 アルマは冷静に分析した。
「それに大型化となると装甲素材の問題もありますよ。どれほどの火力を搭載させるのかはわかりませんが、現行の素材ではこの威力に耐えられないと思います。30%以上強度を上げなければなりませんが、そうなるとやはり重量が嵩みますし、機動性を支えるためのブースターの出力も上げなければなりません」
 ペルラも容赦なく指摘する
「………………」
 フェルは言いたい事もあったが、リオの手前我慢した。
 ミルトと桂輔は顔を見合わせ「女ってつまんねーこと言うよな……」とうなだれた。
「……まぁそもそもエネルギーが確保出来ませんよ。第2世代機ですら実戦では3時間も活動出来ればいいほうなのですから。巨大化した機体ではそれだけ活動時間も減少します、どのぐらい大きなイコンを想定しているのですか?」
「うーん、やっぱり200メートル以上は欲しいなぁ……」
「都庁か!」
 真琴は思わず突っ込んだ。
「……あ、すみません。あの、どう考えてもそのイコン、1秒も動かないですよ」
「そんな事は承知している。現状どれだけ設計図を書いても、エネルギーに技術革新がない限り実現が厳しいんだ」
「あと、エネルギーの問題を抜きにしても、コストがかかり過ぎです。量産化の難しい機体では開発許可が降りません」
「量産? 君、つまらん事を言うもんじゃない。頂点は常にひとつだ。最強のマシンは一機あればそれでいいのだ!」
「………………」
 どうしてこの人が整備科を追われたのか、わかったような気がした。
 発想も奇抜だし、情熱を持って仕事に向き合っている……が、現実には向き合っていない。 
「まぁまぁ、”現行技術じゃ出来ない”ってのは、逆に言えば”問題点をクリアすれば出来る”と同義だよ」
 なんとなく空気を読んで、リオがフォローする。
「今日の無理は明日の無茶ってね。現状は難しくてもいずれ可能になるんだから、今のうちにプランを用意しておくのは悪くないと思うよ」
「うむ、君、良いこと言うな」
「それで大文字先生、最近新しく思いついた計画とかって、何かあるの?」
「無論だ。たくさんああるぞ!」
 山のように企画書の乗ったデスクを指差した。
「へぇ、閉鎖空間発生装置に、イコン三身合体案、時空断裂弾……、これ、企画書とかコピー貰っても良いですか?」
「別に構わんよ。どうせパクろうと思っても現状開発不可能な企画ばかりだからな、ワッハッハ」
「ほんと流石だな。なぁ先生、よければこれから弟子として色々、スーパーロボット理論について教えてもらえないか」
 よほど感銘を受けたのか、桂輔は言った。大文字はその瞳を覗き込む。
「気合いの入ったいい目だ。よかろう、いつでも聞きにきなさい。あ、そう言えば、なんか”スーパーロボット理論研究会”とか言う同好会の顧問になったから、そっちにも顔を出してみるといい」
「おおっ、恩に着るぜ、先生!」
「………………」
 アルマはまたしても温度差のあるパートナーを冷ややかに見ていた。
「ほんとにいい企画ばっかりだなー。早く実現すればいいのに……おっ、この企画書は……”G計画”?」
「!?」
 大文字は慌てて書類を奪い取った。
「おっと、それはあれだ、まだダメな奴だ。いかんいかん、こんなところに置きっぱなしだったか、ワッハッハ!」