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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

リアクション

 この少し前、リンネ一行はレンファスを間近に見る場所まで到着していた。
「今はどうなってるの?」
 問いの答えは、幽綺子が持って来てくれた。中層部でリンネ同様、『サークル炎塊』を手に入れた者たちは合流し、炎塊をレンファスへ返す策を取り、今その準備を行っているのだという。
「サークル炎塊がレンファスの一部だというなら、確かに、返してやるのが道理だな。
 ……だがそんなことをして、炎龍を余計に刺激することにはならないのか?」
 コードが疑問を呈した直後、ちょうど反対側に位置していた彼らの準備が整ったようで、箒に乗った二人組の契約者がサークル炎塊を運び、途中で一人になったその者がレンファスの開いた穴へ投げ入れる。

「グワアアアァァァ!!」
「う、うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 直後、レンファスの咆哮と投げ入れた者の悲鳴が聞こえ、彼の姿が見えなくなる。
「あっ! ど、どうしましょう! このままではあの人が!」
 フィリップの言う通り、このままでは彼――サラマンディアは燃え尽きるか食われるかして命を落としてしまうだろう。
「そうだ! これを使えば――」
 リンネが残り一つの『サークル炎塊』を手にした所で、はたと思い留まる。確かにこの炎塊は凄い力を秘めている、それは自分にもよく分かる。多分この力を使えば、危険に陥った彼を助けることは出来ると思う。
(……でも、それでいいの? これはレンファスさんの一部だって言ってた。だったら、やっぱり返してあげるべきなんじゃないかな?)
 思案するリンネへ、暴れるレンファスが溶岩を降り注がせ、炎を浴びせる。幽綺子の支援を受けたコードの攻撃が溶岩を砕き、迫る炎はスクリプト、ルイーザ、そしてフレデリカの防御障壁で何とか防がれる。
「リンネさん! 僕は皆さんが取った方法みたいに、それを返してあげるべきだと思います!」
 フィリップがリンネの背中を押す言葉をかける。最後にリンネが、一番慕う相手、博季を見る。
「リンネさんはここに、炎龍と交流するために来ました。だったら、最後までそれを貫き通しましょう。
 大丈夫、僕が付いてます。僕はいつでも、リンネさんと一緒です」
「……うん、うん! 行こう、博季くん! 一緒に、届けに行こう!」
 博季とリンネが肩を並べ、互いの片手にサークル炎塊を載せ、レンファスと対峙する。

「ギリギリ、間に合ったわ!
 花音、あなたの歌を……『アヴァロン』を、届けましょう!」

 丁度その時、彼らの頭上、崩落を免れた足場の上にリュート、公豹、ウィンダムが現れる。三人の中心で、花音が自信に満ちた表情でレンファスを見下ろす。
(音楽の結界『アヴァロン』……ボクの歌声を……光条兵器を活用して『光』に変換するイメージ……イナテミスの精魔塔を参考に創り上げた、守護の盾!
 私には感じる、レンファスには何かの外的要因が作用している。その要因をこの歌で撥ね返す!)
 花音が歌声を響かせる――。

この胸に眠る小さな灯 封印された心の奥に
 掲げる理想は遙か彼方 真実は何時も遠く霞む
 深い悲しみを越えて 譲れない意志に出逢える
 動き始める透明な願い 迷子の君を迎えに行こう

 おとぎ話に広がる地図 古の記憶と幻想の地
 導く希望……光の環 今 解き放つよ

 時の螺旋の中紡がれる世界 真っ直ぐな瞳で見つめて
 あの日の涙は確かな力 運命は自らが選ぶ羅針盤
 未来の扉に約束の鍵 全て包み込んで輝け
 彩る想いつなぐ言葉 君はもう駆け出せるよ

 無限の夢に答えを刻もう 蘇る伝説へ……



「歌が、聞こえる……。何て力強い歌声なんだ」
 マグマフィーチャーを退けた『セタレ』のコクピットで、羽純は届いてきた歌声の力を感じる。
「歌菜、彼女の歌声に――」
 合わせて歌を、と羽純が言うまでもなく、歌菜もこの時のために取っていた歌を歌う。

炎の龍
 炎の主よ

 その尊き猛る炎は 全てを焦がす為のものではない
 目を覚まして



 それと同じタイミングで、真言が操縦する箒にティティナが乗り、優しい感情を込めた歌を歌う。
(ケイオース様、もしこの歌が聞こえましたら、わたくしにほんの少しでいい、力を……。
 レンファス様を鎮める力を……!)


 三方から響く歌声、そして上空から一筋の光が射るように、けれど広がる温かみを持って差し込み、レンファスの動きが止まる。
「レンファスさん。ここにいるみんな、レンファスさんに害を与えようとして来たわけじゃないよ。
 みんな、この状況をなんとかしたいと思って来たの。……これ、返すね。だから落ち着いて、何が起きたか教えてほしいな」
 そう告げながら、リンネが最後の『サークル炎塊』をレンファスへ返す。炎塊は穴を通じてレンファスの中へ取り込まれ、そして光と歌声が晴れる頃には、レンファスから漂う暴力的な気配は感じられなくなっていた。
「あっ、見てください! 先ほどの方が!」
 フィリップが注意を促す、そこには取り込まれたサラマンディアが球体のようなものに収まる形で対岸の、雲雀の元へ返されようとしていた――。


「……く……」
 サラマンディアが目を開ける、徐々にハッキリとしていく視界が真っ先に捉えたのは、今にも泣きそうになっている雲雀の顔だった。
「馬鹿……心配かけやがって……」
「俺は……そうか、思い出した。済まない……俺の力不足だった」
 謝罪の言葉を紡ぐサラマンディアは、雲雀の両腕が火傷を負っていることに気付く。それは球体からサラマンディアを解放する際に負ったものだった。
「お前、その火傷――」
「へっ、あんたと契約した時点でこの身を焼かれる覚悟はできてるって、昔に言ったよな? これくらいの熱、どうってことねーよ」
 泣きと笑いを両立させた顔で、雲雀が笑う。それにつられる形で、サラマンディアも笑みを浮かべる――。


「うーん、凄い力だった。一瞬でも僕の力を遮断したのは凄いよ。やっぱり契約者って凄いね。
 おっと、そうこうしてる間に『サークル炎塊』が全部集まったみたいだ。これで炎龍は活動を鎮め、契約者は交流を果たすことが出来る……と。世界樹の導いた結果と同じだね」
 少年の声が聞こえた直後、炎龍の動きが大人しくなる。少年の言う通り、炎龍が活動を鎮めたようだった。
「さて、そろそろ僕は皆の前に出て、今したような話をしてこようかな。僕が居なくなれば君もここには居られなくなるから、燃え尽きないうちに脱出しちゃってね」
 それじゃ、と手を挙げ、少年は背を向けて綾瀬と漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)の前から姿を消す。やや遅れて、綾瀬も炎龍の外へ、『煉獄の牢』から外へ脱出する――。


『……我は、炎龍レンファス。……ここは、一体……』
 真っ赤な外観から、表面を冷えた溶岩で覆った姿に変じたレンファスが、低い男性の声を響かせる。自分の名前は覚えているものの、自分が何故ここにいるのかは理解していないようであった。
「ここはえっと、私たちが『煉獄の牢』と呼ぶ場所。世界樹イルミンスールの北方に位置するの」
『世界樹、イルミンスール……それだけは覚えている。我の出現をイルミンスールでなく契約者に達成させることで、イルミンスールの消耗を防ぐ……そう聞かされた』
「イルミンスールの消耗? それに、聞かされたって、誰に――」

「ここから先は、僕が話そうかな」

 リンネが疑問を発した所で、少年を思わせる声が聞こえてくる。そしてレンファスの中から現れたのは、声の通り少年の姿をした人物だった。
「ああっ、あの時の! いないと思ってたらそんな所にいたのね!」
 美羽とグラルダに助けられ、運ばれた菫が少年を指差して声を上げる。その様子で菫たちを閉じ込めたのが、さらには裏で何かと暗躍していたのが彼だと推測付けられる。
「ああ、無事に抜け出せたみたいだね。よかったよかった。
 上の入り口も開かれた。まさか先に塞いだ方まで開かれるとは思わなかったよ?」
「ケッ、オレを誰だと思ってやがる。つぅかテメェこそ何モンだぁ? なんかこう、嗅いだことのある匂いがすんだけどよぉ」
 塞がれた入り口をこじ開け、中にやって来たニーズヘッグが、訝しげに少年を見る。
「そうかもしれないね。だって僕は、世界樹なんだから」
 少年の発した言葉に、誰もが頭に疑問符を浮かべる。彼は確かに自分の事を『世界樹』と言った。しかしそれがどういうことなのか、さっぱり分からない。
「っと、その前に……。
 56号、聞こえる? こっちは終わった、そっちに居る契約者にも僕の言葉を伝えてあげて」

「あっ、おにいちゃんからだ。……うん、聞こえるよー。
 分かった、伝えるね」
 パッと表情を明るくして、少女が『おにいちゃん』と呼ぶ人物とやり取りを交わした後、集まった者たちへ向き直る。そこには状況を報告されてやって来た、エリザベートとミーミル(アーデルハイトは何かの時のために、校長室にて話を聞くことにした)の姿もあった。
「じゃあこれから、おにいちゃんの言葉を届けるね」
 言うと、少女の口から少年のような声が聞こえてくる――。