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リアクション
「滞空している……。
白鯨が龍王の卵に特攻をかけて来るのではと思っていましたが、杞憂だったようですね」
上空を見上げて、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)は、とりあえず安心する。
「もしや、オリハルコンの力で卵を割るつもりでは、と思っていましたが」
イルダーナやイルヴリーヒの予測通り、卵は『書』の魔力で割るつもりなのだろう。
オリハルコンは、モクシャを具現化させる、大陸創造のタイミングを測っている。和輝は表情を暗くした。
「イデアの試みは、強引すぎます……。
実行すれば、パラミタはおろか、下手をすれば地球も影響を受けてしまう。
パラミタも地球も、モクシャも全て滅ぼしてしまう可能性だって……」
絶対に阻止しなければ、と思う。
「とにかく、卵が割られてしまったら、そこから一気にウラノスドラゴン召喚、憑依、世界再構築となるでしょうから、その前にイデアを止めないと……」
パートナーのギフト、安芸宮 ミサキ(あきみや・みさき)は、2メートルほどの巨大な剣の状態で、和輝に装備されている。
イデアが現れたら、接近戦を挑んで、龍の召喚を妨害する。
「間に合うかどうかは、半々、という所でしょうか……」
モクシャを復活させようとするイデアは間違っている。東 朱鷺(あずま・とき)は、そう思う。
イデアを倒して、その計画を終わりにさせなくてはならないと思った。
断崖の麓から、龍王の卵を見上げる。
卵から上の断崖が綺麗になくなってしまったので、現在下から卵が丸見えの状態だが、龍のブレスが放たれ、吹き飛ばされた影響で、朱鷺が貼り付けた呪符も殆どが剥がれてしまっていた。
「貼り直しに行かないといけませんね……」
最も、『書』の魔力には、とても敵うものではないだろうが。
「超名案を思いついたっ!
孵化した龍王に世界樹の苗木ちゃんをブチ込めば、何かスゴいことになるんじゃね!?」
「すごいことって何だ。しかも卵を割る前提か。お前は馬鹿か」
イルダーナの厳しすぎる突っ込みに、めげる南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)ではない。
「俺様はこれまで、成功しないことを言ったことは無いっ!」
「ほー」
イルダーナは、光一郎の周囲に視線をやる。皆一様に、無言で首を横に振った。
「いやいや、マジでマジで、イデアはモクシャ復活云々でウラノスドラゴンをどーたらしたくて龍王をこーたらしようとしてるわけだろ。
そこに苗木ちゃんを投げ込めばアラ不思議、龍王がモクシャの世界樹になったりして一件落着しねえ?」
「何でそれが一件落着なんだ。その苗木っていうのは、そんなにものすごい代物なのか」
光一郎の背後で、パートナーのオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が深々とため息を吐く。
「光一郎よ、お主世界を救うなどと言うので助太刀せねばと思ってみれば、何という世迷いごとを。
しかも詳しく聞いてみれば、その動機、惑うもとい魔道書のおねいさん云々ときた!
あまつさえ世界樹の苗木を放り投げようとは不敬不遜!
例え府警さんが許しても、それがし『魔法少女浜名うなぎ』が許さない!!」
「シャンバラではいつからナマズを少女と呼ぶようになったんだ」
イルダーナが呆れて呟いているが、幸いにも段々とエキサイトしてポーズまで取っているオットーの耳には入らなかったし、
「国家神に変わって断固膺懲!」
というオットーの叫びと共に簀巻きにされている光一郎には反応の余地がなかった。
「おっとここに丁度『自走式人間大砲』が! 色ボケ光一郎を卵もとい弾込めして」
発射した。
「無駄弾を撃つな。どうせなら敵が来た時に当てろ」
「冷静かつ合理的なお言葉――っ」
イルダーナの突っ込みにそう叫びながら、光一郎は、記録的飛距離で龍王の卵に向かって飛んで行く。
いつか再び、次の世界で出逢えるように。
シュクラは、命を懸けた儀式の中で、そう願った。
逢いたいと望む者の近しい場所へ生まれ変われるように、と。
願いは叶えられた。シュクラの命と、そして根源宝石の力を持った者達が引き出した、世界樹の力で。
「えーと……、真面目な提案なんですが」
エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、イルダーナに訊ねた。
「龍王の孵化に『書』の魔力を使うと解っているのなら、こちらも『書』でその阻止を図れませんか?
ふたつの大陸が戦っていたという歴史を、『書』によって繰り返すことは心苦しいことですが……」
感情はそうでも、それが最も効果的な方法だとエメは思った。
だが、イルダーナは渋い顔をして考え込む。
「……ここに、水差しがあるとします」
横のイルヴリーヒが、そう口を開いた。
「水を注ぐ為には、水差しを傾ける者が必要です。
けれど、水差しからは一気に海ほどの水が溢れ、その者を飲み込んでしまう……。
『書』を扱うことも、同義です。
『書』の魔力は、扱う者の精神に反応する。最も強い願いを叶えるということでもないのです。
そして、人は人である限り、数多の思いと願いを持つ。
その全てに反応する膨大な魔力を、一度に扱える者は存在しないでしょう」
「覚醒した者が書を読む、とかでは?」
「いや、そんな簡単な話じゃない。
イデアは単純に、書を制御する方法を知ってるんだろう。
シャンバラの『書』は、制御の為に人格を植えつけたというが、成程、いい方法だったな」
イルダーナが言う。
だが、その方法も一朝一夕で出来ることではない。
『書』を使うことは危険だと、イルダーナは断じた。
「それなら、思考を全部封じちゃえばいいんじゃない」
何処で話を聞いていたのか、ひょこりとトゥレンが顔を出す。
「折角のアイデアなんだからさ。使わないの勿体無いよ。
選帝神様、意識操作できるんでしょ」
「『書』を扱わせるんだぞ。意識を封じればいいだけの問題じゃない。
生半可な奴じゃ無理だ」
「俺がやるって」
けろっと言ったトゥレンを、エメや尋人が驚いて見る。
「言い出したのは、私です。やるなら私が」
エメの言葉に、無理無理、とトゥレンは笑った。
「だってここで一番強いの俺じゃん。
選帝神様は死ぬわけに行かないし。適材適所って誰かが言ってたよ」
鬼院尋人は、黒崎天音を思い出す。
適材適所、トゥレンにそう言ったのは彼だ。
そして天音は覚醒し、それを見たトゥレンは暫く機嫌が悪かった。
じろりとイルダーナはトゥレンを見据える。
ぐいっと彼を引っ張って声をひそめた。
「本気か」
「まあね」
「下手すれば、廃人になるか死ぬかしかねない。それでもか」
「いいよ、別に」
「トゥレン」
その言葉を聞いた尋人が咎める。
「あー、嘘嘘。
別に死ぬ前提でやるわけじゃないよ」
へらっと笑って、トゥレンは手を振る。
眉間を寄せた尋人は、イルダーナに訊ねた。
「オレに手伝えることはない?」
イルダーナは、渋い顔をしてため息を吐く。
「こいつの後ろで剣を抜いて構えてろ」
「え?」
「おかしいと思ったら、迷わず刺せ」
「ちょっと」
トゥレンが文句を言おうとしたが、イルダーナは遮った。
「させたくなかったら、くれぐれも暴走すんな」
トゥレンの意識を封じるということは、彼自身の力を制御する精神を封じるということなのだ、と、尋人は思った。
確実に『書』を制御できるという確証はないし、そのままトゥレンが暴走すれば、別の災いになりかねない、そういうことなのだろう。
「……トゥレン」
やれやれと肩を竦めるトゥレンに、尋人は言った。
「絶対に大丈夫だって、信じてる」
トゥレンは苦笑して、そいつは期待に応えないとね、と言った。
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