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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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「ゴアドー島とは、まだ連絡がつかないんだな……」
 再廻の大地のゲートに残ったブルタ・バルチャが、何度目かの交信を試みて失敗していた。
 別にニルヴァーナやパラミタがどうなっても構わなかったが、一方的にやられっぱなしというのも面白くはなかった。
 できれば壮大な戦闘とかが見たいので、ここはパラミタに残っている恐竜騎士団の手によってゴアドー島のゲートを破壊してもらいたいところだ。パラミタを救うという大義名分があれば、シャンバラ政府もこの程度の犠牲は黙認してくれるだろう。まあ、出口がなくなれば、中にいる艦隊はどこかに出るか、そのまま消滅するしかないはずだ。もし、味方艦が追撃で回廊に入っていたとしても、それはそれ、貴い犠牲というものだろう。その中に、エステル・シャンフロウがいようと、国頭武尊がいようと関係ない。
「早く繋がらないかなあ……」
 そう小声でつぶやきつつ、ブルタ・バルチャは再廻の大地のゲートからゴアドー島のゲートにむけてゲート破壊の要請を発信し続けた。
 
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 そのころ、ゴアドー島の方でも、問題が表面化していた。
「いったい、何が起こっているのでしょうか?」
 ゴアドー島の空港で、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が職員たちに質問していた。
「それが、どうも、一時的にゲートがヴィムクティ回廊から切断されたようなのですが……。現在、再び回廊と接続はしたようなので、一時的な現象だと考えています。ただ、そのせいか分かりませんが、再廻の大地にあるゲートとの通信が途絶してしまいました」
「それって、どういうことなんだ?」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、よく分かんねえなという態度で聞き返した。
「考えられることは、回廊自体に。何らかの干渉があったということですね。再廻の大地のゲートが敵の攻撃によって損傷を受けたか、未知の方法で回廊自体に何らかの干渉を受けたか、あるいは、ここのシステムハッキングによってゲートの機能が一部麻痺しているかのどれかだと思います」
「これは、敵が何か仕掛けてくる可能性が高いな」
 職員の回答に、雪国ベアが言った。
「ニルヴァーナの状況が分からないと、こちらでは警備を強化するしかありませんね。もしかすると、アトラスの傷跡の次は、ここが狙われているのかもしれません。私たちもイコンで警備にあたりますから、皆さんは復旧頑張ってください」
「ええ、もちろんです。一応、プラヴァー・ギャラクシーの警備部隊がいますが、他にもイコンや大型飛空艇が警備にあたってくれるのは心強いです」
 心底ほっとしたように職員がソア・ウェンボリスに言った。先のコントロールルームの事件以来、ゴアドー島のゲートや空港はピリピリとしている。
『――ええと、なんだか、大変なことになってますよぉ』
 あわただしいゴアドー島の空港の状況に、様子を見に来ていた夢宮 未来(ゆめみや・みらい)が、精神感応で高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)にあわてて連絡をしていた。
『――うん、ニルヴァーナと通信ができなくなっちゃったんだよね。これじゃ、むこうがどうなっているのか、まったく分からないんだもん。はい、はい、分かりました、落ち着いて、何かあったらまた連絡するんだもん』
 落ち着いて今後の情勢について逐次連絡を入れるように言われて、夢宮未来がしきりに見えない高天原鈿女にむかってうなずいていた。
 
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「よし、ひとまずは俺様のメカ雪国ベアで、敵の来襲に備えようぜ」
 空港に駐めてあるメカ雪国ベアを目指して、雪国ベアとソア・ウェンボリスは滑走路を走っていた。
「ええ。でも、なんとなく、敵はゲートの中から来るような気もするんですよね」
 やる気を出す雪国ベアに、ソア・ウェンボリスがちょっと心配そうに言った。
「敵は、ここの座標をハッキングしていったらしいという情報もありますし。いずれにしても、ニルヴァーナと連絡をとることが大事です。リネンさんに言って、アトラスの傷跡からニルヴァーナ創世学園に連絡がつかないか確認してもらいましょう」
 メカ雪国ベアに辿り着くなり、ソア・ウェンボリスは、ゴアドー島そばに停泊しているリネン・エルフト(りねん・えるふと)アイランド・イーリに通信で状況を説明した。
 今回の事件では、関係者が広域にわたって散らばってしまっているため、アイランド・イーリがパラミタでの情報集約のポジションにいる。
 すでに、ゴアドー島での異変は各地の味方に連絡済みであったので、援軍はあちこちからむかっているはずであった。
「そうね、こちらでも、ネットワークの分断は確認しているわ。フリングホルニの部隊と連携がとれなくて孤立するのは面白くないからね。なんとか、アトラスの傷跡の宇宙港にかけ合ってみるよ」
 リネン・エルフトが、そうソア・ウェンボリスに答えた。
「まったく、ニルヴァーナに渡る暇も与えてくれないとはね。仕方ない、ここはイーリを中心にしっかりとした防御態勢を確立させるしかないよね。みんなが帰ってこられる道を確保しておかなくちゃ」
 ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が、再度ゴアドー島への集結を各地に発信するようにユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)に言った。
「了解。イーリは、ゲート前に位置固定しますわ。通信士は、各部隊に電文を発信してくださいませ」
 指示を受けて、ユーベル・キャリバーンが、ブリッジクルーたちに指示を出していった。
 
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「アトラスの傷跡のマスドライバーの修理部材の提供ですかぁ?」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)に要望書を提出されて、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)がうーんと考え込んだ。
「いったい、魔法石の話をどこから聞いてきたんですぅ」
「みんな知っておりますわ」
 ちょっととぼけようとしたエリザベート・ワルプルギスに、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が言い返した。だいたいにして、以前回収命令を出していたのはエリザベート・ワルプルギス自身だ。
「し、仕方ないですぅ。魔法石はまだ予備がありますから、修理用の数は出しますですぅ」
「えっ、出してくれるんですか?」
 てっきり渋ると思っていた風森望が、ちょっと拍子抜けしたように言った。
「だったら、他にも、修理用の部品、例えば衛星通信用アンテナとかももらえませんか? イルミンスールの森を敵に我が物顔に横切られたとあっては、いろいろと協力しないわけにはいかないと思いますが。費用などは、シャンバラ政府か帝国に請求できそうですし」
 これは苦労しないかなと、風森望が要求を突きつけた。どうも、ニルヴァーナでの戦いは情報戦になっているらしく、通信機器の修理が最優先らしいとさきほど僚艦から電文が入っている。
「それは無理ですぅ」
「なんでですか」
 今度はあっさり却下されて、風森望が聞き返した。
「ここは、イルミンスールだからですぅ」
「えっ?」
 意味が分からずに、風森望とノート・シュヴェルトライテが、思わず顔を見合わせる。
「そんな高度な機械などあるわけがないですぅ。そういうのは、ヒラニプラかツァンダに要求すればいいんですぅ」
 あっさりとエリザベート・ワルプルギスが言い切った。
 だいたいにして、イルミンスールは魔法の研究に特化しているため、機械文明の産物は未だに極端に少ない。もちろん、家電などは空京やツァンダからどんどん入ってきているし、浄水設備のような施設もちゃんとあるにはある。けれども、そのへんは自力開発ではなく、他の都市から持ってきた物である。当然、衛星通信用の大型アンテナなどあるはずもない。
「し、仕方ありません。とにかく、持っていける物だけでも持っていきます」
 そう言うと、風森望はシグルドリーヴァに魔法石を積めるだけ積んでイルミンスール魔法学校を出発した。