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リアクション
●鋼の鼓動(3)
ラックベリーは両のウイングを開いた状態、つまり舞台を露わにした姿でたたずんでいる。
その付近にローラ・ブラウアヒメルの姿があるのだろう。
トレーラーを囲む人影の中にパティ・ブラウアヒメルもいるだろう。
ふたりだけではない。この最前線に、多くの者が身をさらしている。
「ローラが大蛇を抑えるために賭に出て、パティも大蛇を止めるべく戦ってる……なら、俺達がこいつらをぶっ潰してふたりを……いや、皆を笑顔で再会させてやんぜ!!」
後方モニターから目を正面に戻すと、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は両の操縦桿を巧みに操った。この操作で、ぶるっ、と機体は首を巡らせたはずである。
不思議なことにこのイコン、黒麒麟と名づけた四つ足のマシンは、ときおり生きている馬のような動きをすることがある。プログラム中に実際の馬の動きをトレースした部分があるためだろうか。
黒麒麟に騎乗する武者、斬鬼天征・魂剛が手綱を引いた。
もちろん魂剛もイコンだ。戦国武者を偲ばせるフォルム、両の腰に佩くは長剣。
二十メートル近いこの巨体が、Lサイズイコンの中でも最大級の大きさを誇る黒麒麟の鞍に跨がっているのである。その威容は圧倒的なものがあった。
魂剛のコクピットにあって紫月 唯斗(しづき・ゆいと)も、無言でトレーラーを一瞥していた。
――耀助も那由他も皆それぞれの戦場で戦ってる……。なら、俺は俺の戦場で後輩たちを助けてやんないとな。
この日、ほんの短い時間だが、開戦前に彼は仁科耀助と顔を合わせている。
「耀助、さっさと那由他達を助けてこい。本当は俺も行きたいトコだがお前のパートナーだしな……。百鬼夜行は気にすんな」
そのとき唯斗は、彼にそう告げたものだ。
こうも言った。
「あの程度、俺が片付けといてやる。だから本当に助けるべきやつ、皆を助けてこい。そして、絶対、全員で帰ってこい」
と。
帰ってこいと言ったからには、唯斗自身も耀助を迎えられる状態でなければならない。優斗とて、敗れるつもりはない。断じて。
そのとき唯斗の正面のモニターに、10インチほどの小窓が開いた。
薄青いシェードのかかったヘルメット、体にぴったりのパイロットスーツ……垂だ。
「聞こえるか唯斗。第二波は人型の『眷属』が主戦力らしい。丈夫そうな盾もあるし、レンジを取った戦いは効果が薄いと見た」
「感度良好だ垂。一気に間合いを詰める戦法をとるというわけか」
「さすが話が早い。そういうことだ」
「了解」
「唯斗、敵は百鬼夜行! うじゃうじゃおるな……ま、数は数えるだけ無駄だ!」
もうひとつ、10インチほどの小窓が開いた。サブコクピットからエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が呼びかけたのだ。
「ああ。俺も勘定は面倒だと思ってる。さっさと減らすに限る」
唯斗の目には笑みがあった。それと、覚悟が。
――良い面構えをしおる。
エクスは思ったが言葉にはせず、かわりに言った。
「征けるな? と、言っても愚問だな。征くしかあるまいよ。それが、我等の進むべき道ゆえな!」
「見える見える……すごい数!」
さらにもうひとつ小窓だ。垂のウインドウに四分の一ほどかかっているのは、これが垂と行動を共にするライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)からの通信だからだ。
ライゼに頷くと、唯斗は背筋を伸ばした。
「そろそろ征こうぜ、垂。世界の剣たる力を見せてやろう」
そして彼はフットペダルを押し込んだのである。
途端、魂剛が抜刀した。両の鞘から二本の剣を、鳥の翼のように左右に構える。
刀身に空が映り込んだ。
まだ午前十時頃だというのに、薄暗く朱い色の空が。
夕焼けには似ていない。太陽は隠れ、むしろ朱い夜というべきだろう。
その下を百鬼夜行が迫り来る。
征くは風か、それとも嵐か。黒麒麟は地を蹴り駈けた。
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