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フロンティア ヴュー 1/3

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フロンティア ヴュー 1/3

リアクション

 
 
「あ、あの、ハデス様……。
 本当に調査隊の皆さんを攻撃するんですか? あ、ああっ、皆さんが来ちゃうっ」
 おろおろとそう訴えていたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は、ハデスに出撃を命じられて、仕方なく覚悟を決めた。
「……主君の命令とあらば仕方ありません。
 オリュンポスの騎士アルテミス、参ります!」
 魔剣ディルヴィングを大きく構えて、アルテミスは名乗りを上げる。
「し、仕方ないっ!
 ハデス殿がどうしてもというなら指示に従ってやってもよいぞ。
 べ、別にハデス殿の頼みだからというわけではないからな! 勘違いするでないぞっ!」
「じゃが今、ハデス殿がどうしてもというなら、と言わなかったかの」
 その矛盾したツンデレ発言に、人質のドワーフが余計な突っ込みをしていまい、奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)は調査隊よりも先にドワーフをボコった。
「ぐはっ!」
「何やっとんじゃ馬鹿者ー」
「だからわしが人質をやると言ったんじゃ!」
 後ろの方で、通路から顔を出しながら、ドワーフ達が完全に面白がっている。

「やれやれ、ようやく面白くなってきたということか!」
 恭也に無理やり駆り出されて来ていたパートナーの柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)が、戦術甲冑【狭霧】に搭乗した上から、部下の分隊に指示を出した。
「雑魚どもの相手をしろ! ハデス共を囲め!」
「ドーラ、機晶合体です。早めに終わらせましょう」
 エグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)が、高機動型戦車 ドーラ(こうきどうがたせんしゃ・どーら)に指示を出す。
「了解であります!」
「フハハハ!
 馬鹿め、我々は正義の味方が合体の途中でも攻撃する!
 アルテミス、神奈、行け!」
「神奈さん、行きます!
 必殺、オリュンポス・クロス!」
「行くぞ、奇稲田流最終奥義・交差抜刀術!」
 二人は同時に、クロス・スラッシュを放つ。
「必殺技の名前が合っていないようじゃが……」
「フハハ!
 オリュンポスは各自の自由な気風を応援している!」
 ボコられたドワーフが復活して、またも余計な突込みを入れた。
 合体機晶姫・エグゼリカドーラは、何とかその攻撃を受け止める。
「くっ……しかし!」
「甘いぜ!」
 【浄土】を装備した恭也が、上空からトイボックスで銃撃を浴びせる。
「きゃあ!」
 アルテミス達が怯んだ隙に、エグゼリカドーラが攻撃に転じた。
「な、何だとっ!?」
 押されている。ハデスは驚愕した。
「行くぜ!」
 更に唯依が、駄目押しの99式自走155mm榴弾砲で砲撃する。
「ば、バカなっ……!
 俺の策は完璧だったはずっ……!」
「はっは! 派手に行こうぜ!」
 恭也が笑った。
「くっ、おのれっ! 覚えておれよっ!
 聖剣は必ず、我等オリュンポスがいただくからなっ!」
 王道の捨て台詞を忘れずに、ハデス達は戦略的撤退をして行く。
 やんややんやと、見物人のドワーフ達は拍手を送った。

「おう、びっくりしたのう」
 ハデスに放り投げられたドワーフが起き上がった。
「大丈夫か、じいさん? 当たって無いよな?」
 恭也が訊ねる。
「なあに、ドワーフは丈夫が取り得じゃよ。中々面白かったのう」
 ドワーフはからからと笑った。
「……ちょっと建物内でやる戦闘じゃなかった気もするが」
 唯依は、壊れた内壁や柱を見る。
「まあ、また大きな地震が来たと思えばよかろう。
 それより、真打ちはこの後じゃよ」
 ドワーフはそう言って、恭也や都築達を見渡す。
「真打ち?」
 うむ、とアンドヴァリも頷いた。


◇ ◇ ◇


 最奥の広間にいたのは、竜だった。
「ドラゴン!?」
 近くに、フェニックスアヴァターラ・ブレイドが横たわっていて、某ははっとして駆け寄る。
 カメラは壊れているが、ギフトは無事だ。ほっとする。
「三日くらい前かの、どうやって入り込んだのか、此処に居座られてしまっての。仲間が一人喰われてしまったわい。
 なあに、でかいが所詮はレッサー種じゃ。おまえさんらが束になってかかれば、楽勝じゃよ」
 ファイトー、と、ギャラリーのドワーフが声援を送る。
「……やれやれ。全く……」
 某は立ち上がり、ギフトを剣化させた。刀真達も前に出る。
 竜は始めから、低く唸り声を上げて威嚇し、口の端から焔のブレスを沸々と漏らして、凶暴さをあらわにしていた。

 吐き出されるブレスをかいくぐって、某が一気に接近して仕掛ける。
 しかし斬撃は弾かれた。
「くっ、硬いか!」
 尾が払ってくるのに気づき、素早く移動する。

 月夜が援護射撃した。
 眉間は撃ち抜けなかったが、喉元を狙った一発が、皮膚の下に飲まれて行く。
「刀真! 喉!」
 月夜の声に、刀真は頷く。
「よしっ、喉だな!」
 某や康之達もまた、喉を狙って行く。
「ブレス来るぞ!」
 ズシン、と前足を踏み出して某達を下がらせながら、竜がぐわっと口を開けた。
 ゴウッとブレスが一面を覆う。
 恭也がわざと竜の顔の前を掠めながら、その上空へ回りこんだ。
 恭也の銃撃と共に、布袋佳奈子達も、魔法を撃って、竜の気を引く。
 そこへ、某が潜在解放を使い、康之はゴッドスピードで、竜の喉に突っ込んだ。
 その攻撃に、竜の首がのけぞる。
 ぐらりと傾ぎ、そして、そのまま倒れた。
 喉元からはゴボゴボと血が溢れていたが、倒れたまま、竜の口から焔が溢れる。
 自分も焔の海に飲まれるのを承知で、最後のブレスを放つ気か。
「――往生際が悪いな」
 刀真が、渾身の力を込めた白の剣の三撃で、とどめを刺す。
 口の中に焔を含んだまま、竜の頭が切断され、ブレスは放たれないまま、竜の命の灯火の如く薄れて消えた。

「びっくりしたぁ……」
 佳奈子がほっと息を吐く。
 ドワーフ達は、収穫じゃ、と喜びながら、先を争って竜の牙を抜いたり鱗を剥がしたりしている。
「さすがじゃの。やれやれ、助かったわい」
 これで修復作業に専念することができる、と、アンドヴァリは礼を言った。


 そして、竜の居た場所の向こう側に、それはあった。

「これが、巨人族の秘宝か?」
「いかにも」
 都築の問いに、アンドヴァリが頷く。
「……音叉に見えるんだが……」
「そうじゃな。音叉じゃよ」
 壁際の中央に、音叉が立っている。
 高さは、二十メートル以上はあるだろうか。
 全員が、呆気にとられて、その聳え立つ巨大な音叉を見上げた。
「え? これどうやって持って帰るの? ていうか、何にどうやって使うの?」
 仁科姫月がぽかんと訊ねる。
「ふっふ、音叉が二股に分かれるところに、六芒星が刻まれているじゃろう」
 面白そうに見ていたアンドヴァリが、ようやく助言を出した。
「そこに何かをぶつけてみるがいいよ。魔法でも、剣でも、拳骨でも何でもいいぞ」
 聖槍を握り締めながら、紅が進み出る。
 音叉を見上げて息をつき、大きく横振りした槍を、言われた場所に叩き付けた。

 音叉が震え、音を出す。
 耳からではなく、その場にいた全員の脳裏に、その音が伝わった。
 いや、音ではなく。
「……歌……?」
「そう、歌じゃよ。それが巨人族の秘宝じゃ」
 アンドヴァリは笑う。
 頭の中に届いた音は、彼等の中で、歌になった。
 どんな歌なのか言葉なのか、それを説明することはできない。けれど、それは確かに歌だった。
「これは、どう使うものなんだ?」
「そこで『とっておきの情報』じゃ。此処へ行くといい」
 アンドヴァリは、都築に地図を渡す。
「巨人族の地下遺跡じゃよ。『門の遺跡』とも呼ぶの」
「門の遺跡?」
「ふふふ、これ以上は教えんぞ。
 自分達で道を見つけるがいい。なあに、それ程難しくはないよ」
 にやにやと楽しそうに、アンドヴァリは笑ったのだった。