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イルミンスールの希望――明日に羽ばたく者達――

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イルミンスールの希望――明日に羽ばたく者達――
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リアクション



『みんな、ずっとずっと、なかよし!』

「アムくーん、きたよー!」
 扉が開かれた途端、ナナモモサクラがぱたぱた、とアムドゥスキアスの下へ駆けていった。
「こらこら、お部屋の中で走ってはダメですよ」
 彼女らの後ろを、高円寺 柚(こうえんじ・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)が続く。
「柚、三月、遠路お疲れさま。ナベたんズも久しぶりー」
「ひさしぶりー! ゲルバドルのこと、ありがとね」
「ナナちゃんがあそんでばっかりだったからー」
「ちょ、ちょっとひどいよサクラちゃん! あそんでたのはみんなおなじでしょ!?」
 一人責任をふっかけられたナナが反論する。アムトーシスが担当していたゲルバドルの案件も、ようやく決着がついた所だった。
「やっぱり、公務とかが忙しいのかな?」
「忙しかった、が正解だね。みんなの力もあって、ほぼ片付いたよ。
 だから気にしないで、柚も三月も、ね?」
「……はい! あの、この前の写真が出来たから、持って来ましたっ」
 笑顔を見せて、柚がこの前――崩壊する直前の天秤世界で、お世話になった人達へ感謝の心を伝えに行った時――に撮った写真を机に並べる。
「みんな、元気にしてるかな」
「連絡は取れるんだっけ?」
「もうちょっと時間がかかるみたい、なんて話をパイモン様から聞いたよ。お話出来たらしてみたいね」
「そうですね、その時はぜひ。……写真はフォトアルバムに入れておきますね。
 それで……えっと、報告がまだだったのでみんなに言うね。……私、先日、結婚しましたっ」
 もじもじ、と恥ずかしそうにしながら柚が、結婚の報告をアムドゥスキアスとナナ、モモ、サクラにする。
「けっこん?」
「わたししってる! すきなひとといっしょにくらすんでしょ?」
「“きずな”をむすぶんだってきいたよ」
 意味を分かっていなかったナナへ、モモとサクラが『けっこん』についてを説明し始めた。……一部、苦笑を禁じ得ないものもあったが、大方合ってたので柚も三月もアムドゥスキアスもあえて訂正はしなかった。
「アムくんはナナちゃんと一緒にならないのかな?」
 そして柚のその発言に、モモとサクラの耳がピン、と伸びた。ナナに隠れて何やらヒソヒソと話し始める。
「「……わ、わたしでいいなら……」」
「……モモちゃん、サクラちゃん、なにやってるのかな?」
 ナナの背後で、ナナの声を真似て話すモモとサクラに、ナナがジト目を向けた。
「あはは、ナナたんとはうーん……結婚は、ないかなー。あっ、別にナナたんのことが嫌いってわけじゃないからね。
 ボクもナベたんズも、どこかの枠に収まるような姿を想像できないからねー。ロノウェ様とパイモン様はまだあり得るかも」
「そうですか……残念、二人の結婚式を見てみたい! って思っちゃいましたけど」
「あ、でもアムくん、よくフィーグさんといっしょにいるよね?」
 ナナのこの言葉に、またもモモとサクラの耳がピン、と伸びた。
「あ、あれは違うよ、ボクもその、色々と助けられてるし……」
「「そんな、わたしのことは、あそびだったの!?」」
「…………だからなにやってるのかな、モモちゃん、サクラちゃん? そろそろわたし、おこるよ!?」
「わー、ごめんナナちゃん、あやまるからおこらないでー!」
 腰に手を当てて頬を膨らませるナナに、モモとサクラがひし、と抱きつく。二人の中ではナナとアムドゥスキアスは『ぜったいおこらせちゃダメ!』リストに入っていた。
「みんな集まると、やっぱり賑やかだね」
「うん。……来てよかった」
 わいわいとはしゃぐ魔神たちを、柚と三月が微笑ましく見守っていた。

「えっと、アムくんにお願いがふたつ、あります。
 一つは、私と主人の新しく住む家の設計をお願いしたいんです」
 柚が、ここに来た理由の一つをアムドゥスキアスに告げた。
「前に、アムが設計した建物を見せてもらったけど、なかなか良かったからね。
 デザインしてもらったらどうかって、僕が柚に言ったんだ」
「ボクのデザインでいいなら喜んで、だよ。柚、どんな家がいい?」
 柚のお願いを快く受けて、アムドゥスキアスが早速柚にデザインの希望を聞いてきた。
「あんまり仕切りの無い広い空間が良いですね。浴室は大きめがいいです。しゅ、主人と一緒に入りたいから……」
「ゆず、おかおがまっかっかー」
「てれてれー」
「ああぁ、ふたりとも、ゆずのおかおからひがでてるよー」
 モモとサクラが煽った結果、柚の顔は今にも火が出そうなくらいに紅く染まっていた。
「バルコニーも広い方がいいって。そうそう、広さは確か……」
 三月が手帳を開いて、候補となっている土地の広さや条件をアムドゥスキアスに伝えた。
「オッケー。柚、一晩もらえたら、ザッとだけど描いちゃうけど、どうかな?」
「わっ、すごい! 分かりました、一晩待ちます! 持ち帰って主人と相談しますね!」
 手を合わせて喜びを表現した柚が、あの、それでもう一つのお願いなんですけど、と続けて口にした。
「私と三月と、アムくんとナナちゃんモモちゃん、サクラちゃんの絵を描いてほしいんです。
 リビングか玄関か、目につく場所に飾りたいって思って」
「僕が入っていいのかって思ったんだけど、いいって話だから」
「いいよー。……あ、でも自分で自分の絵を描くのか、何だか恥ずかしいな。
 じゃあ、どんな絵を書こうかな。希望とかある?」
「特にこれといって……あっ、だったら、今この場で写真を撮って、それを絵にしてもらうのはどうでしょう?
 これだったらアムくんも楽に描けるんじゃないですか?」
「いい案だね。ナナ、カメラを持って来ていたよね?」
「うん、もってきた! つかいかたもばっちりおそわってるし、まかせて!」
 ナナが、以前三月からプレゼントされたカメラを掲げる。それじゃあ、とばかりに一行があっちこっちに移動を始めて――。

「これでいい、かな? ぽちっ」
 三脚に載せられたカメラのタイマーをセットして、ナナがアムドゥスキアスにむぎゅ、と抱きつく。フレームの中央は柚で、両脇にモモとサクラがむぎゅ、と抱きつく格好。右端に三月が並び、左はアムドゥスキアスとナナ。最初は柚と三月が並んで映るようにと柚が進言したが、それじゃ僕と柚がカップルに見えるからと固辞して、今の位置になった。
「それじゃはい、ちーず!」
 シャッターが切られ、六人の集合写真が記録された。

 ――そして、翌日。再びアムドゥスキアスの下を訪れた柚に、アムドゥスキアスは新居の設計図を広げて見せた。
「こんな感じかなー。細かい所はお相手さんと相談して決めてね。
 次に来た時には、絵の方もある程度形になったものを見せられるようにしておくからね」
「ありがとうございます! わー、暖かい感じがして、素敵です。もうこのままでもいいくらい」
 設計図を胸に抱いて、柚が満面の笑みを浮かべた。

 その後は帰る時間になるまで、これまでの事、これからの事を話し合った。
「Cヴォカロ族と戦った時のアムは、今思い返しても怖かったよ。もう二度と怒らせないようにしようって誓ったね」
 三月の言葉に、やはり同じように思い出したのかナナとモモ、サクラがぶるぶると震えながら三月にしがみついた。
「ボクだって二度とごめんだよ。ボクはここで、気ままに作品を作ってるのがお似合いさ」
「自信作が出来たら、見せてほしいな。ナナたちは何処でも元気だったから、救われることも多かったよ」
「「「えへへー」」」
 頭を撫でられて、三者一様に微笑むナベリウスたち。
「ナナちゃんモモちゃんサクラちゃんは、これから何するか決まってるのかな?」
「うーん、とくにないかなー。パイモンさまにおねがいされたときいがいは、たのしくやってるよー」
「じゃあ、いつか一緒に花火を見に行ったり、梨を狩りにいったりしたいです。
 いつも会えるわけじゃないから、会った時はいっぱい、いっぱい、楽しいことをしたいです」
「わたしも、ゆずといーっぱい、たのしいことするー!」
「するするー!」
 むぎゅっ、とナナとモモ、サクラが柚に抱きついて、これからも一緒に遊ぼうね、と約束する。
「はい、約束ですっ。また、会いに来ますから」
 柚が笑顔で、約束を交わした――。