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【四州島記 完結編 二】真の災厄

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【四州島記 完結編 二】真の災厄

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第五章  鎮魂の舞

「皆さん、よろしいですか」

 広城(こうじょう)の大広間にズラリと揃った面々に、御上 真之介(みかみ・しんのすけ)は、緊迫した表情で話し始める。

「明日我々は、首塚大神(くびづかのおおかみ)とその眷属たちが立て籠もっていると見られる首塚大社(くびづかたいしゃ)に突入します。目的は、広城 雄信(こうじょう・たけのぶ)様と旗本達を無事救出し、東野各地で起こっている怨霊の発生を止める事です。そのためには、雄信様達に憑依している、大神とその眷属の鬼神達を、東遊舞(とうゆうまい)で慰撫鎮魂し、憑依を解かれねばなりません」

 集められたメンバー達は、東遊舞を担当する舞楽班と、怨霊や眷属たちとの戦闘を担当する護衛班、合わせて約30名。
 皆御上の話を、真剣な表情で聞いている。
 今回の任務が如何に重要なものであるかを、理解しているのだ。

「しかし、首塚大社のある中ヶ原(あたるがはら)古戦場とその周辺には無数の怨霊が跋扈しており、また首塚大社の内部については全く情報がありません。そこで今回は、二段構えの作戦を取ります」
「まず最初に首塚大社の境内で東遊舞を行い、社殿の外にいる怨霊達を鎮魂。周囲を制圧し、内部突入への橋頭堡――というか、前線基地ですね――を築きます。外部の安全が確保出来た後、改めて内部に突入、という訳です」
「これは、内部の状況がわからない以上、闇雲に突入するのは大変危険なため、退路を確保しておいた方が良い事。また、周囲を攻撃的な怨霊に囲まれて東遊舞を舞うのは初めての事なので、一度『予行演習』をしておいた方がいいだろう、という判断に基づいての事です。東遊舞の方は円華さんが、護衛の方は、樹さんが指揮を執ります」

 御上に紹介された五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)緒方 樹(おがた・いつき)が、立ち上がって一礼する。

「今のところ、一段作戦・二弾作戦共に一晩で終了させる予定ですが、状況によっては複数日に渡ったり、あるいは撤退することもあり得ます。その判断は、適宜僕が行う事になります――ここまでで、何か質問は?」

 誰も手を挙げる者がいないのを確かめて、御上が立ち上がる。

「それじゃ、ブリーフィングはここまで。集合は、明朝6時。みんなそれまでゆっくり休んで、十分に英気を養っておくようにね。それじゃ、解散」

 御上はその最後の一言を、皆の緊張を解きほぐすよう、努めて柔らかく言った。  


「御上くん!」
「あぁ、キルティスか」

 御上の姿を見つけ、向こうからキルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)が駆け寄ってきた。
 
「どうしたんだ?そんな息を切らして――何か、問題でも?」
「え!?違う違う!良かったら、夕食一緒にどうかなって思って」

 慌てて手をブンブン振って否定するキルティス。

「なんだ〜。走ってくるから、何か困ったことでも起きたのかと……。いいよ、一緒に食べよう」

 ホーッと溜息を吐く御上。
 それを見るキルティスの顔には、複雑な表情が浮かんでいる。

(せ、折角御上くんの緊張をほぐそうと思ったのに!何やってんだボクは!!)

「ど、どうしたのキルティス?」
「ううん、なんでもナイナイ!さ、それじゃドコ行こうか?」

 御上と並んで、広城の街へと繰り出すキルティス。
 先程のブリーフィングもそうだが、メガネを外してからの御上は、いつも気が張り詰めている。
 キルティスは、その御上の心労を少しでも和らげてあげたいと思ったのだ。

 城外は怨霊騒ぎで戦々恐々としているが、城下は至って平和そのものだ。
 キルティスはその夜、明日の作戦のコトや炎の魔神のコトには一言も触れず、また御上に対する好意をハッキリと表に出すことも無く、気のおけない友人として振る舞った。
 御上も、そんなキルティスの気持ちに気付いているのか、難しい話は一切口にすること無く、また、ここしばらく無いくらいよく笑った。
 キルティスは、そんなリラックスした御上の笑顔を見られた事が、とても嬉しかった。


「悪いっ!遅うなった!」
「ううん、大丈夫だよ。私も、さっき来た所だし」

 息を切らして駆けてきた日下部 社(くさかべ・やしろ)に、五月葉 終夏(さつきば・おりが)が「ハイこれ」と言って、ハンカチを差し出す。
 恋人同士の二人は、これから二人きりで食事に行く予定だ。

「あ、ああ。有難う」

 差し出されたハンカチを受け取って汗を拭く間も、社はしきりと辺りを気にしている。

「どうしたの、やっしー?何か、気になるコトでも?」
「ん?い、いや、そんなん大したコトや無いんやけど……また未来のヤツがついて来たりしてへんかな、と」

 社が契約を結んでいる悪魔響 未来(ひびき・みらい)は社曰く「出歯亀の天才」であり、社が終夏と良い雰囲気になっている時には必ずと言って良いほど一部始終を覗いているのである。

「なぁに、やっしー?未来ちゃん気にしてるの?」
「いや、オレは別にそんなに気にしてないけど、オリバーなんかは嫌やないかな思て……」
「私はね、やっしー――」

 社の顔を覗き込むようにする終夏。

「私はそんなコトより、やっしーが私よりも、他の事に気を取られてる方がイヤだよ?」

 すぐ目の前に迫った終夏の瞳に、社の胸が思わずドキリと高鳴る。 

「ご、ゴメン――……。ほな、行こか!」
「ウン!」

 終夏の手を取り、街の雑踏へと踏み出す社。
 二人は、お目当ての店へと手をつないで歩いて行った。


 夕食後――。
 二人は、広城への帰り道を、並んで歩いていた。
 下調べした甲斐あって、店で出された料理は噂以上に美味しかった。少し食べ過ぎなくらい食べた二人は、すっかり満ち足りた気分で夜風を楽しんでいた。

「ねぇ、やっしー?」
「うん?」
「いよいよ、明日は出発だね」
「そやな……。しかし、こんなに早くもう一度首塚大社に行くコトになるとは思わんかったな〜」
「そうだね〜。しかもまた、大神様の前で演奏するんだものね〜」

 突然、終夏がクスクスと笑い出す。
 
「な、なんや一体!突然笑い出して!」
「ゴメンゴメン。初めて首塚大社で演奏した時、やっしーが緊張で泣きそうな顔してたの思い出したら、おかしくって」
「だ、誰が泣きそうな顔しとんねん!そんな顔、オレしてないで!!」
「いいえ。してました!」
「してへん!」
「してた!」

 互いに譲らず、真正面から睨み合う二人。

「プッ……」
「ククッ……」

 しかしそれもつかの間。どちらともなく、笑い出してしまう。
 二人はその後も、首塚大社での思い出話をしながら、歩いた。
 社を元気づけようとした終夏が、勢い余って社に告白したコト。
 ファーストキスのコト。
 そしてその一部始終をみんなに観られて、死ぬ程恥ずかしい思いをしたコト。

「ねぇ、やっしー?」
「ウン?」
「明日の東遊舞、絶対成功させようね」
「ああ、そやな。そいでもって、首塚大社も、東野も、みんな平和にしよう」
「ウン!頑張ろうね!」

 嬉しそうに社に腕を絡め、頭を預けて歩く終夏。
 その横顔を見ながら、社は、

(そやな……。そいでもって、首塚大社で結婚式とか……してもええかもな……)

 などとと考えながら、白無垢姿の終夏を、薄ぼんやりと想像していた。



 首塚大社に向かうメンバーが、翌日の作戦に向けてそれぞれに英気を養っていた、ちょうどその頃。
 同じ広城城下にある私塾『魁!四州塾』では、これからとある稽古が行われようとしていた。

「みんな。今日まで、よく頑張ってくれた」

 大広間響くレン・オズワルド(れん・おずわるど)の言葉に、居住まいを正した生徒たちが、じっと耳を傾けている。

「首塚大社での東遊舞の奉納が、明日、行われる事になった。その為、この東遊舞の稽古も、今日が最後になる」

 生徒たちの間に一瞬、緊張が走る。
 この舞の成否に東野の命運がかかっている事を、皆知っているのだ。
 そして、首塚大社での奉納と時を同じくして、彼等も、自分たちの故郷で舞を舞うことになっている。

『東野の民が、自分達の手で、自分の身を守れるように。そして自分たちの手で、同胞をナラカへ誘う事が出来るように』

 そう考えて、一般向けの東遊舞講習会の開催を提案したレンに、東遊舞継承者たちは、こぞって協力を申し出てくれた。
 彼等は、レンとメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)に東遊舞をみっちり教えこんでくれただけでなく、教材としてのビデオ撮影にも全面的に協力してくれた。
 レンが《根回し》で、瓦版屋に講習会の宣伝を頼んだ他、御上 真之介(みかみ・しんのすけ)や四州塾の面々が、地方への宣伝や参加者の移動に協力してくれた事もあり、かなりの参加者が集まった。
 こうして盛況の内に始まった講習会は、かなり時間的な余裕が無い事もあって、かなり厳しいモノになったが、生徒たちが頑張ってくれたお陰で、一人の脱落者も出さずに今日を迎える事が出来たのである。
 生徒たちはまだまだ免許皆伝とは言えない腕前だが、なんとか舞を奉納できるレベルには達している。

「舞の奉納がいつ始まるかは状況次第なので、はっきりした事は言えませんが、日没からそう時間はかからないと思います。いつ開始するかは、私から皆さんに渡した無線機に連絡しますので、日没前には全ての準備を整え、待機していて下さい」

 メティスの注意に、皆が頷く。

「それともう一つ。明日、村に帰ったら、一人でも多くの村の人に東遊舞の事を伝えてくれ。歌を歌ってくれるだけでも構わない。鐘と鈴を鳴らすだけでも構わない。勿論、舞の間一緒に祈りを捧げてくれるだけでもいいんだ。一人でも多くの人に、死んでしまった家族や友人、知人や恋人の事を想って欲しいんだ。それが、この東遊舞で一番大切なコトなんだと思う」

 レンは心を込めて、生徒たちに語りかけた。

「では、稽古を始めよう。今日の稽古には、特別講師を呼んである」

『特別講師』と聞いて、ざわつき始める生徒たち。

「東遊楽の継承者セツさんと、東遊舞の継承者幸(さち)さんだ。みんなの為にわざわざご足労願ったのだから、分からない事があったら遠慮なく聞いて、少しでも上達するよう努力して欲しい」
「「「「ハイ!!」」」」

 皆のやる気に満ちた返事に、セツと幸の顔が思わず緩む。
 こうして、最後の稽古が始まった。