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3.ビュリの家

「お茶が入りましたわ。どうぞ」
 ジュリエットが、ビュリに紅茶の入ったティーカップを渡す。他の者たちには、小鉢だったり深皿だったり、結構適当だ。一人暮らしのビュリの家には、この大人数の客分のティーカップがないのだからしかたない。
「おいしい」
 紅茶を一口啜って、ビュリが嬉しそうに声をあげた。普通に、ジュリエットの淹れてくれたお茶に感激しているようだった。
「よろしければ、メイドとして雇っていただいても……」
「それよりもだ」
 自分を売り込もうとするジュリエットを制して、レイディスが話し始めた。失礼ですわと憤慨するジュリエットを半ば無視する。
「本当はイタズラじゃねぇんだろ? 魚屋のオッサンのときは、魚の売れゆきが悪かったから普通に焼いてやろうと思った。家が凍っちまったときは、暑いって言ってたから涼ませようとした。大量のゆで卵んときは、腹が減ったって聞こえたから手短な物を大釜でゆでた。燃えた木は蜂の巣でもできてたから火で追っ払おうとした……てとこか」
「なんじゃなんじゃ、唐突に。お前たちは、そんなことを言いに、この偉大な魔女ビュリのところにやってきたと言うのか」
 レイディスにまくしたてられて、ちょっとビュリが面食らう。
「まあまあ、そんな言い方をしては、ビュリさんも困るでしょう。まずは、一緒にお茶を楽しみましょう」
 霧島は間に割って入ると、深皿に入った紅茶をずずずと飲み干した。
「汚い飲み方だなあ」
 その様子を見て、桐生がちょっと顔を顰める。
「もっとボクのように上品に……」
 言いながら、桐生がお玉に入れられた紅茶を、おちょぼ口で音をたてずに啜った。
「それのどこが上品なんだ」
 言い返す霧島に、ビュリが思わずくすくす笑いをする。
「そんなふうに笑えるんだ」
 ニッコリと笑いながら、桜華が言った。
 何を言われたのか分からずに、ビュリがきょとんとする。
「それで、どうして町の人に追いかけられるようなことになったのかを話してくれないか。町のみんなはビュリに腹を立てているんだが、どうも何か勘違いしているようなんだが」
「やっぱり、町の者たちはわしのことを怒っているのか? なんでじゃ」
 村雨の言葉に、ビュリはうつむき加減につぶやいた。
「だから、俺の推理通りなんだろ。やり方がまずかったってわけだ」
 レイディスが、勝ち誇ったように声をあげる。
「ちょっと違う。魚は、あのままだと腐ってしまうから焼いてやろうとしたのじゃ。どうせなら、全部焼いてやろうと思ったのじゃが、火力調整がうまくいかなくての。力がありすぎると、小さい術は難しいのじゃ」
「氷は?」
 ライが、ビュリをうながした。
「あの家は、なんだかみすぼらしく見えたのでな、窓を雪の結晶で飾って綺麗にしてやろうと思ったのじゃ。ゆで卵は、生卵よりはおいしいじゃろう……」
「俺の推理が……」
 ビュリの告白を聞いて、推理が外れたレイディスがどんどん落ち込んでいった。
「木を燃やしたのは、さっき言われた通り、蜂の巣があって危ないと思ったからじゃ。ちと燃えすぎてしまったが……」
「そうだろう、そうだろう」
 レイディスが復活する。そのまま落ち込んでいなくなってくれれば、自分がビュリを独占できる確率が上がったものをと、ジュリエットは心の中で舌打ちした。
「でも、それをちゃんと町の人たちに説明しないとな。そのやり方では、無駄に恨まれるだけなのだよ」
 桐生が、ビュリを諭した。
「なんでじゃ。わしは、喜んでもらおうとしてやったのに。わしを追いかけてきたのも、本気ではなかろう? 偉大な魔女ビュリが誰かをいじめるわけないとみんな知っておるじゃろうに」
 その言葉に一同が静かに首を横に振ると、ビュリはショックを受けたように涙ぐんだ。
「やっぱり。本気で怒っておったのか。だから、おぬしたちを使って、わしをいじめようとしておるのか」
「違うわ。誰も、あなたをいじめようとなんかしていない」
「そうだな。それは、俺が許さないと約束しよう」
 桜華の言葉に、村雨が同意した。他の者たちも、今度は力強くうなずく。
「人は、言葉にしなくちゃ、分からないものなのよ。だから、ちゃんと町の人たちに説明して仲直りしましょう」
「そううまくいくかしら」
 ビュリをうながす桜華に、ジュリエットが横やりを入れた。
「うまくいかせる。そのために、俺たちはここにきたんじゃないか」
 村雨が、力強く言った。
「まあ、こちらの言い分を聞かない奴は俺が代わりに斬り捨ててやってもいいぜ」
「それはいいですわね。ビュリ様はあくまでも正義。悪はあなた」
 不敵に言い放つ霧島を、ジュリエットが囃したてた。
「そうでさあ。あくまでもビュリさんは正義の味方でなくっちゃ」
 突然、窓の外から聞き慣れない声が響いた。
 いつの間にか、窓枠に片足をかける形で腰かけるナガンの姿がそこにあった。
「貴様、何者だ」
 村雨が素早く抜刀して、怪しいピエロ姿のナガンに対峙する。
「おいおい、物騒な物はしまってくれよ。このナガン様は、わざわざ町の一大事をビュリさんに知らせに来たんだぜ」
「町の一大事じゃと」
 ビュリが驚いて、聞き返した。
「そうでさあ、町で大暴れしている奴がいるんですよ。それはもう、家は壊すは、人は半殺しにするわ、とても酷い奴で……」
 許せファストナハトと心の中で本気でもないことつぶやきながら、ナガンは続けようとした。
「どうも、胡散臭いですわねえ」
 ジュリエットが、疑いの目をナガンにむける。
「助けに行かなくては。町の者たちは、わしの隣人じゃ。友達になる者たちなのじゃ。まだ、まだ、ごめんの一言も言っていないのに……」
「そうだ、助けに行くべきだ。今度こそ、本当に役にたつことをしよう」
 桐生が、ビュリの言葉に賛同した。
「行くのじゃ!」
 ビュリが飛び出していく。他の者たちも、あわてて後を追っていった。
「みんな、ついてまいれ」
 空飛ぶ箒に飛び乗ると、ビュリは高々と空に舞いあがった。
 桐生は村雨の飛空艇に乗せてもらい、ジュリエットは当然のようにまた桜華の飛空艇に乗り込んだ。他の者たちは、自分の飛空艇でビュリの後を追う。
「あら、その飛空艇、故障していたのではなくて」
 平然と自分の飛空艇でついてくるライにむかって、ジュリエットが疑問を投げかけた。
「あ、いや、ええと……。さっき蹴飛ばしたら直りまして。それよりも、急ぎましょう」
 ライは、苦笑いしながら、なんとかごまかした。
 噂通りに、ビュリの空飛ぶ箒はとても速い。追従する飛空艇ではあっという間に離されそうになって一同はあせった。だが、ふいにビュリが空中で急停止したので、なんとか追いつくことができた。
 見ると、町の方からやってきた別の空飛ぶ箒と正面衝突しそうになって、あわててお互いに急停止したらしかった。
「あなた、ビュリさんよね? わあ、やっと見つけた。私、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。後ろに乗っているのは、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。よ・ろ・し・く」
 元気に自己紹介する小鳥遊は、緑の髪のツインテールにとんがり帽子と、ビュリそっくりの姿をしていた。
「お揃いだのう」
「お揃いだよ。もう、影武者だってできるぐらいにそっくり」
 感心するビュリに、小鳥遊が自慢した。
「町から来たのか。何か起こっていなかったか」
 追いついた村雨が、小鳥遊に訊ねた。
「うーん、私はビュリさんを捜すのに忙しかったから、よく分かんないなあ。みんないろいろやってたみたいだから、結構騒がしかったりはしたけれど。そう言えば、こっちにむかうとき、後ろで花火みたいな音がした気もするけれど、分かんないや」
「すみません、美羽さんがお役にたてなくて……」
 唇に人差し指をあてて考える小鳥遊の後ろで、ベアトリーチェがポニーテールをゆらしながらしきりに謝っていた。
「確かめに行く?」
「もちろんじゃ」
 小鳥遊に答えると、ビュリは再び先頭を切って町へとむかった。

    ☆    ☆    ☆

「ちゃりーん、楽勝だったぜ。ばっちり予定通りだ」
 ビュリの家のテーブルに両足を投げ出して、椅子に座ったナガンは満足そうにほくそ笑んだ。
 あわてていたビュリたちは、ナガンのことなどすっかり忘れて飛び出していったのだ。こうなってしまえば、後はナガンの好き放題だ。
「さってと、そろそろお宝探しを始めようかね」
 台所でいろいろつまみ食いししたり、紅茶の残りを飲んで一休みしたりした後、ナガンは本格的に動きだした。どうせビュリたちはすぐには帰ってこないだろうからとたかをくくっているので、実にのんびりとしている。
「うーん、こいつはただの空瓶か。おっ、これは薬草っぽいな。おや、こんなところに梯子がある。隠し部屋か何かか?」
 ビュリの体格に合わせたような小さな梯子を見つけて、ナガンは嬉々としてそれに足をかけた。細い筒のような通路を、梯子で登っていく。
「何が出るかな、何が出るかな……」
 鼻歌を歌いつつ上っていくと、足に何か抵抗があった。糸みたいな物を引っかけたような感じがする。
 バチバチバチ……!
 足下で、火花が走った。
「やべえ、魔法の罠に引っかかって……」
 最後まで言えないうちに、ナガンの足下で大爆発が起こった。