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海開き中止の危機に!

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海開き中止の危機に!

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「私が先に見てくるね」
 そう言って茅野 菫(ちの・すみれ)はパートナーのパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)よりも先に浜を見たのだが。
 言われたパビェーダはゆっくりと、菫の背中に歩んで寄った。
 図書館で調べに調べた。首の付け根が弱いこと、砂を食べると炎が消えること、太陽が沈むと一斉に眠ること、苔や若芽が好物なこと、水を浴びるのは苦手だが水分の摂取は必須であることなど。捕獲して連れ帰って飼育するまで、その方法もシュミレーションも完璧だったはずなのに。
 パビェーダが見た菫の背中が小さく震えていた。
「菫? どうかした?」
「悪い知らせと、とっても悪い知らせがあるわ。どっちから聞く?」
「何? どっちも悪いの?」
「どっちも悪いわよぉ」
 振り向きながら涙を溢れさせて、菫は浜を指差した。
「あたしのサラマンダーが、サラマンダーが、一匹も居ないのよぉ!」
 パビェーダはその言葉と浜の光景に目を疑った。確かに浜にサラマンダーは一匹も居ない、それもそのはず、ついさっきマルティが手配した船でサラマンダーも繭も全て火山島へ運んでしまったのだから。
「あんなに調べたのに、学校に申請書まで出したのにぃ」
 到着が遅れたのには理由がある。誰よりも多く誰よりも効率よく誰よりも深く調べ上げた、ただ、時間をかけすぎてしまったのだ。
 泣き崩れる菫。ペットとして飼いたいと笑って言った菫の顔を思い出して、パビェーダは胸に痛みを覚えた。
「あれ? そう言えば、もう一つの悪い知らせって、何なの?」
「うっ、うぅぅっ、あれ…」
 菫が指差す先、屋台が並んで立っている。多くの生徒たちが集まって賑やかな様子が見て取れた。
「屋台が、どうしたの?」
「楽しそうでおいしそうで、食べたら太るでしょう」
 あぁそうね、菫だけ太ったら、一緒に双子ルックで楽しむ事も出来ないもんね。
「でも、行くんでしょう?」
「うん、行く…」
 笑んでため息、パビェーダは菫に手を添えて立ち上がらせて、涙を拭いて笑顔を作らせて。食事の時は笑顔。どんな事があっても、それで、楽しい時間を過ごせるのだよ。


 日下部 社(くさかべ・やしろ)とそのパートナー望月 寺美(もちづき・てらみ)のお好み焼き屋の屋台では八月十五日 ななこ(なかあき・ななこ)空閑 桜(くが・さくら)がもんじゃを食べていた。
「お熱いですか?」
「大丈夫、熱いのは好きだもん」
 寺美の問いには桜が応えた。ななこは必死になって食べていた。
「おいおい嬢ちゃん、あんまり急ぐと、ごっつんこ、だぞ」
 それでもななこは目も触れず。
「ななちゃん、さっき、ファイアサラマンダーて、食えりゅのか… ? って聞いてきたんだよ」
「あの化け物トカゲを食ぉうとしたんか、はっはっはっ、面白ぃで、ほれ、サービスや」
 そう言って社はチーズと餅のブロックを加えてくれた。
 可愛い娘と面白い娘には、社の屋台はサービスが多いみたいですね。


 満面の笑みで食べている、士 方伯(しー・ふぁんぶぉ)は念願のカキ氷を口に運んでいる。繭を運んでいた時の仏頂面が嘘のような変わりようである。
 柳生 匠(やぎゅう・たくみ)が開いたカキ氷の屋台。手伝っている祢夢 神音(ねむ・かむね)は匠の顔を覗いて言った。
「ねぇ本当に、今日は海に入れないの?」
「あぁ本当だ、明日、海開きが行われたら入れるようになる」
「うぅ、つまんない」
 会話を聞いていた方伯のパートナージュンイー・シー(じゅんいー・しー)が神音に言った。
「時機に陽が沈む。夜の海は危険だ、楽しみたいなら明日を待つと良い」
「そうだ、楽しみは我慢するから楽しいんだ、そう思うだろ?」
「我慢しなくても泳ぐのは楽しい」
「そう言われては、何も言えんな」
「まったくだ」
 ゆっくりと、そして落ち着いた雰囲気。
 匠の屋台は、大人な時間を楽しめるかも知れませんね。


 氷屋と言えばカキ氷を売っていると思うでしょう。天津 諒瑛(あまつ・りょうえい)の氷屋台はスイカばーしか置いていない。一種類のみの強気な戦略、いや、実は諒瑛のパートナーサイカ・アンラック(さいか・あんらっく)の命によるもので、スイカばーはサイカの大好物なのだ。
 そんな屋台でスイカばーを食べているのが瀬田川 瑠璃華(せたがわ・るりか)峰谷恵(みねたに・けい)。ふと恵が尋ねた。
「スイカばーの種は、チョコレートなんだよね」
「そうだ、甘くて美味いチョコレートなのだ」
 サイカが熱く加わってきた。恵は続け訊いた。
「本物のスイカの種がチョコレートだったら、甘すぎるのかな」
「そりゃぁ、甘いな、甘い」
「でもきっと美味しいよ、あたし、食べたいもん」
 瑠璃華も加わり、熱くなってきた。
「種無しスイカを作る事と、種を甘くするのって、どっちが大変なのかな」
「そりゃぁ、種を甘くする方だろう、聞いた事ないし」
「でも種を無くせるんなら、甘くだって出来る気がする」
「甘い種か、いちいち種を捨てる必要がなくなるのか」
「それは食べやすいよね!あたし、好きかも」
 スイカの種について? いや、スイカばーについてだろうか。
 ゆっくりじっくりコアな話がしたいなら、足を運んではいかがです?


 屋台と言えば、そう、焼きそばでしょう。陽神 光(ひのかみ・ひかる)の屋台は焼きそば、フェニックスをひのかみと読ませた看板のお店だ。
 食べながら、箸を休めながらに百鬼 那由多(なきり・なゆた)に、パートナー・ヴァルキリーのアティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)が訊いていた。
「何時もの通り、紅茶を淹れましょうか?」
「要らないわ、というか海の家なのよ屋台なのよ、場違いもいい所です」
「あら? 場所によって、いつもと違う事をするのなら、私が前衛でなくてもよかったんじゃなくて?」
「それはそれ、です。適材適所という言葉もあるでしょう」
「ではやはり紅茶は淹れますわね。紅茶はあなたという場所にこそ適していますから」
「そうじゃなぁくて!」
 アティナの静かな怒りをみた気がした。何を言おうとも返そうともに収まらない、調理をしている光もアティナの言葉の意図を理解したからこそ、何も言葉を挟んだり投げたりしなかった。
 大事な話があるのなら、伝えたい想いがあるのなら、光の屋台での展開をお勧めします。話しやすい雰囲気の中、狙ったままの会話が出来るかもしれませんよ。


「さぁ、いらっしゃいいらっしゃい、おいしい焼き鳥はいかがー?」
 大崎 織龍(おおざき・しりゅう)とパートナーのニーズ・ペンドラゴン(にーず・ぺんどらごん)、そして助っ人のセリア・ヴォルフォディアス(せりあ・ぼるふぉでぃあす)の屋台は焼き鳥屋さん。織龍の意向により、味は特製の塩ダレしか置いてないよ。
「うぉぉぉい、焼き鳥一本、塩ダレじゃないやつぅ」
 塩ダレしか無いと言っているのにナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)のような事を言う客もいるわけで。そんな時には隣に設置していた笹原 乃羽(ささはら・のわ)が開いた、こちらも焼き鳥屋さんに注文を回すのだ。こちらは全般の味を用意してあった。
 焼き鳥屋。酒が入れば、また違ってくるだろうが、それでも焼き鳥屋の雰囲気には人を酔わせ、本音と愚痴をぶつけあう、そんな空気が漂うものである。
 ナガンは言った、声を荒げて。
「ったくよぅ、絶対売れると思ったのによ、パラ実名品ふんどし。一枚も売れねぇってどういう事だ、みんなセンスがねぇんだ、分かってねぇ」
 ナガンに続くのは、沢 スピカ(さわ・すぴか)のようだ。
「私なんて、売る機会すらなくて、調達していたら燃やされて、ふふふ、全て思った通りでボロ儲けのはずだったっ、けほっ、けほっ、かはッ!!」
 燃やされたと言えばリオール・バイロン(りおーる・ばいろん)も参戦しますよ。
「サラマンダーの鱗を使って鎧を完成させるつもりだった、それをあの時の火の弾が、くそっ、一体何だったのだ、何だったというのだ」
 怒る者ばかりにあらず。カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)は泣きそうである。
「この俺が、あの全裸変態のパートナーみたいに見られてたんだよ、俺たちを見てた奴が言ってたんだよ、冗談じゃねぇぜ、おかげで今日一日ずっと何かから逃げてたんだぜ」
 おっとめずらしい、お客さんだけでなく、屋台運営サイドにも不満のある者がいるようですね。セリアが織龍に言っていますよ。
「どうして私まで屋台の手伝いをさせられてるのよ、私は市販のアイスを売って回りたいのよ」
「いいですよ、ここで売って」
「売るって何を? アイスをか? 焼き鳥屋で?」
 ニーズも驚きの声を上げるが、織龍は何でもないように続け言う。
「セリアに手伝ってもらったら、セリアが上手だったから、そのまま手伝ってもらってたんだよ、だから、ここでアイスを売ればいいんだよ、このまま手伝ってもらって、アイスも売れば良いのよ」
 セリアは不意を突かれた、そんな気がした。やらされてやっていた焼き鳥屋台の仕事、それが上手だと褒められて、嬉しく思ったのだが…。
「って、待て、アイスを売るのは良いが、私、まだこの店の手伝いをするのか? というか、させるつもりか?」
 織龍もニーズも笑んでいるだけ。共に過ごす時間があるなら、それが苦痛だと感じないなら、その場に居る事は偶然じゃない、何かしらの要素が重なったからこそ、この時間と空間を共有している。それぞれに言いたい事も思う事もあるでしょう。織龍の屋台を訪れるなら、あなたも何かに魅かれて訪れたという事。心を軽くしてくれる、そんな期待を抱かせる屋台なのかも知れませんね。


 カキ氷やアイスの屋台はやはり人気のようですね。虎崎 千乃(とらさき・ちの)の屋台に女の子三人組が入っていったようですよ。
 千乃のパートナーの龍崎 蒼(りゅうざき・そう)が出迎えた。
「いらっしゃい、って子供かぃ」
 来店したのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)硯夜 夜々(すずりや・やや)、そのパートナーの守夜 胡桃(もりや・くるみ)である。
 カキ氷を頼んだ三人に千乃が運んで渡していたら、
「ねぇお姉さん、ヴァーナーはとってもとっても強いんだよ、サラマンダーも一人で食い止めて気絶させちゃったんだ」
「いや、ボクは騎士だから、それに」
「かわいいは正義、だから負けない。カッコイイです」
 夜々がそう言ったのを聞いて、蒼も笑顔で、
「それはお譲ちゃんの信条かい? 良いねぇ、かわいいも正義も上っ面だけ繕った所で虚しいだけだからなぁ、その歳で分かってるなんて素晴らし… って、うおぉっ」
 何て言ってる途中で叫び出したから、三人はもちろん、屋台に入ってきたカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)晃月 蒼(あきつき・あお)も跳ね上がって驚いた。
「おぅおぅおぅおぅ、姉ちゃん、こっちに座んな、何が良い、何食いたい?」
「ちょっと蒼、落ち着いてです」
「馬鹿言ってんな、ようやく、やっと姉ちゃんみたいな若くて綺麗な客さんが来てくれたんだ、あぁそうだ、疲れてるだろ?肩揉みもサービスで付けておくからよ」
「結構だ」
 蒼の声を一閃したのは晃月のパートナーレイ・コンラッド(れい・こんらっど)の低声だった。
「ずいぶんと下品な奴が居るな。カリン、店を変えようか」
「ちょっ、カリンって、呼び捨てに、しないでよね」
「失礼しました。様、をつけるのは恥ずかしいと仰られたので、思い切って砕けた呼び方にしたのですが、申し訳ございません」
「別に、謝ってくれなくても良いけど」
 こんなカリンの様子を見て、隠れて笑っているのは、カリンのパートナーメイ・ベンフォード(めい・べんふぉーど)である。完全に惚れてる、サラマンダーをペットにする何て言ってた事すら忘れてそうだ。見ているだけで十分に楽しんでいた。
「おぃおぃ、下品ってのは何だ? 俺の事かぁ?」
「少なくとも君以外の下品は、私の目には映っていないようですが」
 ため息をついたのは千乃、きっと蒼は「上等だ、俺と勝負しろ」何て言うに決まってるんだ。ほら言った。まぁ、相手の人は大人だし、無茶するような事はないと思うけど。
 

 海開きを明日に控えているのです。誰もがみんな、期待を膨らませている、気持ちが昂揚しているのが見て分かります、特に今日の準備に参加した生徒たちには一種の団結が生まれたと言っても過言ではないでしょう。
 ファイアサラマンダーの繭が発見された事から始まった、この騒動。発見から半日たらずで収拾したのは、参加した生徒ひとりひとりが己の信念の元に行動したからです。
 さぁ、明日はいよいよの海開き当日。それでも今日は、海開きの準備完了を祝しまして、もうしばらく、みんなで楽しむようですよ。

担当マスターより

▼担当マスター

古戝 正規

▼マスターコメント

 お疲れ様でした。ファイアサラマンダーの捕獲に繭の撤去、屋台の設置に砂浜の整備など、短い時間の中で海開きの準備が完了できた事をとても嬉しく思います。
 さぁ、いよいよ海開きの当日がやってきます。楽しみですね。
 本シナリオは「海開きの準備を完了させる」までのシナリオとさせていただいておりましたので、準備完了後のアクションを記入いただいた方のアクションは採用しておりません。予告になりますが、海開き当日のシナリオも近日公開される予定だという事ですので、そちらにも是非ご参加いただければと思います。
 素敵な「ひととき」をあなたに。ありがとうございました。