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臨海学校! 夏合宿R!

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臨海学校! 夏合宿R!

リアクション

 
    ☆    ☆    ☆

 ここヒラニプラのシャンバラ教導団航空隊エアポートには、強襲兵員輸送用小型飛空艇が一機待機していた。
「そろそろ、行動予定時間である。全員乗船せよ」
 軍服に身を固めたシャンバラ担当のガイドが、整列したルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)ら、今回の参加生徒たちにむかって言った。
「サー・イエッサー!!」
 生徒たちが、一斉に唱和する。生活指導教官である彼女が、眼鏡の奥から鋭い眼光を投げかけるだけで、有無をも言わさぬ威圧感が全方位に放たれるのだ。
「ちょっと待て。貴様らは何者だ」
 当然のように飛空艇に乗り込もうとする二人のパラ実の生徒を見咎(みとが)めて、ガイドである教官が誰何(すいか)した。
「おうおう、親分に誰かとは、たいした言いぐさじゃのう。えーっ」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が、顔パス当然という態度で教官に言い返した。外見は端整な顔立ちの機晶姫の少女なのだが、その性格はおっさんでやーさんそのものだ。
 薄水色のチャイナドレスに身をつつんだガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)の方は、羽根団扇を優雅にあおぎながら、後ろで一つに束ねたプラチナブロンドをゆらゆらとゆらしている。
「守屋、データ照合!」
「はっ。ええと……。参加者名簿を照合すると、ガートルード・ハーレックとシルヴェスター・ウィッカーかと思われます」
 教官に名指しされて、守屋 輝寛(もりや・てるひろ)があわてて旅の栞をめくって二人を捜し出した。
「その二名が、なんの用だ。ここは、シャンバラ教導団用の飛空艇だが」
「それが、水晶都市の調査に参加しようとヒラニプラにきたのですが、あいにく調査隊は出発してしまった後でございまして。その処理に手間取っていましたら、キマクに帰る時間がなくなってしまったのです。それで、こちらの飛空艇に乗せていただこうと思った次第です」
 臆することなく、ガートルードが詭弁を弄(ろう)した。
「よろしい。今合宿の参加者である以上、断るいわれはない。ただし、搭乗中は、本校のルールに従ってもらうこととする。いいな」
 ガートルードの言葉を信じたわけではないが、時間の遅れを気にして教官が言った。
「何をかたっ苦しいことを……」
 シルヴェスターが噛みつきかけるのを、ガートルードが制する。
「分かりました」
「よろしい。時間を無駄にした。総員、ただちに乗船。出発する」
「サー・イエッサー!!」
 教官に言われて、生徒たちがあわただしく飛空艇に乗り込む。それに押し込まれるようにして、ガートルードたちも飛空艇に乗り込んだ。
 飛空艇の中は、壁にならんだ座席とも言えない座席の部分に、遊園地のアトラクションにあるような安全バーがあるだけである。
「殺風景ですわね」
 中を見回して、ガートルードは少し顔をしかめた。本来であれば、格好いいシャンバラ教導団のガイドのお兄さんとお近づきになる予定だったのだが、かなりあてが外れたと言わざるをえない。まあ、それでも、キャンプ場に着くまで、パラ実的に楽しめれば問題ないわけだが。しかし、このガイドをいじって遊ぶのは、ちょっと難しそうだ。
「さっさと席に着かんか」
 いつまでも席に着こうとしない二人に、教官が柳眉を軽く吊り上げた。
「おうおうおう。かたっ苦しいこと言うなや。ここは、ひとつわしが持ってきた酒を飲んでだなあ……」
 絡もうとしたシルヴェスターの耳元で、ヒュンと音がした。見ると、いつの間にか教官が鞭を持っている。
「きょ、教官……」
 シルヴェスターの後方にいた大神 愛(おおかみ・あい)が、おずおずと手を挙げた。
「なんだ」
「流れソニックウェーブが飛んできましたー」
 顔を引きつらせながら、大神が発言した。達人の鞭の先端は、簡単に音速を突破する。
「それは、すまなかった。次は、確実に標的の喉を狙うとしよう」
 教官の言葉に、シルヴェスターが顔を引きつらせた。
「親分……」
「ここは、従いましょう。命あっての物種だわ」
 さすがに、二人は余っている席にいそいそと着いた。安全バーが下りてきて、かちりという音とともに身体を固定する。
「発進!」
 教官の号令とともに、飛空艇が飛びたった。
「ぐえ」
 その荒々しい飛び方に、安全バーの中で身をよじって、ガートルードたちが悲鳴ともつかない声をあげる。
「親分、わしたちは、トンデモねえ間違いを犯したんじゃ……」
「い、今さら、遅いわよ」
 張り詰めた空気に耐えきれなくなって、二人は軽くだきあいながら囁きを交わした。
「両舷側観測用窓開放。総員、地上監視を開始せよ」
 教官の言葉に、飛空艇の窓の防護シャッターが開いた。非常灯だけで薄暗かった艇内が、やっと明るくなる。
「復唱は!」
「サー・イエッサー!! 監視任務に就きます」
 教官に叱責されて、生徒たちがあわてて叫ぶ。
「ささ、いえがさっさかさー!?」
 教官に視線をむけられ、ガートルードたちもわけも分からず適当に唱和した。
「いいか、貴様たち候補生が見ている土地は、いつ何時戦場と化すか分からん場所だ。この機会に、徹底的に地形を頭に叩き込んでおけ!」
 教官の言葉に、生徒たちは必死の形相で地上を見つめ始めた。
「ひー、親分。もうこの船いやじゃけん」
「私だってよ、降ろしてー」
 ガートルードたちは、しっかりとだきあいながらうっすらと涙を浮かべるのだった。

    ☆    ☆    ☆

 薔薇の学舎のエントランス前には、高級リムジン型の小型飛空艇が停まっていた。
「お待ちしておりました。どうぞ、御搭乗くださいませ」
 初老の家令(スチュワート)が、うやうやしく頭を下げて参加者たちを迎える。
「ありがとう」
 最後に月城 優葵(つきしろ・ゆうき)が乗り込むと、ゆっくりと飛空艇は発進した。ほとんどゆれを感じないほど安定しているが、そのスピードはかなりのものだ。
 内部は、飛空艇というよりも豪華な応接室といった感じであった。各人がゆったりと座れるソファーと、飲み物をおけるテーブルがあり、天井からは小さいとはいえシャンデリアがキラキラした光を室内に投げかけていた。
「パラミタのスパイスを調合しましたガラム・マサラ・ティーと、シャンバラ山羊のチーズから作りましたティラミスでございます」
「ああ、すまない」
 テーブルの上にさしだされたティーセットに気づいて、カナン・アルベリオス(かなん・あるべりおす)は読んでいた書籍から顔をあげた。
「これは、珍しいね。簡単には手に入らなかっただろう」
「バトラーの上に立つスチュワートたるもの、これぐらいのサービスは当然と心得ましてございます。到着までのひととき、ごゆるりとお楽しみください」
 カナンの問いに、スチュワートが即答した。
 他の生徒たちも、自分なりの時間を過ごしているようである。
「到着が近づきましたら、またお知らせにあがります。何かありましたら、お呼びくださいませ」
 一礼すると、スチュワートはビロードのカーテンのむこうに姿を消した。

    ☆    ☆    ☆

「やあ、お待ちしておりましたよ。ささ、姫様たち、どうぞ、僕の飛空艇へ」
 豪華な羽根つき帽子をさっと脱いでおじぎすると、スレンダーなその女性は実に優雅におじぎをした。軽く片足を引いたその姿は、凛とした姿勢や物腰とともに、まさに男装の麗人と呼ぶにふさわしい。衣装も、中世の海軍貴族の礼服を思わせるきらびやかな物で、ただ見ているだけでも目の保養となる。
「では、こちらへどうぞ」
 到着した順に、ガイドは生徒の手を取って飛空艇にエスコートしていった。
「まっ、素敵なお方」
 パトリシアーナ・ヒルベルト(ぱとりしあーな・ひるべると)が、ちょっと頬を赤らめる。
 ヴァイシャリー湖の湖水上に停泊した飛空艇は、優雅なキャビンつきゴンドラの形をしていた。
 ガイドに手を引かれながら、次々に生徒たちが渡り板を進んで飛空艇に乗り込む。後部デッキにはベンチがしつらえてあり、生徒たちは順にそれに腰をおろした。
「皆様、お揃いですね。では、そろそろ出発したいと思います。さあ、今こそ飛翔の時!」
 ガイドが叫ぶと、ゴンドラがひとりでに動き始めた。
 ゆうたりとした水の感触が船をゆらしたと思ったのも束の間、水飛沫を舞い散らせながら飛空艇は空へと飛びたった。舞い散る水の粒に太陽の光があたって、飛空艇の飛びたった後に綺麗な虹が立つ。
 キャンプ場へは一番近い百合園女学院である。旅を急ぐ必要はない。
 ガイドの歌う舟歌を風に乗せて、飛空艇はゆっくりとキャンプ場をめざしていった。

    ☆    ☆    ☆

「おう、野郎ども待たせちまったなあ。さあ、乗りやがれ!」
 派手にクラクションを響かせながら、キラキラと電飾に飾られたデコトラとしか思えない飛空艇が、砂塵を巻き上げながらパラ実の集合場所に現れた。よく見ると、飛空艇のボディには一面にかわいい萌えキャラがペイントされている。
「痛飛空艇かよ……」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)が、学帽の下に隠れた目をまん丸にしてつぶやいた。
「うるせえ、あたいの趣味だ。文句言わずに乗りやがれ」
 有無をも言わせず、ガイドの姐御が叫ぶ。
「ひい、ふう、みい……、たくさんと。よーし、全員いるな。いなくても、いるよな」
 姐御が、パラ実式人員確認をする。
「二人ほどいねえみたいだぜ」
 伊達 恭之郎(だて・きょうしろう)が、荷台に乗ったメンバーの顔を見回して言った。
「その程度なら、誤差の範囲だよな。よし、とりあえず、そいつらは後でシメる」
「あー、それボクも殺りたーい」
 姐御の言葉に、天流女 八斗(あまるめ・やと)が手を挙げた。
「そうか。楽しみにしてな」
 にやりと、姐御が笑った。
「そだ、姐御のガイド、ちと、アフターに教えてほしいことあるよ」
 レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)が、突然思い出したように姐御に訊ねた。
「おう、なんでも聞きな。知らないことも適当に教えてやるぜ」
「アリガトございますですよ」
「じゃあ、そろそろ出発だ。いくぜ、いくぜ、いくぜー!」
 ひときわけたたましくクラクションを鳴らすと、痛飛空艇は砂塵を巻き上げて走りだした。
「この風、この匂い、これからが戦争よ!」
 腕組みしながら風上に顔をむけて、姐御が言う。その後ろで、生徒たちも雄叫びをあげた。