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【3・触覚対決!】

「一勝一敗で迎えた第三の勝負。触覚対決を始めたいと思います。代表者、前へ!」
 事前に次の勝負の用意もしていたらしく、再び音楽室で勝負が開始された。
 白井さんの声で現れるブラック。
「ククク……やっとオレの出番か……クククククク」
 対する生徒側は、姫矢 涼(ひめや・りょう)セレ・ハービデンス(せれ・はーびでんす)ノア・ナファイレ(のあ・なふぁいれ)ナオキ・フォレスト(なおき・ふぉれすと)の4人。
「クク……相手は4人……4、四、死……ククククク……縁起がいい数字だ……」
 相変わらずヤバイ雰囲気のブラックをよそに、白井さんは人数分の箱を持ってくる。
「ルールは簡単、箱の中に何が入っているかを当てるだけです。ただし、中を触っていられる時間は一分。その後こちらの合図と同時に、答えをお願いいたします」
 頷く一同。そしてそんな中、
「この勝負、こっちがもらうからな!」
 涼はビシッとブラックを指差し、勝利宣言を行っていた。
「ククク、威勢がいいな。そういう相手こそ潰しがいがあるというもの……ククッ」
 早くもバチバチと火花が走りつつ、全員が箱の前の位置につく。
「では、はじめてください!」
 白井さんの合図と共に、勝負が開始された。
 何人かの生徒達はおそるおそるといった様子だったが、ブラックはまるで怯むことなく箱に手を突っ込むと、
「……クク。なるほど、わかったぞ」
 僅か数秒足らずで満足したのか、手を抜いて腕組みをする余裕の姿勢を見せていた。
 そんなブラックの様子に焦りがくる生徒達。
「よし……いくぜ!」
 そして、考えると余計怖くなると感じたナオキは、すぅっと息を吸い気合いを入れつつ何も考えずに手を入れ中を探っていく。感触からどうやら生き物のたぐいではなさそうなのを感じ若干安堵していた。
 そして涼もおっかなびっくり手を入れ、
「うわっ! なんか固いのが指に当たった!」
 触った瞬間にまた手を引っ込めていたりした。
「ちょ、ちょっと大きな声あげないでよ!」
 その隣のパートナーのセレはその驚きの声に驚いて、手を入れられずにいた。
「な、なんだよセレ。らしくないぜ、いつもより口調が大人しいし、身体震えてるじゃないか」
「なっ! ち、ちが……。こ、怖くないわ。えぇ、武者ぶるいなんだから、これはっ!」
 実はセレは普段チンピラのような口調で話すのだが、
「きゃっ!」
 箱の中に触れて、無意識に素の女性口調になっていた。
 その後も、涼とセレは手を入れては驚いてすぐまた引っ込めてしまうという調子を繰り返していた。そんな二人をよそに、ポーカーフェイスでまったく動じている様子のないのは涼のもうひとりのパートナー、ノア。
「……ん。これは……」
 ノアも早々と手を入れており、そして中の物体に触れても物怖じせずじっくり触って調べ、握ったり、手の中で転がしたりまでして形状を入念に探っていた。
 そうしてそれぞれの精神的な戦いが六十秒間続き、やがて、
「では、そこまでです!」
 白井さんから声がかかり、手を引っ込める一同。
「それでは皆さん……正解をどうぞ!」
 そして出された答えは――
 ブラックが「ラッパ、正確にはトランペットだ……ククク」と呟き、
 ナオキも「ラッパだ。これは」と回答して、
 更に涼も「わかった! ラッパだろ」と叫び、
 セレは「楽器、多分ラッパか何か」と言って、
 そしてノアは「……トランペット」と答えた。
 全員の答えを確認するや、白井さんは箱の中をパカリと開かせる。そこから出てきたのは、トランペットだった。
「はい、皆さん正解です! それではサクサクと二問目に移りましょう」
 そして白井さんは箱の中身をゴソゴソと入れ替えて、
「準備ができました、それでははじめてください!」
 続いての勝負が始まった。
 すぐさま手を入れるのは、ブラックとノア。
「クククク。あぁ。これはおそらくアレか」
「……? この形は、一体……棒状の先に何か……」
 それにやや遅れてナオキと涼。
 慎重し通しで、もしくはビビリ通しで最後に手を入れるのがセレだった。
「やけに小さい気がするけど、なんだこれ」
「うわっ! なんかチクッとしたぞ!」
「だからいちいち大声出さないでってば!」
 触感だけが頼りのこの対決は、他の勝負と違い恐怖心との戦いにもなる。
 なにが入っているかわからないものを触るという、勇気も必要になる。
 更にはそれがなんであるかの知識もなければならないという、まさにハイレベルの戦い。
 さあ、果たしてそんな勝負に勝つのは誰でありましょうか!?
「さっきから地の文とみせてひとりで喋って何盛り上がってんだ。もう時間過ぎてるぞ」
「あ、これは失礼」
 ナオキからの指摘に、白井さんは咳払いをひとつして、
「では皆さん。お答えをどうぞ!」
「「「「ハブラシ」」」」
「指揮棒」
 ひとりだけ答えが異なった。その主はセレである。
「その通り! 正解はハブラシでした。そちらの方は、残念賞でした」
「えぇー……? ハブラシって、なんでいきなりそんなものが出てくるのよ。流れから、また音楽関連のものが来ると思うじゃない……」
 実質ほとんど触れておらず、明らかに勘で答えていたセレだったが、それでもやっぱりショックだったのか、涼たちの後ろに隠れて凹んでしまうのだった。
「では。続いての対決に参りましょう」
 そうして始まった三回戦。
「っ! なんか冷たいぞっ!」「わ、ホントだ。なんだこれ?」
 先程までとは違い、明らかに異質な感触に怯む参加者達。
「クク……ひやっこい……まるで死体のようだな……」
 しかしそれでも終始不気味な笑みを浮かべつつ中を探っているブラックに対して、皆は負けじと再び手を入れ中の調査に挑んでいく。その大きさはさほど大きくはなく、ボール程度の大きさだった。
「でもこれは簡単だ! アレだな!」
 いち早くそう言ったのは涼。
「……なるほど、アレですね」
 続いてノアも感づいたらしく声をあげて、
「この大きさと感触で、冷たいもの。アレか」
 ナオキがやや自信なさげに頷いた。
「クク……アレに間違いないな。さて、次はどいつが脱落するかな?」
 最後にブラックが呟き、六十秒が終了した。
「では、お答えをどうぞ!」
「氷!」
 白井さんの合図とほぼ同時くらいですぐ答えたのは涼。だが……
「冷凍みかん……です」
「冷凍のみかんだ!」
「冷凍されたみかんだな……クク、オレは冷凍された人間を触る方がよかったが……」
 ノア、ナオキ、ブラックの三名の答えは違っており。
 自信満々だったのが一転して、え? という顔になる涼。
「はい! 正解は冷凍みかんでした!」
「うあ、しまった。冷たい固体状のものといえば、てっきり氷だとばかり……くそ、答えを急ぎ過ぎたぜ。もっと時間いっぱいまでよく触ってれば……」
 勝利宣言をしてしまった手前格好がつかず、思いっきり凹む涼。
 それでもパートナーのセレが先に脱落していたため、表面上はそちらを気遣ったいたが。心中での凹みは変わらずすっかり沈んでしまっていた。
 そんな一方で、白井さんはなぜかやたらと時間がかかって、次の中身を箱の中に詰めていた。それに若干の不安がよぎる参加者達。
「ふぅ、これでよし。それでは……次、いってみよう!」
 その合図と共に、三人は中へと手を伸ばす。すると、
 にゅる
「うわっ!」
 不気味な触感に、思わずナオキは叫んで手をひっこめていた。
「なにか……ヌルヌルしてる……」
「ククク……人間の××××でも入れてくれてるのかな……?」
 ノアもやや顔をしかめて、ブラックは嫌な一言を漏らす。
「生き物か? まさか生き物なのか?」
 それでもなんとかチョンチョンと触れていくナオキ。奇妙にぬめった感触、細長い長さ、それらから導き出せるものは限られるが、それでもちゃんと触らないと核心は持てないであろうもの……それは?
 と、そうこうしていく内に瞬く間に時間が過ぎてしまった。
「さて、では皆さん。答えをプリーズ!」
 なぜかいちいち口調に変化を持たせている白井さんの合図に、三人は、
「なんだよ、ミ、ミミズか?」
「……しらたき」
「白滝だな。クク……存外つまらないもので残念だ」
 と答えた。
「はい! 正解は、ミミズ……ではなくしらたきでしたっ!」
 白井さんの無意味なフェイントに、ナオキはちょっとムッとしながらも、生き物ではなかった事に安堵し、「まあそれなりに楽しめたし、いいかな」と呟いて下がるのだった。
 こうしてナオキが脱落し、ついにブラックとノアの一騎打ちとなった。
 凹んでいた涼とセレも、応援に回りやんややんやと他の生徒達と場を盛り上げていく。
「では、続いての準備完了です。どうぞ手を入れちゃってくださあい!」
 続いて、中に入っているものは――
「……? 感触が、ない……?」
「…………クク、こいつは奇妙だな」
 ポーカーフェイスを崩さないノアも、終始不気味な笑みを浮かべるブラックも、予想外の感触に驚いていた。熱くも冷たくもなく、硬くも柔らかくもない、しかしそこになにかがあるのは確かだった。
 握ってみても、わずかに手に軽いものが残るだけで、はっきりした感覚が掴めなかった。まるで空気でも掴んでいるかのようなそれの正体をじっくり探るふたり。
「はい! そこまでです! さあ、お答えは、いかに!?」
 まさに雲を掴むような六十秒が過ぎ去った。
「羽毛……か、何か……」
「ククク。わた菓子、もしくはわたあめというやつか。こんな平和なもの、性に合わんな」
 両者の答えが出揃った。固唾を呑んで一同が見守る中、回答が出される。
「答えは…………わたあめ、大正解! 素晴らしいです、ブラック!」
 ついに、決着がついてしまった。
「ん」
 とノアはひとつ頷いてから、涼とセレの元へとただ歩み、励まし励まされていた。
 思わず涼は涙を流し、セレも若干瞳をうるませる。
 ナオキほか見学生徒達も沈んでしまう中、
「クク……残念だったな、人間ども。これで後がなくなったな、クーックックックック」
 唯一ブラックの不気味な笑いだけが響き渡り、生徒達は痛恨の一敗を喫したのだった。

          *
《途中経過》
          生徒達VSゴブリン7
視覚対決       × ―― 〇
聴覚対決       〇 ―― ×
触覚対決       × ―― 〇
嗅覚&味覚対決
第六感対決  
            1 ―― 2