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聖なる夜に奴らは群れでやってくる!!

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聖なる夜に奴らは群れでやってくる!!

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第二章 野薔薇

 パーティーの始まりから遡る事、一時間ほど前。
 あれだけ降り積もった雪も止んでいた。
 ここはパラミタの郊外、小高い丘の上にある小さな一軒家。
 そこに柳生家は存在した。
 かの剣豪、松平武蔵丸から新影流を印可状を受けた先祖の面影はそこにはない。
 すでに柳生家は没落しており、柳生吉子と権兵衛の二人で慎ましやかに過ごしていた。
 特に吉子の方は、柳生家の凋落ぶりを恥に思っており、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)からの宴の要請を受けた時も一度は断っていた。
 しかし、息子である権兵衛のサンタに会いたいという気持ちに負け、本日の宴を開く事と相成ったのだ。
「母上、サンタさんは何でも出来るんだよ?」
 無邪気な権兵衛の言葉に吉子の胸は締め付けられる想いだった。
 彼の家族である柳生のん兵衛、八兵衛、芳恵の御三人は無謀な戦いに挑み、数ヶ月間経っても帰ってきていない。
 最悪の事態も覚悟しなければならない状況下で、権兵衛がほんの僅かな希望を持てたことは幸せだった。
 しかも、何人かの人々がすでに到着しており、暗かった屋敷内が明るくなったような気がする。
 特に権兵衛の喜びようといったら……
 次から次へと訪れるお客さん達。
 環菜がルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)に命令して呼んだ、権兵衛くらいの子供達もいる。
 中には珍客もいるみたいですが。


 ☆     ☆     ☆


 その男は赤と白の珍妙な服と黒い髭を身につけ、まるで、かの有名な石川五右衛門を思わせるような風貌で扉を叩いた。
 名前は椿 薫(つばき・かおる)と名乗り、吉子が外に出ると『シマチュー』と書かれた紙包みに包まれた薔薇の花束を差し出して言ったのだ。
「あなたは大変なものを盗んでいきましたでござる」
「まぁ、そんな私はそのような泥棒さんのような事は……」
 扉を開けた吉子に対してのいきなりの【盗人宣言】。
 オレオレ詐欺どころの騒ぎではない。
 しかしながら、よく吉子を見つめてみれば黒く長く美しい日本髪に質素ながらも綺麗な紋様の和服。
 その上からでもわかる見事なまでのお椀方の乳房。
 さらにその顔はとても三児をもうけたようには見えぬほど若く見え、同時に何とも言えぬ色気と香りを漂わせているではないか。
 すると、薫はその甘い香りに誘われるように言葉を吐いてしまう。
「それは拙者の心でござる」
「そ、そんな……いけませぬ……」
「よいではござらぬか? よいではござらぬか?」
「私はこれでも人の妻でござります」
「承知の上でござる。考えてはいけないと思いながらも真夜中に考えてしまった結果でござる」
「いけませぬ」
 禁断の告白であった。
 この数年間、覚えのない若い男の激しい責苦に吉子の身体は身悶える。

 だが、そんな危険な状況下を破ったのは長曽禰 虎徹(ながそね・こてつ)であった。
 虎徹は吉子に気安く擦り寄る薫に対して、振り上げたウォーハンマーでの天誅を下そうとしたのだ。
「無礼者ー!!」
 鉄塊は唸り声をあげながら薫に迫っていく。
 その恐ろしいほどの威力にさすがの薫も飛びのくしかなかった。
「な、何者でござるか!?」
 すると、虎徹は両の手に掴んだハンマーを水平に持ち上げると口に咥えたパイプをふかす。
「小さな親切、大きなお世話……刀工師『長曽禰一族の末裔』虎徹。柳生家への無礼は許さぬ」
「ご、誤解でござる!」
 慌てる薫だが、虎徹の後ろにはトナカイの姿にコスプレしたドラゴンアトロポス・オナー(あとろぽす・おなー)まで控えている。
「グロロロロッ……」
 動物の鳴き声とは違う腹の底から込み上げるような声で威圧するアトロポス。
 勝てぬと判断した薫は逃げ出した。
「怖い人たちが来たから逃げるでござる! ドロロンッ!!」
「あっ、お待ち下さいませ。薫様!?」
 吉子の声ももう届かない。
 薫の姿はすでにそこにはなく、そこにはあの薔薇の花束が残されているだけだった。
『中には連絡先と今度また遊びに来ますというメッセージ入り』の……
 後にそれを見つけたアイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)
「えぇっ!? な、なんていう、さわやかな人なんですか!?」
 と、言ったとか言わないとか……


 ☆     ☆     ☆


 そんなひと騒動の裏側で、部屋の中を馨しい香りが包み込んでいた。
 唐揚げにフライドポテト。
 パーティにはかかせない幾つかの定番メニューだが、シンプルな料理ほど腕の違いが出る。
 ……と語ったのは、かの有名な食通『タベルト・ボナパルト』だった。
 彼が宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の料理を食べたら何というのか気になるが、祥子は料理と妹の明野 亜紀(あけの・あき)に夢中だった。
「祥子姉様、ポテトサラダはこんな感じでいいのでしょうか?」
「んー……」
 祥子は亜紀の作ったサラダを味見すると指で輪っかをつくる。
「OKよ。合格」
「よかった」
 亜紀はホッとすると胸を撫でおろす。
「でも、まだまだ私には敵わないわよね」
 祥子はそう言いながら、オーブンの中からアップルパイを取り出した。
 芳醇な香りを漂わせる季節のフルーツパイに挟み込まれた特製のカスタードソースは絶品であろう。
「むー、そりゃあ、祥子姉様の料理には敵わないわよ。でも、ボクだっていつかは……」
 思わず、口を尖らせる亜紀。
「まぁ、そんなに怒らないで、それよりもメリークリスマス!」
「えっ? これって?」
 それは白で統一されたセーターとマフラーと帽子だった。
「大好きな亜紀に、日頃の感謝と友愛の気持ちを込めてペアでね」
「祥子姉様……」
 両親を失った亜紀にとって、祥子は本当の姉のような存在だった。
 亜紀はその暖かそうな服を着ると嬉しそうに言ったのだ。
「ピッタリです。ありがとうっ!」
「ふふっ、じゃあ、美味しい料理をつくりましょ!」
 亜紀は祥子に教わりながら、料理を作っていく。
 しかしその頃、彼女を探している人がいるとは思ってもみなかっただろう。

 ――そう、その男はパーティー会場に向かっていた。
 新雪を踏みならすように進む彼の名は武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)
 パートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)を置き去りにして、道なき道を進んでいく。
「はぁ、はぁ、遅くなっちまった。亜紀はもう着いているだろうか?」
 いつものヒーロー姿ではない、普段着の牙竜は胸をトキめかせていた。
 だが、どれくらい進んだ頃だろうか?
 やはり、ヒーローには休息は許されないらしい。
「オホホホホッ、この先に行かせる訳にはいかないわよ。ケンリュウガー!!」
「何っ!? お前は暗黒卿リリィ!!! こ、こんな時に……」
 【説明しよう。暗黒卿リリィとはケンリュウガーの宿敵なのである。以上】
 牙竜は歯噛みをせざるえなかった。
 柳生家を目前にして、このような試練が待ち受けているとは……
 だが、敵を目前にして逃げるのはヒーローとして失格である。
「変身!! とうっ!!!」
 牙竜は腕を大きく振るとジャンプした。
 そして、リュックにの中に入れておいたケンリュウガーの衣装に着替えだす。
(ふふっ、早く変身を終了させなさい。ケンリュウガー……その時こそ、あなたの最後なのだから!!)
 暗黒卿リリィは彼の変身シーンを黙ってみていた。
 それはこのルールなき世の中に残された、たった一つのルールなのである。


 ☆     ☆     ☆


 まぁ、牙竜はさておいて、その後も続々と人が集まってくる。
 家の中に縁側に作られた小さなバーベキュー場。
 しかし、扉の前で二人のサンタが立っていた。
「アーサー、何だかんだ言っても似合っているじゃないか」
「バカ! 俺はやると決めたらやるんだよ。早く入ってプレゼントを渡してやれよ、アル」
「お前から入ればいいだろ」
「よし、じゃあ同時に入るぞ」
 ボソボソと相談するアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)アーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)
 真っ赤な服装と白い髭のどこから見てもサンタだけど、何やら揉めているようだ。
「何をしてんの! 早く入りましょ!」
「わわっ!?」
 それをかきわけるように後ろからサンタ姿のミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)が飛び込んでくる。
 ギイイイ……扉が開けば中は立派なパーティ会場だ。
 折り紙で作られたリングに点灯する色とりどりのランプ。
「わぁ、サンタさんだ!」
 ベッドに横たわる権兵衛は衣装の揃ったサンタ姿のミレーヌたちに注目する。
「くほほっ、あたしが噂のサンタさんです。まずはジュースで乾杯しましょ!」
 シルバートレイにジュースを乗せたミレーヌは、周りの人々に飲み物を振舞った。
 普段、ストリートでミュージシャンをしている彼女も今日ばかりはコミカルに動き回る。
「権兵衛、これが俺のプレゼント。クリスマスカラーのケーキだよ」
「ありがとー」
 それに続けとばかりにアルフレッドは権兵衛にプレゼントを渡す。
 最初はアルフレッドがサンタになるのを心配していたアーサーも権兵衛の笑顔を見て、隠し持ってきた絵本を取り出した。
「病気に負けるなよ、権兵衛。……こ、これ、俺からのプレゼントだ。受け取れ!」
「わぁ、ありがとー」
「それじゃあ、記念写真を撮りましょうよ!」
「よーし。写真と言ったら俺でしょう。アーサーは写真写りが悪いから、もうちょっと右ね」
「おい、ちょっと待てよ、アル!!」
 そして、アルフレッドはカメラを構えて、シャッターを切ったのだ。

 妖艶――そんな言葉が良く似合う真紅の髪の毛が特徴のリリィ・マグダレン(りりぃ・まぐだれん)もまたミニスカサンタの格好をして、この家を訪れていた。
「行くよ!」
 彼女はそう掛け声をかけると一目散に飛び出し、扉を開けて吉子と権兵衛の元に駆け寄った。
「あ、あなたは?」
 吉子はそのいやらしげな風貌に眉をひそめる。
「あたしはミニスカサンタさんだよ!」
「サンタ?」
 ミレーヌが聞き直すのも無理はない。
 両手を大きく広げ、意気揚々と笑う彼女の手にはプレゼントどころか袋さえも持っていないのだ。
 しかし、その疑問はすぐに解消した。
 なんと彼女が現れてから遅れること数分。
「ぜぇー、ぜぇー」
 とんでもなく大きな袋を背負ったジョヴァンニイ・ロード(じょばんにい・ろーど)が姿を現したのだ。
 ……と同時にリリィに剣幕の表情で掴みかかる。
「リリィ! 貴様、オレに荷物を持たせるだけ持たせて、何様のつもりだ!!」
「ふん、リリィ・マグダレン様だよ」
「き、貴様ァー! 吸血鬼一族を愚弄するつもりか!?」
「子供の為にやってんだから、文句垂れてんじゃないわよ! それよりもこんなに周りを引かせて、あんたこそ何様のつもりよ!」
「ウッ……」
 確かに周囲はこの喧騒に戸惑っていた。
 権兵衛は泣きそうになってしまっている。
「……ウゥゥ……」
 周囲の目……さらに子供に対して不慣れな彼は挙動不審にならざる得なかった。
 すると、チャンスとばかりにリリィは白い袋を縛っている紐をナイフで切り裂いたのだ。
「わぁぁー!」
 中からは大量の玩具が飛び出してきたではないか。
 しかしながら、哀れジョヴァンニイと言うしかないだろう。
 暗所恐怖症の彼は大量の玩具の下でパニックになり涙を流し、パートナーのリリィはある言葉を残して立ち去ったのだ。
「クスッ、権兵衛くん。ついでだからこのサンタもくれてやるわ。オーホホホホッ!」
 女って怖い。
 そう嘆くジョヴァンニイだった。