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美少女サンタのプレゼント大作戦!

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第二章 ―一番乗りは誰だ!?―

・現在時刻:22時00分 ――ゲーム開始から三時間経過


「ま、まさか制服のままでケーキ配りなんかするとは思わなかったなぁ。
まぁ、これで当面のお小遣いも出来たし、いいかな」
 空京の郊外、琳 鳳明(りん・ほうめい)はサンタのトナカイに乗って帰路につこうとしていた。ケーキ宅配のアルバイトを終えた彼女はそのままヒラニプラへ直帰する途中である。
 ふと、彼女の目に一人の人物の影が映った。徒歩で家々を回っている、大きな袋を背負ったサンタクロース姿の少女である。
「……ん?あの子もサンタの格好で配達のバイトか何かかな? 徒歩なのにわざわざ煙突から出てきたり、本格的だけど、物凄く大変そう……あ、転んだ。うぅ、なんか見てられないよ!」
 不慣れな様子で配達をする少女を手伝おうと、鳳明は地上へ降りいった。
「あ、あの大変そうだね。手伝うよ」
 いきなりの申し出に少女は驚いているようだった。
「でも、いいの?」
 人見知りなのか、彼女は少し訝しそうにしている。少し考えた後、
「……うん、じゃあお言葉に甘えて。ありがとう」
 と、そこへもう一人の人影が現れた。
「俺にもやらせてくれないかな、お手伝い」
 高村 朗(たかむら・あきら)である。ちょうど近くで二人のやり取りを見ていたため、その場へ駆けよったのだ。
「配達するのにそりもトナカイもなくて大変そうにしてるようだったから……」
 少女は伏し目がちになったが、高村の言葉に応えた。
「どっちも今日、おじいちゃんが使ってるの。ぎっくり腰になっちゃってあんまり動けないからね。ほんとはここに来るのもおじいちゃんだったんだ」
 少し話し方が無愛想なのは、やはり人見知り、それも異性だからだろう。
「へー、おじいちゃんの代わりに、か。これはますます見過ごせないな」
「二人より三人の方が、この子も助かるしね」
 その二人の言葉に、少女は目を輝かせた。
「じゃあ、これを」
 彼女は自分の大きな袋からプレゼントを小分けにする。ただ、分けられた二つの袋もかなりの大きさである。
 それを受け取った高村と鳳明はそれぞれ配達に出ていった。
(おじいちゃん、か。そういえば本物のサンタも今日はパラミタに来てるのかな)
 実は今まさに目の前にいた少女が本物のサンタクロースだったのだが、その事に二人は気付きはしなかった。
「あの様子だと、私が送った知らせを見た人じゃないみたいだね」
 二人を見送ったフレデリカは静かに呟いた。街中で会った人は、手伝うために自分を探していたと言っていた。ただ、今後もそういう人ばかりとは限らない。
「よし、私も気合入れなきゃ!」
 フレデリカは気を引き締め、再び歩き始める。時間的にも、そろそろ参加者が自分を見つけてもいい頃合いでもあった。

「まさかサンタクロースが女の子だったとはね……よし、まだ追いつける!」
 ミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)は、先のフレデリカ達のやり取りを遠目から偶然にも目撃した。背中の大きな袋から、彼女こそ本物だと確信したのである。
 ミレーヌはパートナーのアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)アーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)の二人と共に、サンタクロースの少女の背中を追いかけた。
 ゲーム参加者ではないが浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)も同様に、やり取りを少し遠くから目撃していた。
(わ、サンタさんです…っ。友達は皆サンタなんて親がプレゼントを置いているだけだ、なんて言っていましたがやはり本物は居た…いえ、この際偽者でも良いです!)
 紛れもなく本物なのだが、彼は完全に気づいてはいなかった。それでも彼女の手伝いをすべく、その姿を追跡する。


「おや、反応がいくつかに分散し始めました。この近くに変わりはありませんが……」
「多分、本物は一番大きい袋を持っている。大方、あとは俺達みたいにプレゼント目当てじゃない人が配達を手伝いに行ったんいだろう」
 住宅街の入口でウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)橘 恭司(たちばな・きょうじ)の二人が状況を話し合っていた。トレジャーセンスのスキルによって、両者はこの場ではち合わせたのである。さらに目的も一致していた。
「それと確かか、サンタが女かもしれないというのは?」
「はい。あの文章、主語が『ワシ』でなく『私』でした。それと、あの言葉尻を考えると、男よりは活発な女性であると考えられます。あくまで推測ですが」
 橘はまだ信じがたいらしく、首を傾げる。
「とにかく、会えば分かる……か」
 二人は突き止めたサンタらしき人物の反応を目指し、住宅街へと足を踏み入れていった。
「サンタさんが女の子だなんて、なんか親近感がわきます」
 二人の会話によって真口 悠希(まぐち・ゆき)はサンタが女の子かもしれないと知った。すぐ近くにいたにも関わらず二人と共に行動しなかったのは、男性が苦手であるが故である。そのため、少し距離をおいて住宅街へと入っていく。目指す場所は同じなのだ。
 その間にも、プレゼントの反応はさらに分散を始める。この三者はそれでも惑わされることなく、一番反応が大きい場所へ向けて迷うことなく進んでいった。


・21時10分 ――ゲーム開始から二時間経過

(あの子が本物のサンタさんかな? でも……女の子?)
 時間は僅かに遡る。街中、と言っても中心市街の入口辺りで仲原 陸(なかはら・りく)とパートナーのティア・如月(てぃあ・きさらぎ)はサンタクロースを待ち伏せていた。
(うん、きっとそうだもん。あんな大きな袋持ってるんだし……よし)
「あの、本物の、サンタさん?」
 ちょうど歩いてきたサンタ姿の少女に問いかける。
「そうだよ。プレゼント、貰いに来たの?」
 そこで陸はサンタが仕掛けたゲームの事を思い出した。それでサンタがパラミタにいると知ったからである。
「ああ、違うのよ。サンタさんに会ってみたかったの。でも、白いひげのおじいちゃんを想像してたから、ちょっとびっくりしちゃった」
 声を掛けたのは相手が本当に本物かをちゃんと確認するためだった。
「おじいちゃんは、そういうイメージで合ってるよ。本当はパラミタに来るのも、おじいちゃんだったんだけど……」
 少女は一度言葉を切った。その後の事は言うべきか迷っているようだった。
「良かったら、聞かせてくれないかな?」
 陸は何やら悩ましげな表情をしている少女を見て、自分に何か出来ないかと思ったのである。
 少女は今の自分の状況を話した。パラミタに来れなくなった祖父に代わり配達をしていることを。
「私、手伝うよ、サンタさん!」
「いいの?」
「だって、放っておけないもん。それにパラミタは広いし、一人じゃ回りきれないよ」
 陸は是非ともやらせて欲しいと申し出た。
「……ありがとう。じゃあ、頼むね」
「任して! ティアもいるから」
「我もやるのか?」
 彼女のパートナーは乗り気ではなかったようである。だが、
(ご褒美に、プレゼントくれるかも知れないよ)
 という陸からの耳打ちにより、渋々承諾した。
 サンタクロースの少女は二人分のプレゼント袋を用意した。どういう原理かは分からないが、見た目の大きさ以上にプレゼントは入っているようである。袋の中は異空間にでもなっているのだろうか?
「じゃあ、行ってくるね……あ、サンタさん、名前まだ聞いてなかったよね。」
「私はフレデリカ。フレデリカ・ニコラスよ。キミは?」
「仲原 陸。こっちはティア・如月」
「うん。じゃあ、よろしくね、陸さん、ティアさん」
 サンタ少女――フレデリカに見送られながら、二人は配達に赴いた。
 
 
 同時刻、空京の繁華街。
「本物のサンタクロースですか?」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はサンタクロース姿の女性に声を掛けていた。探してたのは主に中年とミニスカのサンタ姿であり、ちょうど何かを配って歩いてある彼女を見つけたのだった。
「メリークリスマス」
 その女性は、ボランティアとして人形配りをしていたクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)であった。
 毒島は考える。
(本物なのか? 何かを配っていたようだが……もう一歩踏み込んでみるか)
 そこで質問をすることにした。
「配るの、手伝おうか?」
 本物なら、安易に一般人に手伝わせることは避けるはずだ。
「それじゃあ、一緒にこれを配ってくれたら嬉しいわ」
 袋の中にある大量の人形が目に留まった。もう一度視線を女性の顔に戻すと、笑顔を浮かべている。
(失敗した……)
 少々断り難い状況であったため、この場は手伝うことにする。
(次からはもう少し慎重気味に聞かねばなるまいな。手伝うというよりも、もっと直接的な聞き方をするとしよう)
 一番乗りを狙っていたわけではないとはいえ、この手伝いで大幅に時間をロスしてしまったのは、かなりの痛手であった。

「あの様子では、本物ではないであろうな」
 ちょうどクエスティーナに声を掛けようとしていた藍澤 黎は思いとどまった。配っているものがプレゼントではなかったため、本物ではないと判断したのである。
「大きな袋を持ってる人はもういないのですよ」
 パートナーのあい じゃわが言う。
「ならば、繁華街にはいないのだろうな。じゃわ、どこだと思う?」
「あとは広場か子供のいる家があるところくらいですよ」
 こちらの二人は行き詰っていた。サンタクロースを探すにも、手掛かりがあまり掴めないままである。
「美海ねーさま、どうしたの?」
「あそこに大きな袋を持ったミニスカのサンタがいますわ」
 久世 沙幸の一行もその場に居合わせていた。ただ、クエスティーナの姿を捉えたのは藍玉 美海だけであった。
「確かめてみようよ」
 提案したのはどり〜む・ほしのである。
「じゃ、行ってみよ!」
 彼女達は声を掛けることにした。ただ、その前に配っているものが見えたため、本物ではないと推測はした。
「白くておっきな袋を持ったサンタさんを見なかった?」
「見てないわ。この辺だと私のこの袋が一番大きいわよ」
 彼女は本物のサンタクロースがパラミタにいて、しかも空京にいるとは知らなかったのである。
「そう……ありがとう」
 少し落胆するものの、すぐに沙幸達は動きだした。その場を後にし、またサンタ姿を探して街の中を歩いて行く。
(私の他にもボランティアをやってる人がいるのかしら?)
 クエスティーナはふと呟いた。そしてすぐに道行く人へ再び人形を配り出した。