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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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第三章 帰路へ


 アトラスの傷跡をあとにした生徒達は、イルミンスール魔法学校を目指してシャンバラ大荒野突き進んでいた。
「よぉし! 学校に帰ったら食いまくるぞ!」
「ロック鳥のお肉って、どんな味がするのかな? 楽しみ♪」
 苦労して手に入れた食材に希望を膨らませる生徒。
「ロック鳥の雛は無事に生まれてきてくれるのか?」
「あぁそうだ。新しい小屋を作んないといけないなぁ」
「これから忙しくなりそうだね。みんな、頑張ろう!」
 新しい命の誕生に期待を高める生徒。
 それぞれがそれぞれの目的を果たし、帰路についていた。

 ――ところが。

「!? みなさん、来ます! 蛮族です!」
 突然、先頭を歩いていたレン・オズワルドのパートナー、メティス・ボルトが立ち止まった。
 そしてその瞬間――
「キャッ!?」
「な、なんだ!?」
 突然、どこからかブラインドナイブスが放たれ、目の前の地面をえぐった。
「みんな、ミリアと卵を護るんだ!」
 レンがそう叫ぶと、生徒達はミリアと卵を護るため一斉に円陣をとった。
 そして――
「ぐあははははは! てめぇら、俺達の縄張りで好き勝手やってくれたみたいだな!?」
 特大の排気音をバイクで嘶かせながら、パラ実D級四天王――吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)景山 悪徒(かげやま・あくと)、それに大量の蛮族達がこちらに向かってやって来た。
 しかも、蛮族の集団の中には――
「四天王さま! こいつら、ロック鳥と戦ってきたばかりだから弱ってるはずです!」
「今なら、絶対勝てます!」
 さっきまで一緒にロック鳥を倒すために戦っていた蛮族までいるようだ。
「ちょっと、どうしてあんたたちがまた襲ってくるのよ!? 肉はさっき人数分あげたでしょ!?」
 生徒の一人が蛮族に疑問の声をあげる。
 たしかに、ロック鳥との先頭に参加してくれた蛮族たちには、人数分の肉をあげていた。
 そして、肉をもらった蛮族たちは生徒たちに感謝しながら集落へと帰っていったのだ。
 しかし――
「ばばば、バカヤロウ! 俺達の食欲があれっぽっちの肉で満たせると思ってんのか!」
「なめてんじゃねぇぞ!」
 と、いうわけらしい。
「ぐあははははは! さぁ! 痛い目にあいたくなけりゃ、おとなしくロック鳥の卵を置いていきやがれ!!」
 竜司が生徒たちに一歩詰め寄ると、それに合わせて他の蛮族もにじり寄ってくる。
 だが、生徒達は一瞬も怯む様子を見せない。
「くっ……この卵だけは、絶対に渡せないわ!」
「そうだ! お前らなんかに横取りされてたまるか!」
 むしろ、団結して卵を護るつもりだ。
「しょうがねぇな! そこまで言うんなら、なにが何でも奪ってみせるぜ! ぐあはは!」
 突然、竜司は爆炎波を放つと――
「いくぞ、オルァ!」
 蛮族たちと束になって襲い掛かってきた。


「ミリア殿、私から離れないでね!」
 本郷 涼介のパートナークレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は、いち早くミリアの元へ駆けつけていた。
 彼女は、ミリアが傷つけば涼介が悲しむということを感じ取ったうえで護衛についたのだった。
「えい!」
 クレアの一撃に、ミリアを襲おうとしていた蛮族が崩れ落ちる。
「ありがとうございますぅ。でも、卵の方は大丈夫なんでしょうかぁ?」
「ミリア殿、卵のことは安心して。お兄ちゃんがきっと護ってくれてるから!」
 次々と襲い掛かる蛮族を倒しつつも、クレアはミリアへの被害を完璧に防いでいった。
 しかし――
「うん……それにしても、数が多すぎるよ。いったい何人いるの!?」
 クレアがいくら蛮族を倒しても、彼らは無限に沸いてくる。
 実際、蛮族の数は生徒たちの数を遥かに上回っていた。
 悪徒が三十人近い蛮族を集め、更に竜司が集めた蛮族三十人、それに加えて生徒たちと一緒に戦っていた蛮族で、百人近い人数が一気に襲い掛ってきているのだった。
「あっ!?」
 クレアが五人の蛮族と同時に戦っていると、ニ人の蛮族がミリアに襲い掛かる。
「くっ……間に合わない」
 このままではミリアの身が危ない。
 そう思った瞬間――
「「うぎゃあああ!?」」
 二人の蛮族に、紅蓮のファイアーストームが炸裂した。
「一人で戦うのも限界だろう? 俺も手伝うぜ」
 そう言ってクレアたちの前に現れたのは、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)だった。
「くらえっ!」
 再び火炎の渦が蛮族に放たれると――
「く、クソォ! これじゃあ近づけねぇ!」
 蛮族たちは、簡単に襲い掛かることができなくなってしまった。
 そして――
「えいっ!!」
 その隙にクレアは蛮族たちの背後へ回りこむと、彼らを一網打尽にしていったのだった。


「それじゃあ、吉永。作戦は、光学迷彩で卵に近づく――で、いいんだな?」
「……あぁ」
 生徒たちに襲い掛かる蛮族とは少し離れた位置で、悪徒と竜司は作戦会議を行っていた。
 お互い、目的が一緒だということで手を組んでいるのだが……正直、先ほどから微妙な空気が辺りには流れている。
 その理由は――目的は一緒でも、卵を狙う動機の違いのせいだった。
「たくっ、大首領様も何考えてんだか……」
 悪徒は溜息と共に、携帯端末型機晶姫の小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)を取り出してメールの受信フォルダを確認する。
 そこには、彼の所属する秘密結社【ダイアーク】からの指令メールが数十件保存されているのだが……その中でも最新の指令メールが、彼を憂鬱な気分にさせていた。

【From:大首領様】
『急に卵が食べたくなった。聞けば、イルミンスール生がアトラスの傷跡でロック鳥の卵を取ってくるそうだ。ちょうどいい機会だから、その卵を横取りしてこい。もちろん、とってこれなかったらお仕置きだべ〜!!』
 
……こんな、こんな理不尽があっていいのだろうか? と、思いつつも、指令を遂行している自分が悲しくなる悪徒であった。
「はぁ……」
 彼は、再び吐き出した溜息と共に小型大首領様をポケットへとしまう。
 そして、同じロック鳥の卵を狙う竜司はというと――
「ふんっ……あの野朗、さっきから女とメールばっかりしやがって。クソッ!」
 完全に、悪徒のことを勘違いしていた。
 竜司は悪徒がどうしてロック鳥の卵を狙っているのかを聞いていない。
 その理由は――
『どうせ、ああいうチャラチャラした奴のことだ女に頼まれたに決まってる! たしかに、オレの方が遥かにイケメンだ。それは間違いない。でも、アイツもオレほどじゃないがなかなかモテそうな雰囲気は出ている。しかも、オレみたいな硬派な男と違ってかなり軟派な雰囲気だ。たぶん、物で女を釣るタイプだな! 間違いない!!』
 という、勘違いに勘違いを重ねてしまっているせいで、竜司と悪徒は微妙な雰囲気になっていたのだ。
「あんな軟派な奴に、ロック鳥の卵を渡してたまるか!」
 パラ実D級四天王の名かけて、ロック鳥の卵はオレと蛮族たちで奪ってみせる! そう思って竜司は固く拳を握り締める。
「いいか、吉永? いくら光学迷彩で姿を消すからって、あんまり派手な行動はとるなよ?」
「ふんっ、てめぇに言われなくたって、そんなこたぁわかってるぜ!」
 そう言って二人は、同時に光学迷彩を発動させたのだった。


「ぐへへ。姉ちゃん、待てよぉ! ぐへへ!」
「はぁ、はぁ……くっ……来ないで!」
 蛮族たちから卵を護っていたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、いつの間にか生徒たちから遠ざかってしまっていた。
 もちろん、蛮族たちはその隙を逃さず、十人近い人数で彼女を囲んだのだった。
「ぐへへ! いただきまぁす! ぐへへ!!」
 蛮族の一人が、アリアに襲い掛かる。
「くっ……でやぁ!」
 しかし、アリアは華麗なスウェーで襲い来る蛮族をかわすと、すかさず轟雷閃の一撃を叩き込んだ。
「がはっ……」
 襲い掛かってきた蛮族が地に伏せる。
 だが――
「「ぐへへ! そっちは囮だ、ぐへへ!」」
 間髪いれずに、数人の蛮族たちがアリアへと襲い掛かった。
「いやっ!? や、やめ……キャァ!!」
 正面からも背後からも攻められたアリアは、一瞬で蛮族たちに拘束されてしまう。
「だめっ! 離してぇっ!」
 彼女は、最後の力を振り絞り光条兵器を呼び出し、その閃光によって拘束から上手く逃れた。
 ところが――
「「「ぐへへ! まだまだぁ! ぐへへ!!」」」
「キャッ!?」
 途切れることのない蛮族の襲撃に、ついにアリアは力尽きて捕らえられてしまった。


「よっしゃあ! 卵取ったどぉおお!」
 竜司の雄たけびが辺り一帯へと響く。
「し、しまった!?」
 生徒たちが気付いたときには、既に竜司と悪徒たちが光学迷彩で卵に接近していて、一瞬の隙をつかれて強奪されてしまったのだった。
「ぐあはははは! 逃げるぞ、てめぇら!」
 竜司と悪徒が生徒たちから逃げ出すと、一気に蛮族達も散らばりはじめる。
「くそっ! 待てっ!」
 当然、生徒たちも蛮族を追おうとしたのだが――
「くっ……ダメだ、追いつけない」
 ほとんどの生徒がロック鳥との戦闘で疲弊しきっていたのと、竜司たちは改造したバイクに乗っていたせいもあって、彼らに追いつくことができなかった。
「ちくしょう……アイツら、ふざけやがって!」
 その場にいた誰もが、遠くなっていく蛮族たちをただ見ているしかできなかった。
 だがそのとき――ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)携帯の着信音が鳴る。
「も、もしもし〜……?」
『あら、チーシャ。元気のない声をしてますわね?』
 電話は、ナカヤノフのマスターリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)からだった。
「うん……実はね――」
 ナカヤノフは、蛮族たちにロック鳥の有精卵を奪われたことを、リリィに手短に話した。
 するとリリィは――
『……なるほど。これでは、戻れと言う訳にはいきませんわね。蛮族に魔法の凄さを見せつけましょう。作戦は一緒に考えます』
 と言って、卵を奪い返すための作戦を考え始めたのだった。


「ぐへへ! 見てくださいよ、四天王さま、悪徒さま! ぐへへ!!」
「「っな!? 何だこれ!?」」
 竜司と悪徒はかつてない衝撃を受けた。
「どこから連れてきたんだ!?」
「ていうか、どうやって連れてきたんだよ!?」
 ロック鳥の卵を奪った彼らは、先に撤退していた蛮族たちに手招かれるまま、四方を岩に囲まれた彼らの隠れ家に到着したのだが――
「離して! 離してよ!」
 なんと、隠れ家には拘束されたアリアがいたのだ。
「ぐへへ! どうです、こんな上玉なかなかお目にかかれませんぜ! ぐへへ!!」
 蛮族の一人が下卑た笑いを浮かべ、アリアへと近づく。
「ぐへへ! 俺ぁ、もう我慢できねぇ! 卵より先に食っちまいましょう! ぐへへ!!」
 周りの蛮族も、次第ににじり寄っていく。
 だが――
「てめぇら! 恥ずかしくねぇのか!!」
 突然、鼓膜を揺るがす竜司の咆哮が辺りに響いた。
「し、四天王さま……?」
 唖然とする蛮族たち。
 しかし、竜司の叫びは止まらない。
「こんな美少女を大人数で取り囲むなんて……男――いや、漢のやることじゃねぇ!」
 パラ実D級四天王兼自称硬派系イケメンにとって、集団で女性を襲うというのは美学に反していた。漢ならタイマンだろう。
「な? てめぇも思わねぇか?」
「え?」
 いきなり話しを振られた悪徒は困惑する。
 正直なところ、アリアの制服から僅かに覗く肢体に見とれていたせいで竜司の話は一瞬たりとも聞いていなかった。
 しかし……何やら頷いておかないといけない雰囲気だ。中間管理職の勘がそう囁いていた。
 なので悪徒は――
「あぁ、もちろんだ!」
 適当に相槌を打っておいた。


「ん? 今、なにか聞こえたわ!」
「ふぁ……ワタシには何も聞こえなかったです……眠い」
 ナカヤノフと一緒に蛮族を追いかけてきた氷見 雅(ひみ・みやび)と、パートナーのタンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)が級に立ち止まった。
「どうしたの、二人とも?」
 少し離れた位置で索敵していたナカヤノフがやって来る。
「今、なにか聞こえたの! 男の人の声だったわ!」
「男の人の声? それって、もしかしたら蛮族かもしれないね!」
 ナカヤノフが慌てて空へと舞い上がる。
 すると――
「あ! 見つけたよ!」
 彼女は、隠れ家で何やら蛮族が騒いでいるのを見つけた。
 実は、蛮族たちの隠れ家は地上から見るぶんには四方を岩に囲まれていて見つけにくくなっているのだが……上空から見れば、完全に丸見えだったのだ。
「よしっ! それじゃあ、二人とも。さっき話したとおり、作戦を実行しよ〜!」
「うん! 任せて!」
「……眠いです、ふぁ……」


「ぐあははははは! お前ら、食え食え! 肉はいくらでもあるんだ!」
 隠れ家内は、今や宴の会場へと変わっていた。
「さささ。竜司アニキ、悪徒アニキ、肉のおかわりです」
「おぉ、悪いな!」
 先ほどまでアリアを襲おうとしたことで険悪な雰囲気が漂っていたのだが、竜司の熱弁に悪徒が頷いたところで――
「「お、俺達が間違っていました! 四天王さま、悪徒さま――いえ、アニキと呼ばせてください!!」」
 といった三流青春ドラマのような展開が繰り広げられ、無事に竜司たちは蛮族と和解したのであった。
 しかし――悪徒は焦っていた。
『なんでこんなことに……早く卵を奪わねぇと……ていうか、こいつらよく女そっちのけで飲み食いできるな』
 卵は最後の楽しみにとっておく。と、竜司が宣言したおかげで今のところは無事なのだが、いつ食べられてしまうかわかったもんじゃない。
『早いとこ、隙をついて卵を持ち出すか……』
 そう悪徒が思っていたとき――
「ろ、ロック鳥だわ! ロック鳥が卵を追って飛んで来たわっ!」
 突然、隠れ家の外が騒がしくなった。
「なんだ、なんだ?」
「何事だゴルァ!?」
 騒ぎを聞きつけた蛮族たちが、ゾロゾロと隠れ家の外へ出てみると――
「ななななな、なんじゃありゃあ!?」
「ろろろろろ、ロック鳥だあああ!?」
 上空を旋回するロック鳥の姿が眼に飛び込んできた。
「ロック鳥は子供に執着する性質があるから、追ってきたんだわっ!」
 蛮族の中の誰かがそう言った瞬間――
「ひぃ!? に、逃げろぉお!」
「く、喰われちまう!!」
 蛮族たちは、蜘蛛の子を散らすようにしてシャンバラ大荒野の彼方へ逃げていった。
 しかし――
「おいおいおい! こんな子供だましに、パラ実D級四天王のオレが引っかかると思ってんのか? おぅ、コラッ!?」
 竜司と悪徒、それにロック鳥退治を手伝った蛮族だけは逃げ出そうとしなかった。
「うぅ……バレっちゃったよ、リリィちゃん」
 ナカヤノフは、電話の向こうのリリィに作戦の失敗を伝える。
 リリィの考えた『太陽の逆光を利用して、空飛ぶチーシャの影ををロック鳥に見せましょう作戦』は、たしかに普通の蛮族には有効だったが、実際にロック鳥を倒す手助けをした蛮族には通用しなかったのだ。
『しょうがないわね、作戦Bに以降しましょう』
「さ、作戦B?」
『えぇ。まずは蛮族に向かってこう言うのです「この最強の氷術者ウィキチェリカ様が呪ったロック鳥の卵、美味しく食べられるとでも思ってたの? お前ら、覚悟しなさい!」と冷血高飛車魔法美少女っぽく言って、氷術を放つ作戦ですわ』
「えぇ!? 無理だよ! あたし、そんなキャラじゃないもん!」
『この作戦は、相手に言葉の恐怖を与えてこそ効果がありますわ。大丈夫、チーシャならできるわ』
 そういい残して、リリィは一方的に通話を切ったのだった。
「うぅ……恥ずかしいよ〜」
 だが、もうこうなったらやるしかない。みんなの卵を取り戻すためだ。
 そう自分に言い聞かせながら、ナカヤノフ大きく息を吸い――
「この最強の氷術者ウィキチェリカ様が呪ったロック鳥の卵、美味しく食べられるとでも思ってたの? お前ら、覚悟しなさい!」
 と、指示されたとおり冷血高飛車魔法美少女っぽく言い放った。
 そして――氷術を使う前に、その場にいた蛮族全員が固まってしまった。
「う、嘘! 今のは、言われてやってるだけなの! お願い今の無しにしてぇっ!」
 その隙に(?)ナカヤノフは蛮族に向けて氷術を放つ。
 更に――
「え、え〜と……これでもくらいなさい!」
 太陽の逆光を利用して、空飛ぶチーシャの影をロック鳥に見せましょう作戦。の陽動役として、蛮族にロック鳥の襲来を隠れて伝えていた雅が岩陰から飛び出す。
 そして、分解したタンタンの腕をブーメランのように投擲した。
「う、うわぁ!? 冷てぇ!!」
「ぐはっ!? 痛てぇ!?」
 ナカヤノフの放った氷術と、孤を描いて飛んでいくタンタンの腕は、油断していた蛮族たちをあっという間に蹴散らしていった。
「クソッ! てめぇら、オレの大事な舎
たちを! 許さねぇぞ!」
 竜司は次々と倒されていく蛮族を見て、怒りに身を任せてナカヤノフたちに突撃していく。
 ところが――
「やめろ!」
「おとなしくしなさい!」
 いつの間にか、ミリアと生徒たちが隠れ家の近くまで来ていた。
 ナカヤノフたちは、竜司たちを追跡して空高く舞うことで仲間に場所をしらせていたのだ。
「クソッ!? いつの間に!」
「チッ……囲まれたか」
 生徒たちがいくら疲弊しきっているとはいえ、今まともに戦えるのは竜司と悪徒だけだった。
 これでは分が悪すぎる……そう思うのが普通なのだが――
「D級四天王なめんなよぉ! オルァ!」
 竜司は生徒たちに特攻しっていった。
 だが――
「先輩! 待ってください!」
 生徒たちの中から、白菊 珂慧が飛び出し竜司を止めた。
「あぁん!? なんだ、てめぇ!?」
「僕達これからイルミンで料理作るんだけど、先輩たちも一緒にどう?」
「あぁ!? てめぇ、ふざけてんのか――」
「先輩、唐揚げとか好き?」
「う、うぐっ!?」
 思わず竜司の喉が鳴る。
 そういえば、唐揚げなんて地球で食べたのが最後だった。そう思い出すと、さっきたらふく肉を食べたはずなのに、またまた空腹感が襲ってきた。
 しかし、ここはD級四天王としての意地がある。
「だ、誰が行くかそんなもん!」
 竜司は思いっきり拳を振り上げ、珂慧へと殴りかかる。
 ところが――

 グゴウウウググゥウウウ!!

 ロック鳥の咆哮を思わせる巨大な空腹音が、周囲一帯に鳴り響いた。
「う、うぐっ……ちきしょう! 覚えてやがれ!!」
 竜司は、慌てて拳を引っ込めて逃走していった。
 そして、それと同時に悪徒も逃走。
「チッ……さすがにアノ人数と戦ったら死ぬに決まってる! クソォ……また始末書かよ」
 これから待ちうける大首領様からのお仕置きの憂鬱さと共に、疾風のように駆けていった。
 そして更に――今まで倒れていたはずの蛮族達が起き上がった。
 そのまま逃走するのかと思いきや……珂慧の前までやって来ると、突然頭を下げだす。
「さっきもらった肉は、四天王さまが全部食っちまったんだ!」
「た、頼む! 礼は必ずするから、俺達にも肉を食わせてくれ!」
 彼らも、さっきの珂慧の話しを聞いて相当空腹をおぼえたようだった。
「僕は別にいいけど……みんなはどう?」
 珂慧が後ろを振り返ると――
「まぁ……ロック鳥の卵が無事なら、俺はいいぜ」
「そうね。どうせ、これだけの量のお肉があっても余っちゃうだけだし」
「ただし、お礼はたっぷりとしてもらうからね?」
 意外と、あっさり了承してくれた。
「みんな〜ロック鳥の卵、無事だったよ〜」
「攫われてた子も救出できたよっ!」
 隠れ家から、ナカヤノフたちが卵とアリアを運んでくる。
 どうやら、レン・オズワルドたちが作った籠とタピ岡 奏八が敷き詰めておいた禁猟区のかかったダンボール等のおかげで割れずにすんだようだ。
 そして、アリアは疲れている様子ではあったが、なにもされていないようだった。
「ふぅ〜それじゃあ、今度こそイルミンスール魔法学校に帰ろう!」
 こうして、長い戦いを終えた生徒たちと蛮族は、夕日が照らすシャンバラ大荒野を突き進んでいった。