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第四章 生徒色々。

 時を同じくして別のテーブルでは、歓喜の声に満ちていた。
「んんッ――! おいしいですわぁぁ〜! これは絶品ね!」
「うんうん! おにーちゃんも食べればいいのぃ!」
 口の周りにクリームやジャムつけてパフェを食べているのはエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)
「ううん。二人の食べてるところ見てるだけで十分ですよ」
 影野 陽太(かげの・ようた)は頬杖をつき、エリシアとノーンを眺めている。
「そういえば、なんだか勉強してる人も多いですわね」
「そうみたいですねー。時期が時期ですし」
「勉強? 勉強ってなに? おいしいの? おねーちゃん」
 スプーンを咥えながらエリシアに問う。
「全然おいしくないですよ。むしろ苦くてまずいものですわ」
「うぅ……そんなのみんなやってるんだ? 大変だね!」
「うふふっ、ホントにね。ほらノーン、あーんして」
「あ〜……んっ!」
「おいしそうに食べるねぇー」
「人のお金で食べるものほど、おいしいものはないですわ」
「あはは……」
 そんな三人のテーブルへ。
「あ、……ああ、……あの」
 ――ばたっ。
「ど、どうしたんですか!?」
 いきなりテーブルの前で倒れたのは六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)である。
「あ、あつゅい……。あいしゅ……か、にゃんか……ない……か?」
 入口に座っていたこともあって、他の人にはどうやら見えないらしい。
 とりあえず陽太が事情を聞いてみる。すると。
「つまり、アイスを買うお金がなくてさまよっていたらこうなった、というわけですわね」
「そういうことらしいですね」
「お、お願いです。なんでもします。勉強でも、買い物でもしますので……おひとつ」
「おにーちゃん、買ってあげて……」
「そうですね。ひとつぐらいならたいしたことないですし、構いませんよ」
「ありがとうございます……、で、できればビッグサイズのスーパー蒼空スペシャルデラックスサマーバケーションピーチアンドバニラをお願いします」
 その長ったらしい名前の物は限定メニューの中で、もっとも高いやつであった。
 陽太は苦笑しつつも。
「わかりました。買ってあげますから、一緒にきてください」と告げると。
「本当ですか!? やったー! ありがとうございます!」
 急に立ち上がり、瞳を星型に光らせた。
「あっ、ついでにわたくしたちのもお願いしますわ」
「はいはい。ではいきましょう」
 というわけでカウンターへ向かい、着いたのだが。
「えッ!? 売り切れてるじゃないですか! やだー!」
 非情にも目当てのものは売り切れという看板がかかっていた。
「ははは、そうは言われましても……。ほかのだってありますよ?」
「やだやだー! せっかくここまできたのにぃー!」
 駄々をこね始めた鼎を見て。
「災難ね」
「おにーちゃん、困ってる」
 遠くから心配の視線を送る二人であった。

 そんなドラマが繰り広げられるカフェテラス。何も課題やら限定スイーツを食べにくる人たちだけじゃない。
「あ、リースちゃんこっちだよー。宿題ありがとねー」
「おぉ、リース! 久しぶりだな。元気にしてたか? って、氷雨お前、宿題やらないと思ったら……」
 リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)を待っていた鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)バロ・カザリ(ばろ・かざり)が手を振った。
「お待たせです。氷雨ちゃん、それと……今日はね。研究してるときにできた面白いものを持ってきたんだ」
「面白い……もの?」
 二人が聞き返すと、リースは得意げな表情を浮かべ。
「じゃじゃーん!」
 と、銀色のタッパーの蓋を開けた。
「氷雨ちゃんの作ってるものとちょっと違うかもしれないけど」
「あーそれってデローン……」
「えへへ、これも立派なデローン丼だよね!」
 そう言って、もっとみんなによく見せようとしたところで――。
「どうわた――、あぅ……」
 バタッ。
 スイッチの切れたロボットのように急に倒れ、そのまま寝息を立てた。
「あれ? リースちゃん? 眠っちゃった……の?」
「…………ふぅ」
 リースが眠る傍らで、深く息をつくバロは周りに気づかれないように吹き矢で気絶させた。
「え……リース? 何で倒れてるの〜……!?」
 慌てて駆け寄るノワール クロニカ(のわーる・くろにか)にも、その矛先が向けられ。
「うぅ――や、やっぱり今日は厄日ね……」
 同じようにして倒れ、寝息を立てた。
「え? え? クロニカちゃんまでどうしたの!?」
 慌てふためく氷雨をよそに。
「氷雨ー、リースたちが明倫館に転校してくるらしいぞー」
「え、えぇ!? リースちゃんたち、転校してくるの! わぁーい、嬉しいなー! あ、ボク転校のために色々準備しておくね!」
「おう。よろしく頼んだ」
 そう言って、走り去った氷雨を見送りながらバロは小さく呟いた。
「未完成とはいえ、デローンの秘密は外に出してはいけないんだ。絶対にな」
 謝罪の意をこめて二人の頭を撫でる。
「あっとー、リースちゃん達このままにしておけないよね。リースちゃんたちを運ぶの手伝って」
「おうー」
 こうしてデローンの秘密は守られ、リースとノワールは無事、明倫館へと運ばれた。

 他には離れたところで静かにカフェを楽しんでいる人もいる。
「こっちは報酬が……。だが、こっちの方は、相手方のコネクションの恩恵が……。今を考えれば報酬が欲しい……。今後の事を考えれば……」
 冷めたカプチーノに目もくれず、テーブルに広げたノートを頬杖つきながら凝視する。手に持ったシャーペンの先をトントンと突き、テラスから見える景色を漠然と眺めていた。
「おぅ、ずいぶんと難しい顔しとるなー兄ちゃん」
「――ッ? あ、ああ、ちょっとな」
「虎冶殿、お取り込み中の方には……」
 安西 兎(あんざい・うさぎ)の首に腕を回した安西 虎治(あんざい・とらじ)ルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)に声をかけた。手にはクリームバニラパフェを持っている。
「大丈夫、大丈夫やって。ここ、座ってもええか?」
「ああ、ええよ」
 二人を一瞥すると再びノートに視線を落とし、何かを書き始める。
「あんた、なにしとん?」
「経済をテーマとした自由研究をやっているんじゃ」
「へぇ〜、真面目なんですね」
「ふふっ、真面目……なんてものじゃないのう。それより、なぜ首輪なんぞつけちょる?」
「これか? アクセサリーみたいなもんや、なぁ?」
「はい……。多分、アクセサリーでございます」
 ルメンザはその回答を奇妙に思うが、深くは考えず『そういう仲』として、察した。
 すると虎冶はそっけない反応を面白く思わず、なんとかして気を引かせてやろうと考え、試みることに。
「おい、兎。そのパフェを俺に食わせてみろや」
「あ、はい。わかってござる」
 おぼつかない手で、クリームすくい虎冶の口元へ運んだ――その時。
「へへっ」
「きゃ――!?」
 手が滑り、膝に落としてしまった。
「おおぅ、なにしよるんかーお前は。はよ、舐めー」
「へ? な、舐めるのでござるか!?」
「恋人同士やからええじゃないか。そういうもんなんや」
「は、はい……でござる」
 顔を膝まで下げて、子猫のように舐める。
 その姿に満面の笑みを浮かべ、ルメンザを見やるが。
「…………」
 相変わらず頬杖をついたまま、呆然と眺めていた。
「お、終わったでござる……虎冶殿」
「おう、そうかい。……ちょっと場所を移すぞ。邪魔したな」
「うむ。気にするな」
「あの、虎冶殿……?」
 すっと立ち上がり、そのまま生徒の群れの中へと消えていった。
 ルメンザはその背中を見送り、完全に見えなくなったところで携帯電話を取り出す。カーチスと表示された番号をプッシュし、コール音がスピーカーから流れる。
「……今度の取引なんじゃがの〜」
 考えを伝えると共に止まっていた手を動かし、淡々と書類に書き込んでいった。


 カフェテラス御神楽は終日、賑わい。ひと夏の大勉強会の幕も無事に下りた。

担当マスターより

▼担当マスター

泉 紗耶香

▼マスターコメント

初めまして。新人の泉 紗耶香と申します。
今回が初執筆ということで、とても時間がかかってしまいました。
みなさんのアクションをうまく反映できているかどうかわかりませんが、
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いする時まで失礼致します。