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リアクション
5.閑話休題
……ここで、レース以外の話題も取り上げて行くとしよう!
参加者達がレースに夢中であった間に、会場では一体どんなことが起きていたのだろうか?
□スタート地点
サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は、「ヤマハGPのレースネコクイーン」に名乗りをあげた。
「“秋葉原四十八星華”がネコ座の私としては、いまが売り時ですからね! ブロマイドだって何だって売っちゃいますよ!」
はぁーい、とファン達の呼び掛けに笑顔で応える。
その衣装は、この日のために用意したセパレートの特製水着。
よくよく見ると、胸元には秋葉原四十八星華の名前に、蒼空学園校章にネコミミを付けているではないかっ!
そして過激なポーズをリクエストされてホイホイやろうとし、マネージャーの白砂 司(しらすな・つかさ)から厳重注意を受けていた。
「今日びのトップ・アイドルたるもの!
そうそう自分を安売りしてはならんからな!!」
とはいえ、サクラコはこの一日で、「ヤマハGPのレースネコクイーン」としての知名度を上げたようだ。
羽瀬川 まゆりは、審査員席に座る山葉涼司と花音・アームルート(かのん・あーむるーと)をGPへの参戦を勧めていた。
「校長のあなたが参加してこそこの、GPよ。
レースを最高のイベントにしてこそ、御神楽環菜元校長の後を継いだと言えるんじゃないかしら?」
「環菜なら、最高のイベントにするため、蒼空学園生なら自分で盛り上げて、優勝しろ! と命令するだろうな」
涼司の対応は冷静だ。
「では、アナタは?」
まゆりは焦って花音に振ってみる。
「普通の花嫁が主人のいない家を守るなら、剣の花嫁は?
そう! 主の道を切り開くものでしょう!」
「昔の涼司さんならそうですね。
けれど、いまの涼司さんは、違いますから!!」
花音はきっぱりと言い切る。敬愛の眼差しを向ける。
彼等はそのまま公用車へ乗り込み、他の中継ポイントへと移動してしまった。
まゆりの狙いは、いまの涼司達には通じないようだ。
「ふん、ふふん、何よ。
校長になったとたんに、急に賢くなっちゃって。
そんなの、メガネじゃなぁーいっ!!」
そして彼女自身はその後ヘリファルテで参戦し、鬼崎朔の計略に引っ掛かって撃墜されたのであった。
□蒼空学園・校長室
樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は蒼空学園の校長室で、仕事の準備に取り掛かっていた。涼司が帰ったらすぐ、仕事に取りかかれるようにするためだ。
「あの涼司が、環菜より優れているはずもないからな」
ふうと息をついて、書類をそろえる。
時折校長席に目を向けるのは、別の誰かさんの思ってのことか?
「いや、この書類はこっちだったかなって……」
机上に手をついて、頭を振る。
「……ああ、環菜によく注意されてたよな。これは書棚のだ」
「刀真、無理しないで……」
月夜は気遣うように、彼に目を向ける。
着信音――月夜の携帯電話。
メールを確認してから、作業にかかった。
「レースのこと。
誰でもネット観戦出来るよう、涼司から録画や中継用の設備、ホームページ等を手配する許可はもらったわ。
今頃は、現地へ派遣されたカメラマンを通じて、ネット上に映像が流されているはず」
「すまないな、月夜」
「私は『根回し』と特技『経済』を使って経済関係の準備にかかるわ。
環菜の真似でも、やらないよりはましでしょ?」
でもやっぱり難しかった、と溜め息。
そして2人は協力して、「ヤマハGP」にかかった莫大な経費を集計するのであった。
□並木道
リンダ・ウッズ(りんだ・うっず)は蒼空学園生を応援しつつ、S字カーブの並木道に碁盤を置いていた。
「カンナの追悼・青空囲碁教室会場」と立て看板がある。
ネットで集まった学生達と、碁をうつようだ。
「おう! まあ囲碁っと」
「…………(しらっ)」
……という開会宣言の後、レースクイーンの格好で碁盤の前に座っていた。
「箒、行け!
自転車、行け!
蒼学、負けんなよおおおおおおおおおおおっ!」
とん、と碁を打つ。
はらはらと枯れ葉が落ちてくる。
ついでに、枝と太い幹も……ん? 『太い幹』?
妨害された選手の小型飛空艇がぶつかり、木が倒れてきているではないか!
「何じゃ!
こんの忙しい時に!
ふっざけんなよおおおおおおおおおおおおおっ!」
そしてリンダはひょいと木を避けると、妨害者に向かって碁石を投げるのであった。
碁盤は壊れてしまったが。
「ふん、涼司のレースじゃけん、涼司に請求したろ。
カンナ様への『香典』代わりにもなるけん、それがええじゃろ!」
□底なし沼・橋の歩道
リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)とベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)は涼司の親友として、選手達の給水を手伝っていた。
リアトリスは道の右側から、ベアトリスは道の左側から。
「お疲れ様でしたー♪
はい!」
ニッコリとして参加者にコップを差し出す。
その飲み物の種類は、以下の三種類。
リアトリス側――ブレンドティー・緑茶・ギャザリングヘクス(味は激甘&激辛の二重不協和音)。
ベアトリス側――ミルクコーヒー・冷たい水・ギャザリングヘクス(味はすごく苦いとしょっぱいの二重不協和音)。
……それって、ギャザリングヘクスは「ハズレ」ってことですか?
「うん。だから僕達、絶対選ばないようにって!」
「一生懸命、祈っているんだよ!!」
2人は異口同音に、愛らしく答える。
しかし悪意のない「いたずら(?)」にはスキルも効かないようで。
参加者達はなぜか「ギャザリングヘクス」を選んでは苦悶した後、魔力を高めて去って行くのであった。
□急こう配の手前・商店街入り口
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、たまたま公用車で観戦に来ていた涼司一行と遭遇した。
「よお! 山葉新校長!」
片手を上げて近づくと、むっとした様子で花音、その後ろからわらわらと黒服共が現れた。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)といった面々の顔も見られる。
涼司の護衛のついでに、沿道警備に救護の手配、リタイア組の回収用意なども行っているようだ。
「へえへえ、それは感心なこって。
ところで、涼司」
エヴァルトは傍若無人に近づくと、涼司に質問した。
「『ヤマハGP』のことだけどよ。
どうして急に、レースなんか開いたのさ?」
「あるものだから使った。
経営者としては、当たり前のことだろう?」
意外そうな顔をしたのは、涼司の方。
「まあ、環菜ならな。でもおまえは……。
……ん? 待てよ。
この突拍子の無さ、ハチャメチャさ、流石は幼馴染みということかっ!!」
おどけた調子で決めつけて、エヴァルトは黙った。
目が違う、と思う。
(こいつ、いま、ひょっとしてすげー「独り」なんじぇねえの?)
ドゴオッ!
コースアウトしてきた選手がエヴァルト目掛けて吹っ飛んできた。
「よし! 俺に任せろおっ!」
……言ったきり、彼は吹っ飛んだ。
かの選手を両腕に抱きとめたまま。
涼司が目をむいてみている。
「だ、大丈夫だ! 涼司。
直、パートナー共が帰ってくるからなああああああああああっ!」
だが、事はそううまくは運ばないもんだ。
パートナーの1人・合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)が買い物から戻ってくる。
「はあ、ここにお目当ての品はないのでありますか。
じゃ、壊れた乗り物の搬送でもするであります!」
そこへエヴァルトがすっ飛んでくる。
ローランダー、受け止めの姿勢に入ったぞ。
「大丈夫であります!
エヴァルト様、自分がしっかと受け止めるであります!
……って、あ〜れ〜!!」
ローランダーは受け止め損なってしまった。
自身もひっくり返って、通行人に助けを求めるが、重量過多で不可能のようだ。
ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が通りかかった。
けれど、彼女は何やら不機嫌そうだ。
「機晶エネルギー伝達用バイパスの修復部品……あ、衝撃吸収剤もストック少ないんだっけ?
ヤマハGPのせいで、お店に行けなかったよ!
こんな辺鄙な商店街じゃ、置いてある訳ないよね?」
総ては、山葉くんが悪いんだ!
がおっと怒鳴る……という訳で、エヴァルトは放っておかれた。
「えーい、腹の虫がおさまらないや!
ラジエータ、調子悪いから、山葉くんに熱風でも吹き付けちゃえ! それ!」
だが、それはアストライトの機転によって止められる。
「よお、ねーちゃん。
昼間っから、商店街で物騒なことはやめようぜ!」
黒服軍団も立ちふさがって、盾となる。
校長たる涼司にちょっかいを出すのは、至難の技のようだ。
パートナー2人に見捨てられたエヴァルトは、更にふっ飛んでゆく。
最終的に商家の塀に激突し、通りかかったミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)に助けられた。
彼女はレースを真面目に応援しつつ、怪我人にヒールを掛けていた。
「もう! お兄ちゃんってば!
そんなところで、1人で遊んでないで!
え? 助けて欲しい?
いいですけど、代わりに……『お嫁さん』にしてくれます?」
……エヴァルトはトドメを刺されて、気絶したそうだ。
気絶した彼に、ジュースを売りに来た宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が声をかける。
「おーい、あんた!
こんなところで寝ていると、山葉に唇奪われちまうぞ!
えっ? キスは賞品だから大丈夫???」
……以上。
閑話休題の皆様、お疲れ様でした♪
■
そうこうしているうちに、レースは最後の直線へと突入だぞ!!
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