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【初心者さん優先】冬山と真白のお姫様

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第三章 アンブッシュ スラッシュ バレット
 柔らかで細い日が川面に反射し、鳥のさえずりが聞こえる。
 これだけ見れば、何の変哲もない普通の山で、奇妙な出来事が起こっているとは思えなかった。
「でも、これは……」
 チョトツー退治のために彼らの好む水場の多い南ルートを選んだトレアドール・メルクリーオ(とれあどーる・めるくりーお)
抉られた地面と散らばる足跡を見つけて呟く。
「誠吾さんの言っていたヌタ場ね。間違いないわ」
 丹念にその足跡を辿り、数と行動パターンを割り出す。
「――数は十。……動きからして、ここを寝床にしているわね」
 結論を出すと、警戒するように辺りを伺う。
 だが、聞こえてくるのは川のせせらぎと鳥の声だけ。他の獣の気配はなかった。
「みんな! ちょっと来て」
 トレアドールは仲間達に声をかけた。

「はー潜伏って苦手。ねぇ、セレアナ。まだ?」
 浅瀬が見通せる茂みに身を隠すセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の青いリボンが不満気に揺れる。
「まだよ。少し大人しく待ってなさい」
 問われたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は状況に飽きたのだろうパートナーの言動を気にした風もなくさらりと流した。
「ここを棲み処にしているのは間違いないんですが……」
 待ち伏せを提案したトレアドールが詫びる。潜んでから、もう一時間が経とうしていた。
「大丈夫だよ。まだまだこれからじゃん」
「うむ。フランの言う通りである。戦いには待つことも肝要なのだよ」
 フラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)が励ますように明るく笑えば、パートナーのアンリ・ド・ロレーヌ(あんり・どろれーぬ)も同意するように頷く。
「そうよ。セレンは早く暴れたいだけですから。気にしなくていいわ」
「あはは。『壊し屋セレン』の名前は伊達じゃないねー」
「ちょっと! フランはともかく、セレアナ! あんた、あたしのパートナーでしょ!?」
 騒然となる茂みの中。 これでは、待ち伏せの意味がない。
 顔を見合わせたトレアドールとアンリが制そうした時、無言で浅瀬を伺っていた井上 佐里鎖(いのうえ・さりさ)が口を開く。
「来たぜ」
 顎をしゃくるその先に四匹のチョトツーの姿があった。

 真っ先に動いたのは待ちかねていたセレンフィリティだ。
 メタルブルーのトライアングルビキニに包まれた健康的な肢体がチョトツーの前に躍り出る。
 相手が人間であれば、その姿だけで十分な挑発の効果があっただろう。
「はぁーい! チョトツーさん」
 にこりと悪戯っぽく微笑むと手にしたアサルトカービンを空へ向けて乱射する。
 勿論、わざとだ。
 これは強い警戒心と臆病さを合わせ持つチョトツーの性質をついた作戦なのだ。
 読み通りにチョトツーがセレンフィリティに向ってくる。
「セレアナ!」
 横に飛びのいたセレンフィリティの背後から、声に応えるようにセレアナが飛び出す。
 次の瞬間、真直ぐに突き出されたランスがチョトツーの体を貫いた。
「ファルコネット砲をよーいなさい! 我に続け!」
 そこにフランの声が響き渡る。
 幼いがどこか凛としたその声に仲間の士気が上がる。彼女のヒロイックアサルトの効果だ。
「承知した。――俺様はギース大公アンリ1世なりっ!」 
 少女を守るように背後から進み出たアンリの声――ヒロイックアサルト――が空気を震わせば、
再びパニック状態になりったチョトツーたちが突進してくる。
「てー!」
 そこへフランとセレンフィリティの銃器が火を噴き、一匹が倒れた。
 銃弾の被害に合わなかった残りの二匹の先には――。
 エペを構えた佐里鎖とトレアドールの姿がある。
 二人はチョトツーの進路を読んだ上で、それぞれ左右に半身をずらす。これでチョトツーの突撃をくらうことはない。
「研修再開のために!」
「俺様は絶対に勝つ!」
 強大な魔力を宿した一撃がチョトツーの体を真っ二つに切り裂いた。