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軍人に恋愛など必要なーい!

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軍人に恋愛など必要なーい!

リアクション

 19:45

 教室の内と外で膠着すること三十五分。篭もった鬼組にゆかりとマリエッタは、いい加減苛立っていた。
 ゴットリープはといえば、ルカルカと真一郎が逃げる際、アイコンタクトのみで見事な連係プレイをして見せたのが忘れられない。言葉はなかったが、二人の交わす視線こそが彼女らの関係を雄弁に物語っていた。
 で、廊下の片隅で壁に向かって体育座り。それがまた、ゆかりとマリエッタの怒りを増幅させる。
「タイムリミットまで、十五分。少しでも敵を減らしておきたいところね。……いいわ、突撃をかけます」
「危険よ、カーリー」
「何もしないで負けたら、自分に腹が立つわ」
「……分かった。あたしも行くわ。フリンガー、盾になって」
「は!?」
 ゴットリープの顎があんぐりと開いた。
「ぼ、僕が? 無理無理無理! やられちゃいます!」
 二人の苛立ちが頂点に達した。プチプチッと何かが切れる音が二回。
「何でもかんでも無理無理言ってるから、女にモテないのよ!」
 マリエッタはもっと酷かった。ゴットリープの手から銃を奪い、その尻を本当に蹴飛ばした。
「四の五の言っとらんで、いかんかいっ!」
 蹴り出されたゴットリープの足元に、豆が集中的に浴びせられる。――やったのはマリエッタだ。ゴットリープは泣きながら走り出した。
「まったく! リア充もうざいけど、非モテだって充分うざいわ!」
「行くわよ、マリー」
「了解」
 二人は頷き合って、そこから飛び出した。
 ちなみに幻舟はというと、突然現れたセオボルトと共に芋ケンピを齧りつつ、玄米茶を啜っていた。若いモンはいいのう、などと言いながら。
 さて。
 教室に篭もっていたルカルカと真一郎は、顔をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくりながら駆けてくるゴットリープに目を丸くした。
「うぇぇぇん、一体、何処のどいつが、僕に何の恨みがあって、バレンタイン・デーなんて作ったんだ〜!? ちくしょう、僕だって、チョコが、彼女が欲しいよ〜!!」
 ……あまりに気の毒。あまりに涙なくしては聞けぬ魂の叫びに、ルカルカの肩からすうっと力が抜ける。
「ルカルカ?」
「……真一郎さん、ルカ、あの人に撃たれてあげようと思うの」
「何を言っているんです」
「彼は愛があれば人は強くなれるってことを知らないのよ。ルカを撃てば、少しは気が晴れると思うの。せめて、それぐらいは……大丈夫。もしバレンタインが中止になっても、ルカは真一郎さんを心の底から愛しているから!」
「ルカルカ!」
 真一郎が止める間もなく、ルカルカは教室の外へ飛び出した。
「さあ、撃って! でもこれで気が済むとは思えない! あなたに必要なのは愛よ!」
「そんなの貰えるもんなら欲しいよ!」

 パシッ!!

 豆が当たった。だがそれはルカルカではなく、ゴットリープにだった。
「何を呑気なことを言っていやがる。仁も結構だが、出来ればもうちょっと知を使ってくれ」
 なかなかの美少年であった。ルカルカのパートナー、夏侯 淵(かこう・えん)は「三国志」における英雄だが、今はただのチビ――いや、少年である。ひたすら隠れ続け、銃と一体化し、殺気も害意も持たずにただ待った。そして、ただ引き金を引いた。
 その徹底して己を殺した仕事に、ゆかりもマリエッタも感嘆する。
 だが。
「ルカ! そこをどけ!」
 夏侯 淵が怒鳴るより速く、ゆかりの二丁拳銃が連続して火を吹いた。ルカルカの胸に豆が五発当たった。
「ルカ!」
 叫んだのは真一郎だ。飛び出しかけた彼に、マリエッタが銃を乱射する。
「クッ!」
 真一郎も応戦する。マリエッタの弾が切れ、ゆかりが真一郎の前に出た。マリエッタは教室に飛び込み、銃を殴打用の武器として構えた。
「あたしはそんなに武術は得意ではないけど」
 マリエッタはにっこり笑う。
「その名も高き、夏侯 淵と戦えるのは光栄の至りだわ」
 夏侯 淵はAIアークティクウォーフェアに安全装置をかけ、置いた。ふっと笑う。
「人生とは面白いものだ。――来な。相手になろう」
「その身体で素手で戦えるのかしらね!」
「お前今、ちみっ子って思ったろう!?」
 四人がそれぞれバトルを繰り広げている間、ルカルカはひたすらに真一郎の勝利を願い、撃たれた上に自分は何のストレス解消も出来なかったゴットリープは、我が身の不幸をひたすら嘆いた。
「やはり芋ケンピと玄米茶は最高の組み合わせですな」
「まったくじゃ」
 パートナーの嘆きをよそに、幻舟は新しい茶飲み友達とのんびり芋ケンピ談義に花を咲かせていた。