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リアクション
イン・ザ・キッチン
「お願いしま〜す」
ルーシェリアが笑顔で手渡したチラシを見てロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)目を輝かせた。
「夏のカフェに合う新メニュー募集だと?? 面白そうじゃねえか!!
パーティー、しかも夏!となればやっぱ見た目にきれいで冷たいシャーベットの出番だろう! なぁ!」
ロアを一瞥して、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)はしょっぱい顔をしてため息をついた。
「……私の氷術を使うつもり……だな」
「ん? 嫌ならウェイターも募集してるぞ?」
「……冗談は休み休み言え。 ……給仕として衆目に晒されるよりはマシだ。裏方に付き合おう」
獣人のイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)が、自分の毛皮に覆われた体を見下ろしながら言った。
「うーん……僕今抜け毛の季節だから、飲食店で働くのはちょっと避けたほうがいいよね」
「チラシ配りをする者も足りていないのではないか?」
とレヴィシュタール。ロアがそばにいるパラミタセントバーナードを見下ろした。
「ワン公にも手伝わせよう」
イルベルリは犬の頭をなでた。
「それじゃ僕も犬君と一緒に宣伝に行ってくるよ。飲食店だしね。
犬君と一緒にチラシ配ってくることにするよ」
そばにいて同時にチラシを受け取ったクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、歓声を上げた。
「うわあ、かわいい制服だって。私ウエイトレスに応募しよう!」
「では、私は新メニュー開発を」
エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が小首をかしげる。
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)もチラシをみて乗り気の様子だ。
「新メニューになりそうな料理か。いいね。私はそちらで応募してみよう。
そちらの方々もお店までご一緒しましょう」
6人は連れ立って和気藹々とたまカフェに向かった。クレアは上品なかわいさを狙ったアイスココアの制服を選んだ。貰った名札の自分の名前の上に「笑顔と真心をあなたに」と書きこむ。
「せっかくのパーティーだから元気よくいかないとね!
お料理の名前かきちんと覚えていかないと。お客さんに説明できるなくちゃね」
イルベルリはささっとアイスココアのベストを選んで羽織った。パラミタセントバーナードにも、揃いのベストが貸し出された。首にはチラシを入れたカゴ。なかなかかわいらしい。
「もふもふコンビでいい感じですね」
フィリップ君が犬の頭をそっとなでた。
「それじゃ僕はチラシ配ってくるね。
あ、そうだ!
【ティータイム】に使うクッキーを、チラシと一緒に配ってくるよ。これなら休みつつも宣伝できるよね
カフェのほうにもサービスメニューで出したらいいんじゃないかな」
2つの大籠いっぱいにクッキーを入れ、イルベルリは片方を手にすると、犬とともに陽光の元へと出て行った。
一方ロアは厨房で積み上げた果物を前に、不敵な笑みを浮かべる。
「食材ゲット! さあシャーベットを作るぞ。お前の出番だ!」
レヴィシュタールが嘆息しつつ、食材の様子を見ながら氷術の加減調整をシミュレートし始めた。
「今度はシャーベット作りか……私の【氷術】はこんなものに使うためにあるのではないのだが……。
肉の冷凍の次はシャーベットか」
ロアは一人ぶつぶつと、イメージングをしている。
「スイカやキウイのシャーベットには種をイメージしたビターチョコ。
オレンジ、メロンのシャーベットには同じくホワイトチョコを入れてと。
チョコを食うことで冷たさを緩和しつつ味わってもらおう。完璧だ」
「スイカにキウイ、オレンジにメロンか……」
ぶつぶつ言いながらもレヴィシュタールはフルーツと、それに合わせられた糖分や洋酒の配合比率に合わせた、氷結の加減を検討し始めた。
「……ロアのせいで私の【氷術】は無駄な部分にに磨きがかかっている気がする」
涼介はざっと食材のチェックを済ませると、ちょっとクラシカルなメニューもいいかな、と、ナポリタンとオムライスを作ることにした。
「ナポリタンはたまねぎ、ソーセージ、ピーマン、マッシュルームと昔ながらの喫茶店風で。
オムライスもオーソドックスにチキンライスでいきましょう」
クレアがぴょん、と飛び跳ねた。
「うわぁ、おいしそう!」
「ケチャップ単体ではなく、ベースにウスターソースと少量の牛乳でコクとまろやかさを出しましょう。
オムライスはチキンライスの上に半熟オムレツを乗せて二つに割り。ふわとろ卵の出来上がり」
「めもめも。それが売りね! うーん、聞いてるだけでおいしそう!
お客様にきちんと説明しなくっちゃ」
エイボンの書は、しばらく考え込んでいたが、
「今回作るのはミルクセーキにします。
目の前で作ることで出来立ての冷え冷えを試飲していただこうと思います」
「それもステキね!! せっかくだから、楽しいパーティにしなくっちゃ」
カランカランッ
ピンクのテントの外観からは想像もつかない、アンティークのドアベルが軽やかな音を立てる。
「いらっしゃいませ〜!!」
クレアは勢い込んで、厨房から飛び出すようにして出て行った。
ドアを開けて入ってきたのは、金元 ななな、雅羅・サンダース三世、イングリット・ネルソンの3人である。アイシャ・シュヴァーラの姿はない。
「わぁあ、すっごくステキだねぇ!!」
「へ〜〜、外からは想像もつかないわね。中はずいぶんお洒落なんだわね」
「まぁ、このドアベル、昔の地球、ヨーロッパのアンティークですわ」
クレアがすぐに専用の予約テーブルに3人を案内する。
「急なお願いに応じてもらって、どうもありがとう」
たいむちゃんも奥から出てきて、3人に挨拶をし、着席した。
「アイシャ様は、少し遅れてロイヤルガードの方とお見えになるそうですわ」
イングリットがたいむちゃんにアイシャが同行していない旨説明をする。
「暑かったでございましょう、新メニューの飲み物がすぐできるそうですから、お出ししますね」
クレアは即座に厨房にとって返し、エイボンの書を伴って、各種材料、人数分のグラスを載せたワゴンテーブルを押してきた。エイボンの書は丁寧にかつ手際よく、冷やしておいたシェーカーに牛乳、砂糖、バニラエッセンス、新鮮そのものの卵、砕いた氷を入れてゆく。
「こちらをシェイクいたします」
バーテンダーのような、慣れた手つきでシェイカーを振る。
「出来立ての冷え冷えを飲んでいただきたいと思います。
皆様、これがわたくしオススメのミルクセーキです。どうぞお召し上がりくださいませね」
「うーん、冷たいっ!! 美味しい〜!!」
ななながアンテナのようにぴょこっと突っ立った毛をゆらゆらさせる。
「暑い中歩いてきたから、これは嬉しいな。甘すぎないし、美味しいね」
「上品なお味ですわね。ミルクセーキというのですか」
雅羅とイングリットも美味しそうに飲み干した。たいむちゃんはニコニコとミルクセーキを味わう。
ウェイターとして応募してきたレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)とハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が、洗練された都会的なデザインのアイスコーヒーの制服に身を包む。二人ともなかなかさまになっている。
「レリウス、お前な……折角の非番くらいゆっくりしろ……と、いつもの俺なら言うだろう。
だが今回は別だ。パーティーとかって何か楽しげじゃねえか。
なかなかいい感じの店だし。楽しめそうだ」
飾り付けられた花や、厨房で進行中の試食メニューの様子を眺めて、ハイラルは楽しそうだ。レリウスはふっと美しい顔を翳らせた。
「……ハイラル、これは遊びではないんです。俺は家庭科が致命的に苦手なようですからね。
執事の修練をしたと言うのにこれでは大変まずい。
いわば、家庭科の能力を磨くためのメイドの修練の一環としてのバイトなのです」
ハイラルがまじめくさった顔を作って、レリウスに向き直る。
「はいはい、「クラス修練のため」だもんな。
レ、レリウスが……メイド…ッ……!」
体を震わせて、笑いをこらえるハイラルに、レリウスが厳しい視線を向ける。
「いいですか? 戦闘に関する技能だけでは、教導団ではやっていけないのですよ」
ハイラルは聞いちゃいない。フリルいっぱいのかわいらしいストロベリーラテの女性用制服を手にしてハイラルレリウスに向き直った。
「……レリウス、お前メイドなんだからストロベリーラテのメイド服とかどうだ?
ぶふっ!だ、だめだ…わ…笑いが……ッ!」
「……そうですか、それは俺に対する挑発ですね?
分かりました」
体を二つ折りにして笑いこけるハイラル。雷雲のような表情のレリウスがつかつかと……。
少々の間をおいて、涼介の声が厨房から問いかけてくる。
「どなたかロアさんと俺の試食プレートを運んでいただけませんかー?」
「はい、ただいま」
レリウスは息ひとつ切らさず、スマートに厨房へ向かい、試食用プレートを万博コンパニオンたちの元へと運んでいった。
「こちら、フルーツシャーベットに、オールドスタイル・ナポリタン。
それに、ふわとろタマゴのオムライスでございます」
「うわぁ、可愛い!」
なななが叫んで、手を打ち合わせた。
「タマゴがふんわり、とろーっとして、チキンライスといい感じ!」
「これが、ナポリタンというものなのですか。
美味しいものですのね」
イングリットは初めて食べるナポリタンが気に入った様子だった。
「シャーベットも、種が入ってるのかと思ったら、チョコレートなのね」
雅羅がシャーベットを味わいながら言う。なななも溶けないうちに、と急いでシャーベットを口に入れた。
「凝ってるぅ。冷たいからチョコレートがパリパリッとしてる」
一方、控え室では……。
レリウスにノックアウトされストロベリー・ラテの制服を着せ付けられたハイラルが、伸びているのであった。
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