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長期休暇廃止の危機

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長期休暇廃止の危機

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三章『盲点』

 音楽室。
 そこでは涼司を待つ人物、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)がいた。
「山葉校長、お久しぶりですわ」
 漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を身に纏い、優雅に一礼。フワリと揺れた綺麗な髪が上品さを醸し出す。
「次の試験で成績が悪かったら全生徒の『長期休暇の取り止め』……ですか」
 確認の意味を含めた質問。囁くように問われた涼司は決断に至った経緯を話す。
「前までエリート校だったが、今では色々な奴が入学している。そのせいで学園全体の成績が下がったのは否めないが、別に成績が悪くなったから駄目だといっている訳じゃないんだ。俺が重視しているのは結果よりも過程。取り組む姿勢を他の生徒に見せればそれに感化され、意欲奮起、結果も向上するかもしれないだろ?」
 何とも涼司らしい考えだった。
「あら、そうでしたの」
 仰々しい話の入り方とは裏腹に、この話題をあっさりと打ち切った綾瀬は新たな質問を投げかける。
「それはそうと、貴方様はお勉強をなさらないのですか? 理事長兼校長ではありますが、貴方様も一人の生徒ですわよね? それらの仕事が忙しいからと言って、まさかお一人だけ試験免除なんて事は『当然』ありませんわよね?」
「……あ」
 完全に盲点だった。
 向上に取り組むのは生徒。そして涼司は生徒であり発端者。率先しなければならない立場だ。綾瀬に言われるまで気付かなかった涼司。
「あら、お忘れになられてましたの?」
 青ざめる涼司をクスクスと忍び笑いを漏らしながら観る綾瀬。
「今からでも遅くはありませんわよ? 御誂え向きにピアノもあることですし、歌唱の練習をなさってはどうです?」
 鍵盤を叩くとポーンと音が鳴る。
「やるしかない、よな」
 少し音の外れた歌声と、それを楽しむ空気が部屋を満たした。