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新しい日常

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「ハルカが到着したそうだ」
 観光を終えてイルミンスールに到着したらそちらに合流するよ、という連絡が、ザンスカールに到着したハルカを迎える黒崎天音から入り、パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、それを、イルミンスールの食堂に集まる光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)らに伝えた。
「そろそろか。わっか、こんなモンでええかのう」
 イルミンスールの食堂の一角。
 そこはパーティー会場のように飾りつけされている。ハルカの歓迎会を行う為だ。
『祝! ハルカ・エドワーズ入学!』と描かれた翔一朗手製の垂れ幕は、既に壁に貼り終え、折り紙を小さく切って作った輪を繋げたものを、翔一朗とパートナーのアーヴィン・ウォーレン(あーう゛ぃん・うぉーれん)は延々と作り続けていた。
 テーブルの上は、折り紙の輪がこんもりと山になっている。
「それくらいでいいと思います。そろそろ飾り付けに入りましょう」
 学友、友人達の友人が編入すると聞いて、関谷 未憂(せきや・みゆう)も、歓迎会の手伝いを買って出た。
 歓迎会に使わせて貰うテーブルに、テーブルクロスを広げる。
 それから、翔一朗と共に、壁に折り紙の輪を飾り付けた。

「そういえば、光臣さんも、イルミンスールへ転校して来たんですよね」
 未憂は翔一朗に言った。
 翔一朗は、ハルカの入学に合わせて、イルミンスールに転校したという。
「まあな。ダチと一緒の方が楽しいけえ」
「何だか素敵ですね」
 未憂は微笑んだ。
 そんな翔一朗も、ハルカを歓迎する側に立っている。
「イルミンスールへようこそ。歓迎します、光臣さん」
「おう。ありがとうな」

「みゆう。花摘んできたよ」
 未憂のパートナーの魔女、リン・リーファ(りん・りーふぁ)が、精霊のプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)と共に、両手に花を抱えて戻ってきた。
「そっちの、花瓶がまとめてあるテーブルに置いてくれる? 今生けるから」
 未憂は二人が摘んできた花を花瓶に飾って行く。
「プリム、これをテーブルの真ん中に置いてね」
 未憂に頼まれたプリムは、無言で頷き、花瓶をテーブルに置いて行った。

 ブルーズは、料理を担当した。
 ケーキやお菓子を中心に、食堂の厨房を借りて次々と作って行く。
 翔一朗は、ハルカの好きな料理を出してあげたいと思ったが、そういえば知らなかった。
 様子を見て、食堂のメニューの中になかったら、その場で作ってやれたらいいか、と思う。
「甘いものだ! わーい!」
 ブルーズが並べる品々を見て、リンが歓声を上げた。
「あたし味見してあげよっか?」
「そっちに別にしてあるから、皆にも差し入れしてやってくれ」
 ブルーズの言葉に、
「ありがとう!」
と皿を持って、リンは未憂の所へ駆け出す。
「みゆう、お菓子! 差し入れ!」
「あ、そういえば私も少し作って来てるのよ。一緒に盛り付けて貰えるかしら」
 未憂は用意してきたお菓子を、ブルーズのところへ持って行ってとリンに渡す。
「じゃあじゃあ、あたしはギャザリングヘクスを……」
「こらこら」
 それは未憂に止められた。
「ちぇ。そうだ、ねえねえ、あと、食堂のメニューを、ちょっとずつ出してあげたらいいんじゃないかな!
 あたし、食堂の人に頼んでくる」
 未憂に倣って席にカップを置いて行きつつ、そんな会話を眺めながら、プリムは、自分が初めてイルミンスールに来た時も、紅茶とお菓子でもてなして貰ったなと思い出した。
 食堂からの差し入れ、OK貰ったよー、と言いながら、リンが戻って来る。
「楽しい歓迎会になるといいねっ」
 うん。



「最後は、此処です」
 ソア達が、ハルカを食堂に案内する。
 ハルカが食堂に入った瞬間、沢山のクラッカーが鳴り響き、ハルカはびっくりして足を止めた。

「「「ハルカ、入学おめでとう!」」」

 傍らのソアや美羽、刀真達や、待ち構えていた翔一朗や未憂、天音らが、一斉にハルカを迎える。
「みなさん」
「さあ、座れハルカ! 歓迎会じゃ!」
 驚いて、言葉もなく立ちすくむハルカを、翔一朗が促す。
「あ、ありがとうなのです!」
 席に着く前に、ハルカは慌てて、礼を言った。
「とってもとっても、嬉しいのです。みんな、これからもよろしくなのです」
「堅苦しい挨拶は抜きじゃ。楽しもうぜ」
 笑う翔一朗に頷く。
「みっちゃんも、入学おめでとうなのです。一緒で嬉しいのです」
「そうだね。みっちゃんまでイルミンスールに転校しているとは思わなかったよ」
 天音達も、そう笑う。
 未憂達が給仕をして回る。
「ハルカとみっちゃんの入学に乾杯!」
 賑やかな歓迎会が始まった。


 いつものように、パートナー達と訪れた食堂で、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、その片隅を使い、ハルカの歓迎会が催されているのを見かけた。
「何をなさっているのでしょう?」
 魔女のユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が首を傾げる。
「歓迎会のようですね」
「新しく、イルミンスールの学生になった者がいるのだな」
 ヴァルキリーのイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)も、その様子を眺める。
「折角ですから、ボク達も、挨拶してきましょうか」
「アルティアも、ご一緒させていただきます」
 剣の花嫁、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)がそう言って、三人とも近遠に続く。

「こんにちは。主賓は、あなたですか?」
「おう、ハルカの歓迎会じゃ!」
 横の翔一朗がそれに答えた。
「初めまして。イルミンスールにようこそ。
 ボクは在校生の近遠です、よろしくお願いしますね」
「ハルカなのです。よろしくお願いしますのです」
 ハルカはぺこりと会釈する。
「まあ、在校生と言っても、去年入ったばかりで……そこの先輩方からすれば、新米ですけれどね〜」
「あたしはユーリカ。
 そこの近遠ちゃんのパートナーで、魔女術学科生ですわ。よろしくお願いしますわね」
 続けてユーリカが自己紹介する。
「よろしくなのです。
 ハルカのパートナーは、来てないのです。紹介できなくて、ごめんなさいです」
「事情があるのだな。
 我も、そこの近遠のパートナーで、イグナというのだよ。
 大抵、この三人が危ないことに巻き込まれないよう、見守っているのだよ。よろしく頼むのだよ」
「よろしくなのです。
 イグナさんは皆のおねえさん役なのですね」
「……まあ、今やすっかり保護者のようになっているやもしれぬな」
「アルティアも近遠さんのパートナーで、アルティアというのでございます。
 ドルイド学科とルーン学科に在籍しているのでございます。よろしくお願いいたしますわね」
 アルティアも、そう名乗る。
「ハルカなのです。
 学科はまだ、決まってないのですけど、一緒になったらよろしくなのです」
「ボク達も、歓迎会に混ぜてもらっていいですか?」
「嬉しいのです」
 ハルカは笑顔で応じる。
 ハルカが、シャンバラ大荒野での巨人との戦の際に、オリヴィエ博士のゴーレムに搭乗していたことを、近遠達四人は知る由もなく、お互い初対面として挨拶する。
 勿論ハルカも、彼等の姿を憶えてはいなかった。
「テーブルを増やしますね」
 未憂が四人を案内し、ブルーズがてきぱきとそのテーブルに食事やお菓子を乗せて行く。
「飲み物をどうぞ。色々ありますが、どれにしますか?」
 ソアが、四人に空のカップを渡して訊ねた。



 ザンスカール観光から、学校への編入挨拶、イルミンスール案内、歓迎会までハルカに付き合って、ヨシュアは、しばしばカメラを取り出してはハルカ達に向けて、シャッターを切っていた。
 また同様に、ハルカにずっと付き添って、その様子をビデオに収めていたカルキノス・シュトロエンデと夏侯の案で、皆で銘々に、オリヴィエへのメッセージを、ビデオレターに収めた一幕もあった。
 宴もたけなわになってきたところで、翔一朗が、カメラを構えているヨシュアを見て、ふと思いつく。
「どうじゃ。皆で集まって記念写真を撮って貰うのは。
 博士にも、この様子を見せてやりたいしのう」
「それは素敵ですね!」
 ソアが賛成し、ハルカも喜ぶ。
 そういえば、とヨシュアはじっと翔一朗を見た。
「このカメラ、ミツオミさんのご兄弟に貸して貰ったんですが……」
「は? 兄弟!?」
 目を丸くする翔一朗に、天音や刀真が、ぷ、と小さく吹き出す。
「その話は後で。あの垂れ幕の前がいいんじゃないかな」
 ハルカを中心に、歓迎会に集った面々が揃う。
 それをカメラ越しに見て、ヨシュアは微笑んだ。



◇ ◇ ◇



 空京。
 とある工房の控え室。
 貴金属で作られた金魚が、オリヴィエの周囲を涼しげにゆらめき泳いでいる。
 天音からの、暑中見舞い代わりの品だ。

 かさり、と動くオリヴィエの手の中には、沢山の写真があった。
 ザンスカールの街の中、イルミンスール学校内、そして食堂での歓迎会。
 ハルカとその友人達が、写真の中で楽しそうに笑っている。
 ザンスカールを発つまでに、ヨシュアが撮影した写真は、翔一朗が全て現像して渡していた。
 帰還したヨシュアは、面会を希望して直接ではなく、騎士を通じて写真を届けた。その方が早いからだ。
 オリヴィエは、その内の一枚を抜き取った。
 歓迎の垂れ幕の前、見慣れた顔と、見知らぬ顔が、ハルカを真ん中にして集まっている。
 ピンでそれを壁に貼り、残りを引き出しにしまうと、深く椅子に腰掛けた。
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 
ハルカ「お疲れ様なのです! とても楽しかったのです」
トオル「お疲れ。俺も楽しかった。海もいいけど、プールもいいな。皆また遊ぼうぜ!」
ハルカ「とーるさんは、これから宿題なのです」
トオル「いきなり現実に戻すんじゃねえよ」
ハルカ「図書室で勉強するのです?」
トオル「あー、図書室。図書室ね……」
ハルカ「図書室嫌いなのです?」
トオル「シキは最初、あの図書室に入れなかったんだぜ。入り口が開かなくてさー」
ハルカ「鍵がかかっていたのです?」
シキ「トオルと契約した頃、字が読めなかった」
トオル「それが、読み書きを覚えた途端、俺より深い階層に入れるようになりやがって……」
ハルカ「すごいのです。ハルカもこれから頑張るのです」
トオル「楽しい学校生活をな。それじゃ、皆またな!」
ハルカ「これからもよろしくなのです」