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森の調査その2

「ここだけ大きく地質が違うようですね……興味深いです」
 今まで歩いてきたところとは明らかに色の違う地面を見つけ、叶 白竜(よう・ぱいろん)は匠のシャベルを使い掘って詳しく調べる。その様子は表情こそほとんど変わっていないが心なしか楽しそうに見える。
「なんて言うか……本当に好きなんだねえ。山とか森が」
 その様子をみて白竜にそう言ったのはパートナーである世 羅儀(せい・らぎ)だ。
「どうやってその山や森ができたかを知ると、歴史が見えてきますからね。楽しいですよ」
「そういうもんかね」
 羅儀としては土を掘っているくらいなら酒を飲んだり女性を口説いている方が楽しいと思う。今回の調査も村長が若い女性だったから張り切っている部分も大きかった。
「しかし……この地質ではどうやっても街道を作るには向きませんね。土が柔らかすぎますし、雨がふればドロドロになります」
「ふーん……なんでここだけそうなってるんだろうな」
 白竜と羅儀が調べてきた範囲で地質が大きく違うのはここだけだ。直線距離にして30mほど先はもとの地質に戻っている。
「分かりませんが……なんらかの外的要因があるのでしょう。つい最近まで呪いを受けていたりしたのかもしれません」
「呪い……ねぇ。それに振り回されるのは人だけじゃないんだな」
 呪いがふりまく災厄を軍にいる二人はいろいろな事案で報告を受けている。例えば『仮面をつけた異形』などは呪いの最たるものだろう。

「あれ? もしかしてそこにいるの白竜?」
 少しだけ暗い雰囲気になっている二人の間に陽気な声がかけられる。
「君ですか……壊し屋セレン」
 白竜にそう呼ばれたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は二人のもとに近づいてくる。その隣には彼女のパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の姿もあった。
「白竜もこの調査に参加してたんだ。あたし気づかなかったよ」
「……集会所で会っていたでしょう?」
「だって、そんな山男みたいな格好してたら気づかないわよ」
 白竜の格好はターバンと汚れたオーバーオールだった。無精髭もあいまって遠目から見れば山男にしか見えないだろう。
「今回は一個人としてこの調査に参加しています。そう言う君こそ珍しく軍服ですね」
「正式な依頼だからね。あたしだってたまにはまじめに仕事を……」
「セレンのまじめは仕事の途中にきのことか食べられそうなのを拾ってくることも含まれるのね。私驚きだわ」
 うぐっとセレアナの冷静な突っ込みにセレンは痛い所を突かれたという顔をする。
「……まぁ、なんだかんだで盗賊とかが隠れられそうな場所を手早く見つけたりと仕事はしてるはいるけどね」
 そうさり気なくフォローをいれるのは付き合いの長さか気配りの人なのか。セレアナのフォローにセレンはまた得意げになる。
「……軍服を着ているからには君たちは教導団の代表です。規律を持って行動してください」
「あたしなら大丈夫よ。だってあたしは仕事のできるお姉さんだから」
 本当に大丈夫かと白竜は思うが何を言っても無駄そうでため息をつく。軍が無駄に明るい集団だと思われたらいろいろと大変だと頭を悩ます。セレアナも調子に乗ってるセレンはいつものことなのでツッコミはいれない。代わりにセレアナは羅儀にツッコミを入れる。
「けど、羅儀も山男みたいな格好してるんだね。色男が泣いてるよ。そんなんで女の子口説けるのかしら?」
「いいんだよ。今日はワイルドな感じで決めてるんだから」
 羅儀の容姿からすると野性的というより牧歌的な雰囲気のほうが強いが、セレアナはそこにはツッコまない。
「ふーん……どうせ村長狙ってるんでしょうけど、だとしたら急いだほうがいいわよ? なんかレズっぽいのが狙ってたし」
 レズっぽいのってどの口がそれを言うんだと羅儀は思うが、それ以上にセレアナの情報に危機感を覚えた。
「白竜、今すぐ村に帰ろうぜ」
「……そうですね。ここから先はすでに別の方が調査をしているようですし」
 教導団のイメージが更に心配になる白竜だったが、時間的にもそろそろ皆が調査を終えて帰り始める頃だろうとそう返事をする。
「じゃあ、あたしたちも帰ろうか」
「いいけどセレン。そのどう見ても毒のあるきのこは捨ててから帰るのよ」
 えーっと文句をいうセレンを連れてセレアナも村へと戻っていった。


「うー……地面見てるだけなんてつまんないよー。もっと何か作ったりしないの?」
 地質や地盤の調査という変化の少ない活動に雲入 弥狐(くもいり・みこ)は不満の声を上げる。
「あ、ちょうちょだー」
 そして飛んできた蝶々に心を奪われて弥狐は木々の間を走っておくに向かう。
「行っちゃダメよ!……もう」
 弥狐の契約者である奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は制止の声をかけるが弥狐は止まらず沙夢は姿を見失う。
「……どうしようかしら」
 沙夢は悩む。ここがゴブリンやコボルトの縄張りではないことは既に確認しているが調査が充分でない森では何があるか分からない。追って連れ戻したいが一緒に調査をしている人達に迷惑がかかる。
「行ってきていいぜ? あとは僕らだけでも十分だ。サポートありがとう。助かったぜ」
 沙夢がサポートしていた人たちの一人トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)はそう沙夢に言う。
「ごめんなさい。ありがとう」
 その言葉に後押しされた沙夢は弥狐を追っていなくなる。

「それでどうだ? テノーリオ。全体として感想は」
 沙夢がいなくなった所でトマスはパートナーにここまでの調査の感想を聞く。トマスのパートナー、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は特技:土木を持っているため地質調査にはうってつけだった。トマスはテノーリオのサポートに回り、そのトマスも含めたサポートを沙夢と(一応)弥狐が担当し調査を進めていた。
「少しばかり地盤が緩い所があるが、そこを補強なり避けるなりすれば街道作るのに問題ないぜ」
 そう言いながらもテノーリオは作業の手を止めず調査をすすめる。今回の街道作りの計画に自分の特技が活かせるからか、単純に街道を作るというのにやりがいを感じているのか、今回の調査でテノーリオは気合が入っていた。
「そっか。……しかし街道か。あまり自然を壊したくないよな」
「それは今回参加している調査員たちはみんな思ってることだと思うぜ」
 トマスの言葉にテノールはそうフォローをいれる。
「……そうだな。そのために今僕たちは調査を頑張ってるんだもんな」
「そういうことだ。もうひと頑張りだ。一気にやろうぜ」
 そう言って朗らかに笑うテノーリオにトマスも笑う。
「ああ。村の人達のためにもな」
 そうしてトマスとテノーリオは調査に気合を入れて再開した。

「こんなところにいたのね……それは……リス?」
 弥狐に追いついた沙夢は弥狐がリスを抱いていることに気づく。
「沙夢……この子怪我してるみたい」
 見てみると足を怪我しているのが分かった。
「ここじゃ治療はできないわ……村に連れて帰り…………誰!?」
 ガサゴソと草葉が動き沙夢は警戒の声を上げる。声に呼応するようにして出てきたのは一匹のゴブリンだった。
「ゴブリン……ここは彼らの縄張りじゃないはずなのに……」
 そう言いながら沙夢は弥狐と怪我をしたリスを守るようにして前に立つ。
「大丈夫だよ沙夢。あの子からは敵意を感じないもん」
 弥狐に言われ沙夢はゴブリンの様子を伺う。確かに殺気や敵意といったものは感じない。
 そうして観察をしているとゴブリンは何かを足元におきそのまま去っていく。
「なにかしら……これは……薬草?」
 ゴブリンが置いていったものを拾ってみるとそれは村で使われているという薬草だった。
「もしかしてこれを私たちに渡すために現れたのかしら」
「うん。きっとそうだよ。この子を助けて欲しかったんだよね」
 そう沙夢も弥狐もゴブリンの行動を受け取りリスの治療に薬草を使う。
「でも、どうしてあのゴブリンは一匹でここにいたのかしら。ここのゴブリンは群れで行動しているという話だし、縄張りの外を一匹でなんて」
 沙夢はそこが気になった。
「あたし、実はずっと殺気のようなものを感じてたんだ。もしかしたらずっと監視されてたのかも」
「もし、そうだとして、リスが怪我しているのを見過ごせなかったのだとしたら……」
「うん。きっと仲良くなれるよね!」